花火
「おはよう!今日は早いのね。」
「何となく目が覚めちゃってね、」
お母さんの問いに答える私。朝の何気ない会話。小鳥の囁きが聞こえる平和な空間が広がっていた。
「おや?今日は早いね。」
「あっ、お父さん。」
「おはよう。」
「朝ごはん、できてるよ。」
早いといっても、もう8時過ぎだ。シェルターに入っていた影響で時間感覚がずれていた。
私はテーブルに向かおうとした。その時、
「ん?」
(外が騒がしい…何だろう。)
私たち家族三人は外に出た。
「あ、中野さん」
お母さんは満美のお母さんを見つけて話しかけた。
「満美ちゃんはどうしてます?」
「あぁ、まだ寝ていますよ。」
「今回の襲撃が長かったから、疲れちゃったのかしら。」
「明日には治ってますよ。」
「何かあったんですか?」
「いえ、何か外が騒がしかったもので…」
お母さん同士の会話に私は割って入った。
「ねえ、あれって何?」
私は空を指差した。
「どれのことかな?」
私とお母さん二人とお父さんの四人は空を見上げた。
「あれは?」
遠目だが、しっかりと見えた。何か黒く大きい物体が空から落ちてきている。
「あれ、お母さん?何で外にいるの?」
中野家から満美が顔を出した。
「!!」
空中でその黒い物体は破裂した。
破裂と同時に炎が全方向に広がって行く。その光景は幻想的で、まるで花火の様だった。
「満美!来たらダメ!!」
満美のお母さんは満美を家に戻そうと、家に向かった。
「千得」
「千得」
お母さんとお父さんの声が聞こえる。
私を庇う様にお父さんとお母さんが抱きついてきた。
「?」
ほとんど前が見えなかったが、目の前の黒い物体がものすごいスピードで広がって行くのが分かった。
「熱…」
ただ、熱いと言う感覚のみを残し私の意識は途絶えた。
八月六日。午前8時14分 広島県、原爆投下
次回「呪い」




