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第9話、仕事人アルド

 パオルの寝室は三階。

 二本の細い棒を巧みに扱い勝手口の扉を解錠し屋敷に侵入した私は、極力音を立てないよう注意をしながら屋敷の廊下を疾走し階段を駆け上がる。


 外から奴の自室にでっぷりとした人影一つを確認済み。パオルのためにも、速やかに確認をして終わらせる。


 そして三階も疾走し部屋の前へ辿り着いた私は、奴の寝室の鍵も解除する。


『カチリ』


 その音に気がついたパオルが、驚愕の声で疑問を投げかけてくる。


「誰だ!? 」


 それに対して私は最低限の扉の開閉で音もなく入室すると、揉み手をしながら口を開く。


「旦那、例の若造、始末しましたぜ」


 するとロッキングチェアでゆらゆら揺れていたパオルが、胸の上に開いた状態で置いていた本を棚に置くと椅子から立ち上がる。


「もしかして、フーゴの町の何でも屋なのか? 」


 そう今の私は、街道で襲撃をしてきたガルムから奪い取った服装に、フード付きの外套、そして声色を誤魔化すため布をマフラーのようにして口元を隠している。


「えぇ、それであの女はどうしやす? 」


「あぁ、約束通り買おう。

 ……と言うか、なんで私の事を知っている?

 それに、お前のその目は!? 」


 パオルの返答に、私は知らず知らずの内に目つきが変わってしまっていたらしい。

 私は極力音を立てないよう動く。足裏の全面で床を蹴り、パオルに迫るとそのまま片手で首を掴み持ち上げる。


「パオル、やはり黒幕はあんただったか」


「ぐっ、貴様はアル……ド! 」


「世話になったが、お別れだ」


 そこで幻影思考の呪文を発動。魔法に耐性のないパオルは白目を剥いて失神した。


 さてと、これで目が覚めたパオルは、多少の幻覚と重度の幻聴に悩まされる一生を送る事になるはず。仮に心を清く保てれば幻覚や幻聴はその時だけ消えてしまうが、その域に達せないと日常の生活も困難な状態になる。


 部屋を出た私は、再度棒を使い今度は施錠をした。

 これで余程の事がない限り、混乱したパオルは病人として扱われるはず。仮にパオルから出た言葉で私たちが怪しいと思う者がいたとしても、結局はそこまで。


 魔女狩りのような群集心理に陥らない限り、この町の自警団程度では本来の農作業などの仕事を休みにしてまで他の町に赴き犯人探しなどはしない。

 人とは元来、火事場などで野次馬にはなるが、赤の他人の厄介ごとには首を突っ込まない生き物だ。

 仮にパオルが尋問を受けたとしても幻影思考の魔法は固有魔法なため、そこから私が関与している事までは辿り着けない。


 しかし先日使用人のみんなと別れる際、変に怪しまれたくなかったので本人たちには内緒にしているが、各々の悪い箇所に回復魔法をかけ完治させておいて正解であった。身体が正常に動くならば、ここ以外でも働き口は見つかるはず。


 館から出てリーヴェと合流した私は、今回の騒動の黒幕がパオルであった事を簡潔に伝えた。暗くてリーヴェの表情は見えなかったが、彼女は何も聞かずに短く『はい』と答えた。

 そして私たちは足早に、ユーリダス邸を去るのであった。


 翌日の朝、ギギの森——


 私は外気を遮断するため、フード付きの外套にくるまり木の幹に背中を預ける形で根っこ部分に座っている。この体勢は虫の侵入防止も兼ねているのだが、ちょうど眼前の布に尺取虫が移動しているのを確認したため指で払う。


 しかし、二人だとなんとかなるものだな。

 夜間は結構肌寒かったため心配していたが、リーヴェと引っ付いて互いに暖め合う形であの寒さをやり過ごせるとは。


 チラリとだけ視線を落とす。

 そう、現在リーヴェは私の外套にすっぽり包まれる形で、座る私の腕の中でスヤスヤと眠りについている。因みに例の如く、私は徹夜で番をしていた。


 さてと、これからだな。


 所持金に関しては、奴隷解放され屋敷を出た時は無一文であった。ただ配達屋のおやっさんに無理を言い本来なら毎週末に給金を貰えるところを、昨日辞める話をした時点での二人二日分の大銀貨一枚と銀貨二枚を貰っていた。

 迷惑料として銀貨二枚は返したが。それと山賊から譲り受けた銀貨十二枚があるため、合計で二百二十ギル。


 しかしこれだけの金額では私たちの目的地、ギルドがある街ローゼルへ普通に旅をしても街に着く頃には殆ど残らないだろう。そのため出来るならば節約をしたい。しかしそうなると、自ずと自給自足で行くことになるのだが——


 ギギの森は野生のウサギやイタチ、そして鹿も生息しているため狩りをすれば食の問題はない。

 因みに今の私たちの装備だが、私は山賊から奪ったフード付き外套にショートソードとナイフ、リーヴェもフード付き外套にナイフだ。


 しかし——


 そこで再度視線を落とし、こっそりリーヴェを見てみる。時折リーヴェはふにゃふにゃ言いながら小さく寝返りみたいのをしているのだが、そのたびにその、肉圧というか、弾力ある肌が私の肌に絡みつくようにして密着してきているのだが。


 ……女の子とは、こんなにもか細く柔らかいものだったのか。


「ふぁ〜」


 可愛らしい欠伸と共に、リーヴェが目を覚ましたようだ。


「あふぅー、ぅーん」


 しばらくそんな感じで寝言みたいなのを言っていたかと思っていると、突如スイッチが入ったのか、ばっとリーヴェが振り返る。


 かっ、顔が近い。


「アッ、アルドくん、おはようございます! 」


「おはよう」


「その、色々とありがとうございました! おかげで、……ぐっすり寝むれました」


「それは良かった、……それとリーヴェ」


「はい? 」


「顔にあるヨダレの跡、……拭こうか? 」


「ふわぁ」


 そんなゆるい感じで、私たちの一日はスタートした。

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