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第1部 第13話

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


ち、沈黙が痛い。


私とお父さんとお母さんは、顔を見合わせた。

そして、目と唇だけで音の無い会話をする。


『翔のやつ、どうしたんだ?』

『ヒナちゃんと喧嘩したみたいなの』

『喧嘩?』


お兄ちゃんとヒナちゃんの喧嘩なんて日常茶飯事だ。

原因の99%は、ヒナちゃんが、男心、というか、お兄ちゃん心の分からないことをしでかし、

お兄ちゃんを怒らせることにある。

だから、喧嘩ってゆーか、お兄ちゃんが一方的に怒ってることがほとんど。


私からすれば、「そんなことで怒っちゃダメよ」と思うことが半分、

「ヒナちゃん、ちょっとそれは酷いよ・・・」と思うことが半分。


で、すぐに仲直りする。


だけど今回はなんかちょっとお兄ちゃんの様子が違う。

怒ってるっていうより、元気がない。



「ごちそうさま」


お兄ちゃんはさっさと夕ご飯を食べ終えると、自分の部屋へ戻って行った。

まあ、放っておいても大丈夫だろうけど、

お兄ちゃんとヒナちゃんが具体的にどんなことでどんな喧嘩をするのかちょっと興味がある。


最近「恋」って物に、少し関心が出てきたからかな。


私は思い切って、お兄ちゃんを追いかけてみた。




「お兄ちゃん。入るよ」

「・・・なんだよ」


お兄ちゃんはベッドの上で仰向けになり、大学の教科書を読んでいた。

来年国家試験だから、のんびりしてられないのだろう。


「ヒナちゃんと喧嘩したの?どうして?」

「お前、もうちょっとデリカシーのある聞き方できないのかよ」

「ヒナ様とどういう喧嘩をなさったんですの?」

「・・・もういい」


お兄ちゃんはため息をつきながらベッドから起き上がった。


「・・・」

「何よ。教えてくれるために起き上がったんじゃないの?さっさと吐いて」

「お前な」


それからまたしばらく、お兄ちゃんは口を開きたがらなかったけど、

聞くまで立ち去りそうにない私に諦めて、ようやく話し始めた。


「ヒナがさ」

「うん」

「浮気してるかも」

「ほえ?」

「・・・なんだ、その反応」


浮気?ヒナちゃんが?


「まっさかー!お兄ちゃんが、なら、分かるけど」

「おい」

「なんでそう思っちゃったの?」

「・・・前、たまたまヒナの保育園の近くを通りかかったから、ちょっと顔見ていこうと思ったんだ。

そしたらヒナが、保育園の近くで男と親しげに話してた」

「それだけ?」


そんなの浮気って言うのかな?

お兄ちゃんがヤキモチ妬いてるだけなんじゃない?


「ヒナが、男と話すのが苦手なのは、お前も知ってるだろ。せいぜい俺と、俺の友達くらいだ」

「それはまあそうだけど」

「それ以外で、ヒナが男とあんなに仲良くしてるの、見たことない・・・」


・・・お、お兄ちゃんが落ち込んでる・・・


信じられない。

こんなお兄ちゃん、初めてだ。


よっぽどその男の人とヒナちゃんが親しげだったんだろう。


「一度じゃないんだ」

「え?」

「今日も、保育園の近くのカフェで2人で楽しそうに話してた」


確かに、ヒナちゃんがお兄ちゃん以外の男の人と2人でカフェに入るなんてありえない。

しかも「楽しそうに」なんて。


「それで、ヒナちゃんはなんて言ってるの?」

「・・・聞いてない」

「へ?聞いてない?」

「ああ。・・・なんか怖くて声かけられなかった」


それだけ言うと、お兄ちゃんは大きく息を吐いて肩を落とした。


おおーい!お兄ちゃん!しっかりしてくれ!!






翌日。

私はお兄ちゃんの首に縄をつけて、ヒナちゃんの勤める「どんぐり保育園」まで引っ張ってきた。


「・・・これ、取れ。恥ずかしい」

「本物の縄じゃないだけ、ありがたいと思いなさい」


お兄ちゃんの首には、私の制服のネクタイ。

その端を私が握っている。


「本当に『首に縄をつける』奴、初めて見たぞ。しかもそれが自分の妹なんて情けない」

「情けないのはお兄ちゃんの方でしょ!ちゃんとヒナちゃんと話しなさいよ!」

「なんで舞が怒るんだ」


当たり前でしょ!

もし、お兄ちゃんとヒナちゃんが別れたりしたら!


別れたりしたら・・・

困るのよ、私は・・・



私が今なんとかブラコンにならずに済んでるのは、お兄ちゃんの彼女がヒナちゃんだからだ。


ヒナちゃんは、私が持っていない何かを持っている。

私がどんなに女を磨いても、手に入れられない何かを。

だから、諦められる。


でも、もしお兄ちゃんがヒナちゃんと別れて、他の女の人と付き合うようなことになったら、

私は女を磨いて、お兄ちゃんの彼女以上の女になろうとするだろう。


それじゃ、本当にいつまでたっても私は恋できない。


お兄ちゃんは、ヒナちゃんと幸せになってくれなきゃダメなのよ!



私は祈るような思いで、保育園の入り口を見つめた。

お兄ちゃんも「もう見たくない」という表情だけど、

やっぱり気になるのか、保育園から目を離せない。



その時、保育園のドアが開き、ヒナちゃんが1人で出てきた。

もう帰宅時間なのか、鞄を手に駅へ向かう。


私とお兄ちゃんは、なんとなくヒナちゃんに声をかけられなくって、

少し離れてついて行った。


ヒナちゃんの足取りが軽く見えるのは、私の気のせいじゃなさそうだ。



そして・・・



駅の改札口で、1人の男の人がヒナちゃんを待っていた。

その男の人を見たお兄ちゃんが、一瞬息を飲む。

どうやら彼が「ヒナちゃんの浮気相手」らしい。


思ってたよりずっと若い。

お兄ちゃんとヒナちゃんより、年下だろう。

もしかしたら、まだ10代かもしれない。


そして、お兄ちゃんが心配するのも頷ける。


その男の人は・・・私から見てもじゅうぶんに「イケメン」だったのだ。








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