第85話、戦鬪狂?
感電してしまうため下手に雷魔法が使えない事はわかる。しかしこの闇に包まれた沼地では、明かりが灯る炎系の魔法も使わない方が良いかも知れない。何故そう思ったのかと言うと——
「アルドさん、あれってもしかして!? 」
遠くの沼地に蠢く複数の陰。
「あぁ、早くここから離れた方が良いな」
そう、先程倒したばかりのワームグールが、大群でこちらへ押し寄せて来ていたのだ。もしかしたら先程の雄叫びの方で、招き寄せられているのかもしれないが。
——兎に角、移動だ!
そうして私達は足早に沼地を進んで行く。
「なっ、なんとか遭遇しなくてすみましたね」
エルは振り返りながら言った。そして後方では、泥を巻き上げながら移動して来たワームグールの群れが蠢いている。
「あぁ、あの量のグールは厄介だからな」
その私の言葉を受けて、レガストが自信満々に言う。
「グールは炎に弱いからな、全部ワシが倒してやるのじゃ」
いや、それだとすぐに魔力切れを起こしてしまいますよ。そんな脳内ツッコミを入れながら、本当にレガストの魔力管理をしてあげないといけないのかと思うのであった。
それから私達は進んでいけばどうしても遭遇するゾンビやグール、そして手が届くところまで降下してきたゴーストを討伐しながら沼地を進んで行く。
「アルドさん、あれって」
「あぁ、ワームグールの他にも手強そうなのがいるな」
そいつは小島に佇んでいた。そのためランタンに照らされてその姿が遠目からでも確認出来た。あれは巨人だ。分厚い胸板に太くて長い手足、そして獲物を探しているのかしきりに左右に振っている顔面だけで人一人分はありそうな大きさ。また遠すぎて全方位回復索敵版で正確な大きさを測れないが、それでも目算で全長六メートルはありそうだ。そこで私は再度レガストに質問する。
「あの巨人はゾンビですか? 」
「すまぬ、あんな変異種は初めて見るのじゃ」
ゾンビの巨人なのか、グールの巨人なのか、どちらにしても遭遇してしまえば脅威になるのは明白だ。こちらに気付いてくれるなよ。そんな思いの中私達はその不死族の巨人から距離を取るように、大回りをして沼地を進んで行く。とそこで沼地に浮かぶようにして、小さなドーム上の建物がポツンと進行方向上にあるのが見えた。入り口に扉はなく、両サイドには松明が取り付けられている。
「レガストさん、あそこはもしかして」
「あぁ、あそこが墳墓の入り口なのじゃ。遠回りしたから、だいぶ時間がかかってしまったのじゃ」
「つ、ついにお墓の中に潜るんですね」
心配そうなエルの呟きにレガストが自信ありげに言う。
「中は迷路になっておるが、ワシがおるから大丈夫なのじゃ」
そうしてゾンビやグール達を倒しながら墳墓への入り口に向かって進んでいると、あの不死族の巨人に動きが。なんとこちらに向けて走り始めたのだ。
「させるか! 」
レガストは意気揚々と声を張り上げる。
と言うかここでまた戦闘をするのですか!?
墳墓への入り口はあと少しなため今から走れば悠々と入り口まで行けそう。また炎の魔法を使って敵を倒せば、何を引き寄せてしまうか分からない状況。やはりここは力を温存して走るべきだ。
私は呪文の詠唱をしようとしているレガストの手を握ると、墳墓の入り口へ向けて引っ張りながら走り始める。
「なっ、なにをするのじゃ!? 」
「しなくても済みそうな戦闘は回避するべきです! 」
「いやでも、戦えと血が騒ぐのじゃが? 」
駄目だ、ここで口論していたら巨人から逃げる時間が無くなってしまう。ここは強行に事を進めなければ!
「失礼します」
レガストを片手で小脇に挟み抱えると、もう片方の手で彼女の口を塞ぐ。
「んーんー、もごもご」
「皆さん、急いで入り口まで走りましょう」
そうして私達はなんとか迫り来る巨人から逃れて、墳墓の入り口に突入。そしてすぐあった下へと伸びる暗い階段を駆け足で下っていく。そして入り口の松明の光が届かない辺りまで来ると、階段は途切れて平坦な道へと変わった。道の奥は闇色に塗り固められておりなにも見えない。
とそこでレガストを下ろす。彼女は強引に事を進めた事を怒るかと思ったのだが、意外にも落ち着いた様子であった。
「レガストさんは、強引も嫌いじゃないからの〜」
「そうなのじゃ、そしてやはりアルドは良い男なのじゃ」
「こんな時になにを言っているのですか」
「いやいや、失敬。それより明かりを点けないといけなかったな」
レガストがスラスラと呪文の詠唱を進める。
「持続雷球! 」
レガストの手の平上に暖色系の光球が浮かび上がり、通路の形を鮮明にする。
先程レガストからあったように、墳墓の中は迷路になっていた。そしてこの迷路、地下十層まであるらしい。また墳墓は逆三角形の形をしているらしく、下の階に行けば行くほどフロアの大きさは小さくなっているらしい。因みにこのダンジョンが闇に包まれた場所だと事前に知っていた私は、松明と火打ち石を持参して来ていた。そうして隊列は光球を浮かべるレガストを先頭に、オールド、レイゼル、エルと来て最後尾に松明を持つ私となっている。




