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第1部 第23話

太陽が、水平線に近づいてきた。

海岸の人影も少なくなっていく。


「そろそろ、引き上げるかー」


天野の一言に、みんな「うん、うん」と頷き、

帰り支度を始める。


「よし、6時の電車に乗るからな!みんな、遅れるなよ!」


とたんに、みんなの手のスピードが速くなる。

私も、みんなにつられて、というよりは、天野がそう言ってるから、急いで身体にバスタオルを巻き、

茜と一緒に脱衣所へ駆け込んだ。


やっぱり、天野ってなんか人を動かす力がある。

いっそ将来は政治家とかにならないものか。

一票入れてやるのに。


「舞。ブツブツ言ってる暇があったら着替えなよ。天野君が困るよ?」

「へい」

「そう言えば、お昼、森田君と2人で食べてたね」

「あ・・・ゴメン」


思わず謝ると、茜がさっぱりした笑顔で言った。


「どうして謝るの?別に、気にしてないし」

「そうなの?だって、茜・・・」

「森田君はもういいの。それに今日は楽しかったし。来てよかった!」

「そっか」


どうやら茜は本当にもう森田のことは振り切れたみたい。

私も早く「もういい」って心から言いたいのに・・・

まだちょっと無理みたいだ。


お昼ご飯の後、森田はまた午前中とは違う女の子達に捕まり、

私は全然一緒に遊べなかった。

そのせいで、どうしても森田がどこで誰といるのか気になり、

気がつけば森田を探していた。



今もまた・・・


更衣室を出ると、森田が3人の女の子と話している。

かなり積極的に森田に言い寄ってた女の子達だ。


「森田クン、夕ご飯、一緒に食べてこーよ!」

「ごめん。これから用事あるから」

「えー!?じゃあ、また今度、会ってくれる?ケータイ、教えて?」


女の子達は、森田の返事を聞かずに素早く自分の携帯を取り出した。

こうなると森田も「いやだ」とは言えず、渋々鞄に手を入れる、


と、同時に、天野の声が響いた。


「急げ!電車出ちまうぞ!走れ!」


その声が合図となり、ダラダラと更衣室から出てきていた子たちや、

森田たちのようにしゃべってた子たちが一斉に走り出す。


私は思わず、「天野!グッドタイミング!」と叫びたくなった。

が、それより早く、森田が天野の横をすり抜ける時に、天野の腰をポンと叩いた。

まるで「ありがとう」とでも言うように。


・・・もしかして天野。

森田を助けるためにわざとみんなを急かしたのかな。


やるじゃん。



ならば私も、と、私は電車に乗り込むと素早く森田の横を陣取った。


「・・・なんだよ、俺を襲う気か?」

「私に襲われるのと、さっきの女の子達に襲われるの、どっちがいい?」

「・・・どっちも嫌だ」


そう言いながらも、森田はホッとしたように、私とは反対側の電車の壁にもたれた。


さっきの女の子達は、それでも森田に近づこうとしたけど、

私はまるで「森田に大事な話があるんです」的な雰囲気を作って、

女の子達を遠ざけた。


しかし・・・「大事な話」なんぞ何一つない。


「あー・・・森田」

「何、怖い顔してんだよ」


誰のためだと思ってるのよ!


「・・・さっき言ってた『用事』って・・・デート?」


どうでもいい、というよりむしろ、聞きたくないことだったけど、

これくらいしか「大事な話があるんです」的雰囲気に適した話題が見つけられない。


「うん」


あ、そう。


「じゃあ、今日連れてきたらよかったのに。それとも、何?もしかして、

『あわよくば、他の女の子を引っ掛けよう』とか思ってたわけ?」


引っかかってる私が言うのも何なんですが。


「は?・・・三浦、まだそのネタ引っ張るわけ?いい加減飽きたぞ」

「ネタ、って。あのね」

「笑いが取れなくなったら、ネタ変えしないと客は引くぞ」


誰だ、客って。


「『俺の彼女』ネタじゃ、そうそう面白くないしな。次は『三浦の彼氏』ネタで行くか」

「・・・いないし」

「わかってるって。ネタなんだから、ホントでもウソでもいいだろ」


そうだけど。

って、ええ?


「も、『森田の彼女』ネタは、本当だよね?」

「え?んな訳ねーだろ」

「・・・」

「もしかして、本当に俺に彼女がいるって思ってたのか?」


思ってた!!!!!


「だ、だって、今朝・・・!」

「お前が、身長はどーだ、とか、綾瀬学園がこーだ、とか、ネタ振ってくるから、

乗ってやっただけだ」

「・・・」

「第一、綾瀬学園に行った時、三浦は俺とずっと一緒にいただろ。いつ逆ナンされたってゆーんだよ」

「・・・」

「それに、あの時彼女ができたんなら、俺があの時既にあの辺りに詳しかったことの説明になんねーだろ」

「あ」


そう言えば。


「俺の父親、教師だって言っただろ?綾瀬学園に勤めてるんだよ。

だからあの辺のこと、ちょっと知ってるだけだ」


・・・なんてこったい。


森田がわざとらしくため息をついて、肩を落とした。


「あー、お前って疲れる奴」

「う、うるさい!元はと言えば、あんたが・・・!そうだ、夏休みに入る前だって、

彼女いるって言ってたじゃない!アレが冗談だとは言わせないわよ!」

「言ってねーし」

「言った!」


間違いなく言った!

「うん。そう」って言った!

一生忘れてやるもんか!!


「いつ?」

「屋上で、本城先生と森田が何か話してた後!私の前で、携帯でしゃべってたじゃない!

私が、『彼女?』って聞いたら『うん。そう』って言った!『うん。そう』って!『うん。そう』!」

「・・・なんでそんなに強調するんだ」


森田は首を傾げた。


「うーん、言ったかなあ」

「言った!」

「三浦、声デカイ」

「・・・」

「うーん」


それから更に少し森田は考えていたけど、

急にポンッと手を打った。


「お!思い出した!」

「言ったでしょ!?」

「言った、言った。でもそーゆー意味じゃない」


じゃあ、どーゆー意味よ!?

他の意味に捉えようがないでしょ!?


でも!とにかく!

・・・とにかく・・・


「じゃあ、森田には彼女はいないの?」

「いない」

「これからデートって言うのは?」

「ウソ。用事があるのは本当だけど」

「・・・そっか」


なんだ、そうだったんだ・・・

なんだ・・・


「森田、茜に『好きな人がいる』って言って振ったんでしょ?」

「・・・うん」

「片思いってこと?」

「まあ、そーだな」


森田が息を吐いて電車の外を見る。


「・・・告白とかしないの?」

「あー、うん。したい、けど、」

「けど?」


森田はムスッとしながら言った。


「言っても気づかないかも。すげーバカで鈍くて色気のないチンパンジーだから」

「ふーん。そっか。大変だね」

「・・・・・・」


面と向かって「好き」と言われれば、どんな子でも気づくと思うけどなあ?


また、森田が盛大にため息をつく。


「森田、今日はため息ばっかりだね。辛い恋、してるんだね」

「あのな・・・。もう、どーでもいい。それより三浦、これから暇か?」



え?






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