由香と千得
「君のお父さん?」
「はい。もしかしたら生きてるかもって思って。」
「うーん…」
これが普通の病院なら簡単に見つけられるだろうが、ここは簡易病院。カルテは愚か、患者の名前すらわからない状態で治療していた。千得に関しては、服に名前があったのと母親が娘が近くにいるから合わせてくれと言っていたため、再会が可能となったが、父親に関する情報は一切ない。
「今はわからない。まぁ、近くの医師に聞いてみるよ。」
「お願いします!」
「で、どうだった?」
千得がテントから出てくると同時に由香は聞いた。
「まだわからないって。探してもらってるからいつかは見つかると思うけど…」
この時の二人は想像していなかった。爆発の影響がどれほどのものだったか。
「ねぇ、ご飯食べた?」
「いや、まだだけど…」
「給付があるから取りに行こ!」
由香は右手を千得に向けて伸ばした。その手に千得が左手を伸ばすと、左手の手首を掴み由香は走り出した。
「ちょっ…」
初めはゆっくりで着いていけてたが、少しずつ加速するにつれて違和感に気づいた。そう、由香は足が速い。私と比べて早いとかではなく、そこら辺の大人よりだいぶ速い。
「由香、スタップ!」
「うがっ、」
千得の声を聞き急ブレーキをかけたが千得は止まりきれず由香にぶつかった。
「大丈夫?」
?
ここで、また一つ違和感が生まれた。私は結構な勢いで由香にぶつかったが、由香は全く動いていない。ぶつかった瞬間壁かと思った。
(あ、そうか。)
この時千得は思った。由香は本気で軍人になろうとしていたのだと。
次回「備蓄米」




