父親
花が揺れ
鳴り響くのは
君の声
「こんにちはー!」
少女は元気に挨拶した。町中の人は皆優しい。私に挨拶を返してくれた。
「こんにちは。今日も元気だね。」
「やぁ、元気だねー。」
八百屋のおばさん、農家のおじさんがそれぞれ挨拶してくれた。今日も私は元気に生きています。
澄み渡る
今日一日の
良き笑顔
私の名前は魚見千得。広島県広島市出身。名前に魚が入っているけど、魚屋というわけではない。今日は、1945年7月31日。だんだんと昼間が暑くなり出し、昼と夜の寒暖差を感じる様になった。
千得の着ている服は、薄く汚れていて、所々に穴が空いている。戦時中の日本、服は貴重品になり、とても買うことはできない。それどころか、今日食べる分も確保できるかわからない。
「千得ー。行くよー」
お母さんだ。お母さんは私にいつも優しかった。お母さんはいつも私に食料を分けてくれる。『自分のことは後回し』いつもそうだった。今日は戦争から帰ってきたお父さんを迎えに行く。私は四人家族だ。お父さん、お母さん、お兄ちゃん、そして私。お兄ちゃんは今、東京の軍需工房で働いている。初めはお兄ちゃんも前線で国のために戦う!と言っていたが、私がどうしても嫌だ!と反論し、お兄ちゃんの中学での成績が良かったこともあり、日本側はお兄ちゃんにある条件付きで軍需工場に勤めることを可決してくれた。
「元気にしてたか?」
お父さんの開いた一つの瞳が私を見つめている。お父さんは少し前の戦争で目を失っていた。初めは、左眼にばつ印の様に傷が入っていたことから、お父さんもかっこいいと笑っていたが、本当はとても痛かっただろうな。
「うん、元気にしてたよ!」
「なら良かった!」
私はお父さんに抱きついた。約1年ぶりの再会。この日をどれだけ待ち望んだことか。そんな私たちをお母さんは微笑ましそうに見つめていた.
菜の花が
笑顔の君に
良く似てる
「えっ!お兄ちゃん帰って来れるの!」
「あぁ。司令官に聞いた話ではな。」
「あの子元気にしてるかしら…」
「きっともうすぐ会えるよ。」
「それもそうね。」
「…」
話すのが久しぶりすぎて、話題がない。
しばらく沈黙が続いたが、お母さんがその空気を断ち切った。
「もう八月ね。あなたはいつまでいられるの?」
「うーむ、詳しいことはわからないが、半年は休めると思うよ。」
「意外と長いのね。」
「なんか、前線で兵士たちが疲労で使い物にならないからだって。」
「まあ、結果オーライじゃん!」
「ははっ、そうだな。」
そんな家族のありふれた会話で今日が終わった。
7月31日 閉幕
初めましての人は初めまして。夢花見です。戦時中、終戦後の日本を舞台に書きました。ご視聴ありがとうございました。作品は毎週火曜日、10時10分に投稿しています。作品をよろしくお願いします。