第90話、最下層での戦闘
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ザイン達ことチーム最強の黒と合流した私達は、レガストの案内の元ダンジョンの九層目まで降りて来ていた。そして九層目は他の階層のように迷路になっていた。
因みに先頭は光球を浮かべるレガストに続きレイゼル、オールド。真ん中にエル、ルナ、フォルテ。最後尾は松明を持つ私とザインの形でダンジョンを進んでいる。
そして私達はザインが所持していた水晶でギルドへ連絡をとっていた。そこで私達はこのまま迷宮核の機能停止を目的にダンジョンを潜っていく事を伝え、ギルドはギルドで私達が失敗した時の為のチームが既にこちらへ向かっていると教えてくれる。またギルドの話しでは帝国ディバイナーと竜王国ドルスタが、大規模な救援隊を組織してハルシオン入りを計画しているらしい。
そしてリーヴェ達の安否が心配だった私は、水晶を借りて彼女達に通信を行なっていた。しかし応答はなく、そのため不安だけが増していく。ただ今は気にしすぎていては駄目だ。私は第一に、共に行動している者達の命の心配をしないといけないからだ。
そして明かりが乏しい中、ゾンビやグールを討伐しながら進んで行っていると——
「おわっ」
グラグラと地面が揺れる。思わず足を止める私達の頭上には、パラパラと砂埃が落ちてくる。そして地面が揺れ続ける中、全方位回復索敵版に反応が。この私達に近付いてきている反応、早い。また横揺れが次第に強くなってきている。そうしてレガストの光球に照らされるようにして、通路の奥から蛇行しながら姿を見せたのは——
通路一杯の大きさのモンスターであった。平べったい頭部にある口には、ハサミのように左右に開く牙が一本づつ生えている。コイツは巨大なムカデ。また頭に沢山の目を張り付けている事から、グールの変異種だろう事が窺える。
そんなムカデグールは頭をこちらへ突き出し、キシャーと口を開けて威嚇して来た。がここからは一瞬であった。ムカデグールの死角から地を這うようにして迫ったレイゼルが、ムカデグールの頭に向かって飛び上がる。そしてナイフが青白い煌きと共に高速で振られる。するとムカデグールの頭がズリッと下へズレてそのまま地面へ落下。ナイフを両手に持つレイゼルがこちらへ歩いて戻ってくる中、遅れてズシンッと力なく胴体が地面へ落下してムカデグールが一気に黒霧へと変わっていく。
「うわっ、瞬殺ですね」
驚くエルの呟きに、レイゼルは呼吸を全く乱さずに答える。
「これしき造作もない事です」
そして私達は遭遇する敵を片っ端から薙ぎ倒していき、遂に最下層へと降りる階段を見つける。
「アルドさん、ついに最後の階ですね」
「あぁ、早く迷宮核の機能を停止させないとだな」
そうして長い階段を下り、最下層へと辿り着く。この最下層、他のフロアと少し違っている。それは天井が高かったのだ。地面から天井まで六メートルは離れている。また迷路のようになっている壁は地面から三メートルほどの高さしか無いため、上部に大きな空間が出来ていた。これは上に登ってしまえば、迷路に迷わずに進める事を意味している。しかし私達には道を知っているレガストがいるため、そんな事はしなくても大丈夫だが。
そして遭遇するゾンビやグール達を倒しながら進んでいると——
不健康そうな灰色の肌の、巨大な腕が壁の上に見えた。巨人ゾンビ!?
