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第1部 第22話

「つまんない」

「・・・朝のハイテンションはどうしたのよ」


砂浜で小さくなって座っている私の横で、

茜が仁王立ちになる。


「森田君に彼女がいることなんて、前からわかってたじゃない」


そうだけど。


背が小さくて年上の綾瀬学園のお嬢様、

どんな人なのか容易に想像がつく。


「お嬢様とは限らないんじゃない?」

「小中高一貫の私立なんかに通ってるんだからお嬢様でしょ」

「あー。そうだね」


きっと色白で髪が自然にフワフワしてて、おしとやかだけど少しおっちょこちょいだったりするんだ。

得意なことはお料理とピアノ、苦手なことは運動、みたいな。


「・・・凄い妄想力ね、舞。そんな子が逆ナンなんてする?」

「いつもその子を守るように一緒にいる親友の女の子がいて、森田に一目惚れした『お嬢様』のために

森田に声をかけて・・・」

「はいはい。ところで、一日中そうやってるつもり?せっかくの新しい水着が泣くよ?」


私は茜に腕を引っ張られながら、海の中ではしゃぐ天野たちのところへ連れて行かれた。


なによ、茜。

茜だって、森田に失恋したんでしょ?

もっと一緒に凹もうよ。


「ビーチバレー、やる?」


やりますとも。





ギャラリーができるくらい、ビーチバレーに燃えていると、

あっと言う間に時間がたち、お昼ご飯の時間になった。


なんとなく森田を探す。


森田はビーチバレーをしていなかった。

していなかった、というより、

誰かが連れてきた女の子達に捕まり、ずっとその子達の相手をしていたようだ。


モテるのも楽じゃないねぇ。

ふんっだ。



・・・せっかく一緒に食べようと思ったのに。



膨れて森田を見ていると、案の定女の子達が「一緒にお昼食べよーよ」と騒いでる。

森田は若干困ったように「あー、うん」とか言ってるし。


気取ってんじゃねー!

と、言ってやりたかったけど、本当に迷惑そうだ。

・・・仕方ない、助けてやるか。



「サル!バナナやるから、こっち来い!」

「お!」


私が大きな声でそう叫ぶと、

森田は、助かった!とばかりにウキャウキャと私の方に走ってきた。


「おい、本当にウキャウキャなんて言ってねーだろ」

「そーゆー声が聞こえてきそうな顔してたよ」

「・・・」

「助けてやったんだから、奢ってよね」

「頼んでねーし」

「そこの女子ー!一緒に、ご飯食べ・・・モゴモゴ」

「だ、黙れ!」


私は森田に口を押さえられたまま、海の家に拉致られた。



「私、カレーライス。辛さ控えめで」

「あ、申し訳ないんすけど、調整できないんすよ。ココイチじゃないんで」

「・・・」


ウェイター、というより、海パン姿のただのにーちゃんが頭を掻く。

森田が下を向いて必死に笑いを堪えてる。


「・・・じゃあ、そのままのカレーでいいです」

「はい。そちらのお客様は?」

「俺は焼きソバ。生卵ってあります?」

「はい」

「じゃあそれも」

「はい」


オーダーを紙にぐしゃぐしゃと書き、にーちゃんが厨房へ戻って行く。


「生卵なんて頼んでどうするのよ?」

「焼きソバにかけるに決まってるだろ」

「焼きソバに生卵?変なのー」

「見た目はよくないけど、美味いんだぞ?オムソバみたいな感じで」

「あー、なるほどね」

「・・・」

「何?」


なんか森田が、私をジロジロと見てる。

お。もしや。


「どう?この水着!似合ってる?」


ふふん、とポーズを取ってみる。


「似合ってる、」

「・・・」


森田が素直に褒める時は要注意だ。


「けど、」


ほら来た。


「水着って、胸にパッドとか入れられないのか?」

「・・・・・・」


この10秒ほどの意味の無い会話の間に、

さっきのにーちゃんがカレーと焼きソバと生卵を持って戻ってきた。

どーゆー回転率の店なんだ、ここは。



「・・・からっ!」


私はカレーを一口食べて、水をがぶ飲みした。

予想以上の辛さだ。

これはちょっと、食べられない!


「そりゃそうだろ」

「え?」

「看板に『名物!激辛カレー』って書いてたぞ」

「・・・」

「辛いの苦手なくせに、わざわざ激辛カレーなんて頼むから、

てっきり辛いものに挑戦したくなったのかと思ったら、『辛さ控えめで』とかゆーし。訳わかんねー」


森田がニヤニヤしながら焼きソバを口に運ぶ。

焼きソバは激辛じゃなさそうだ。


・・・あれ。なんで私が辛いもの苦手って知ってるんだろう。

言ったっけ、私?


「って、知ってるんだったら、注文する時とめてよ!」

「だから。敢えて食おうとしてるのかと思ったんだよ・・・たく、しゃーねーなあ、これ、やる」


森田はそう言うと、生卵をテーブルの端でカンっと割り、

白身だけ自分の焼きソバにかけ、黄身を私のカレーに入れた。


「それでなんとか食えるだろ」

「・・・」


「なんとか」も何も、「卵の黄身乗っけカレー」は私の大好物だ。


そう言えば、前、学食のカレーが辛くて困ってる時も、

森田は私に半熟卵をくれた。

あの時、森田、卵が嫌いって言ってなかったっけ?


それなのに、わざわざ生卵なんて別に注文して焼きソバと混ぜようだなんて。

しかも、黄身はくれるだなんて。


・・・どういうつもりなんだろう。



「・・・ありがとう」

「え?何?」

「・・・なんでもない」


私は黄身をぐちゃぐちゃ潰して、カレーを食べた。


さすがに激辛カレーだけあって、それでもまだ少し辛かったけど、

妙に美味しいカレーだった。






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