ストーリー;中野満美(出発)
「準備はできてるかい?」
「はい!」
「じゃあ行こう!」
町長は右拳を大きく突き上げた。突き上げたまま私の方を振り返り、満点の笑顔を見せてくれる。広島までは結構遠い。何日かかるかわからない為、町は副町長に任せている。副町長、佐上世一。彼は町で唯一日本軍参謀部にスカウトがあった男だ。しかし、色々あって、今は副町長をやっている、私は一人でいいから。と言ったが、町長は全然認めてくれなかった。なんだかんだ、過保護だったな…。そんなことを思いながら私と町長は、馬車に乗り込む。都心では自動車などがあるが、田舎には滅多にない。今の交通手段の主流は、馬車か汽車である。私たちの前にある馬車はだいぶ年季があり、馬車は木製でできているが、少し剥がれてきていた。私達は、馬車に乗り込んだ。
《半年後》
私達は、広島に近いあたりまで来ていた。戦時中の移動にしては早い方だったと思う。
「もうすぐつきますよ。」
「あぁ、分かった。」
馬車の運転手の声に、寝起きの町長が答える。もう朝と呼ぶには遅すぎるが。馬車には私と町長が対面するような形で座っている。町長は語り出した。
「少し、着く前に話しておこうと思う。私は、お前を引き取るつもりはなかった。自分の生活で精一杯で、面倒を見る余裕がなかった。」
「!!」
初めて聞いた。ずっと優しかった町長がこんな思い出私を育てていたこと、そして、話し出すタイミングのセンスがないと言うこと。
「だが、君のお姉ちゃんの遺言があったから引き取ったんだ。」
「遺言?」
「あぁ、いつか見せなければと思っていた。私はこの遺言を絶対に離さないと誓っていたんだか、もうその必要はないようだね。広島について、新しい家族に慣れたら読むといい。」
そう言って懐から取り出しだ紙を私に渡した。
「お前にはもっといろいろなことをしてあげたかった。でも、もう時間のようだね。お前と過ごした時間はとても楽しかったよ。」
私の目に見える町長はゆがんでいた。いや、視界がゆがんでいた。泣いたのは、いつ以来だろう。
こうして私達は、広島までの道を進んだ。
思い出が
私の目に
水を浮かべる
とうとう。広島に来ました!次回、中野家結成!乞うご期待!