「みんな、上だ! 」
そしてヌッと巨人ゾンビの顔と胸元が見えた辺りで、振り下ろされる巨大な太い腕。
「おうわぁ! 」
エルが咄嗟に両腕を広げて、隣にいたルナとフォルテを押し倒す。そのため巨人ゾンビの攻撃は、誰もいない地面を叩いた。
「神聖放出弾! 」
私が放った拳大の光球が巨人ゾンビの胸元に直撃。展開する光の渦に巻き込まれた巨人ゾンビは、跡形もなく塵へと変わった。
「やっ、やったで——」
そこで遠くから咆哮が上がる。それはまさしく強者の雄叫びであった。またダンジョン内に音が反響する。そんな中、壁の破壊音と共に気配が迫ってき出した。
「皆の衆、戦闘態勢じゃ! 」
そしてエルが不安げに首を左右に振る中、壁を突き破りそいつは顔を覗かせる。筋肉に包まれた四肢で体長十メートルもある巨体を支え大きな翼を生やしたそいつは、沢山ある左右の鋭い目で私達を見下ろしている。コイツはグールの変異種のドラゴン、ドラゴングール。
そこでドラゴングールは私達を噛み殺すかのように大きな顎を開けて再度咆哮をあげた。間近で上がるその爆音に私達の身体は強制的に揺さぶられ、この場にいる多くの者が反射的に膝を折り手で耳を塞ぐ。レイゼルを除いて。そう、レイゼルはムカデグールの時と同じように姿勢を低くして駆けていた。そして振られるナイフ、上がる血飛沫。しかし浅い。ドラゴングールの筋肉質で太い首は、斬り落とす事が出来なかった。そこでドラゴングールの前足が持ち上げられ、横薙ぎに振られる。それをレイゼルはバックステップを踏む事で躱した。
「アルド様、すみません。仕留め損ねました」
私の前に陣取ったレイゼルが、ドラゴングールがいる通路とは別の通路から湧いて出てくるゾンビやグールの頭を斬り落としながら背中越しに言う。私も走り寄ってくるゾンビやグールの頭を破壊しながら答える。
「いや、良くやったよ。しかし厄介だな」
そう、ドラゴングールの首筋に付いた傷は、その筋肉を引き締める事によって瞬く間に塞がってしまったのだ。そして——
「来るぞぃ! 」
現在唯一間近でドラゴングールと対峙しているオールドが叫んだ。見ればドラゴングールはその場で急旋回した。そして近くの壁が破壊されていく。ドラゴングールがその太くて長い尻尾でやったのだ。そのため私達に崩れた壁が石礫となり——
「不味い! 」
ザインが叫んだ。形を崩して、横から降り注いでくる壁。オールドは盾で防ぐも踏ん張れずに吹き飛ばされ、レイゼルは瞬時に前方にいるレガストを抱えると後方へ飛ぶが、石礫に巻き込まれていく。そこで私は傷付いた三人にヒールを飛ばしながら、前進して来るドラゴングールの前に立ちはだかる。
エルとザインとルナがドラゴングールが破壊したため広くなった道も含めた全方位から湧いて出てくるゾンビとグールを相手にしてくれている間に、私は核爆を唱え無数の火球を私の周囲に出現させる。そんな私を前に、ドラゴングールは鼻から大量の空気を取り込み始める。閉ざされた大きな顎が、暗闇の中真っ赤に染まる。
ドラゴンブレスを吐こうとしているのか? このまま炎でも吐かれたら、みんなが危険だ。私は聖魔法防御赤を発動し瞬時にドラゴングールの眼前まで飛び上がる。そしてメイスを奴の上顎に振り下ろした。その威力で開けようとしていた口が、強制的に閉ざされるドラゴングール。また閉ざされた反動で鼻から漏れ出るドラゴンブレスの炎。
よし、準備が出来た。
ドラゴングールの足元に着地した私は、拳大まで育った火球達を至近距離からドラゴングールへ向けて放つ。次々と着弾すると共に展開される業火の渦。そして核爆を使用して残ったものは、見るも無残な焼け残った少量の肉の塊であった。
そうしてドラゴングールを撃破した私達は、迷宮核を見つけ出し破壊する。それからギルドへ報告を済ますと、モンスターを狩りながらダンジョンを後にするのであった。




