第80話、ゾンビの王
今回から毎日一話更新になります。。
深く暗い森を、私を先頭に祝福の風は疾走する。そして索敵魔法に反応があった場所へと向かうと、枯れ落ちた木々の間からその者が見えた。
「あわわわっ、アルドくん! 」
目が良いリーヴェは、その者の不気味な姿が良く見えているのだろう。
「あぁ」
その者は薄汚れた布を羽織っている。また折れた片足を引き摺り、獲物を探し求めて伸ばした腕の先には腐れて千切れかかった指がぶら下がっている。あれは十中八九ゾンビだろう。たしかレイスが一ヶ所に留まったがため枯れ果てた大地から、亡者が生まれる事があると聞いた事があるが——
ただ怪我をしている生きた人かもしれない可能性があるため、問答無用で遠距離攻撃せずに念のため近寄って確認する事に。そしてメイスを手に正面に回り込んでみると、その者が『グゥガー』と叫びながら早足で私の方へ迫ってき出した。
ゾンビ確定だな。
そこで頭に狙いを定め、メイスを強振。上がる血飛沫、飛び散る肉片。そうしてゾンビは、メイスの衝撃で地面に倒れ込んだ。それから暫く様子を見ているが、ぴくりとも動かないため完全に倒したようだ。
「あれっ、アルドさん? 」
エルが倒れたゾンビを見つめながら、不思議そうに私の名を呼んだ。
「どうした? 」
「なんで倒したのに、霧散しないのですか? 」
「あぁ、ダンジョンの外でゴースト以外のモンスターを倒すのを見たのは、これが初めてだったな」
「えっ、はい」
「今までモンスターを倒したら黒霧に変わっていたのは、ダンジョンの中だったからなんだ。つまりダンジョンの外では、モンスターは死体がそのまま残るのだ。それと逆に人もダンジョン内で死ぬと、モンスター同様黒霧に変わってしまうよ」
因みに神光魔法を使用したら、ダンジョンの外ででもゴースト系とゾンビ系は跡形もなく塵へと変わるが。
「そうだったんですね」
「あぁ、あとレイスはゾンビを生み出す事があるため、かなり近付いて来ているのかもしれない」
それからレイスの捜索が再開された。全方位回復索敵版を展開しながら、枯れ落ちた木々を道標に進んでいく。そして暫く進んで行っていると——
暗い森に多くの横たわる、頭部が欠損したゾンビの姿が。
「アルドさん、これって——」
「あぁ、ここで戦闘があったようだな」
「つまり他の冒険者の人がいるって事ですね! 」
「あぁ」
「金貨五枚がかかっているんだ! アルドさん、急ぎましょう! 」
エルはやる気満々のようだ。
それから深い森を疾走していると、全方位回復に複数の生命反応が。その生命反応に近付けば近付いただけ尚も反応が増えていく。
そして木々が途切れ、目に飛び込んできたのは——ぼろぼろの黒いローブに身を包み突き出すように前方に飛び出た青白い腕、また顔が同色のフードで遮られ闇としか判別出来ない三メートルはある大型のモンスター、レイスだった。底冷えしそうな、悲鳴を薄く引き伸ばしたような声を上げ続けている。
そして周囲をゾンビ達に囲まれながらもレイスと立ち向かっているのは、外套を羽織った冒険者風の二人組。一人はドワーフの戦士で、高そうな銀で出来たバトルアックスと盾を装備している。もう一人は腰まである銀髪が特徴的な小柄なエルフで、これまた高そうな杖を手にして魔術師のローブで着飾っている。
しかしどうしよう? こういう時ってたしか、冒険者同士では獲物の横取りは厳禁だったはず。なにせ金貨五枚の討伐依頼であるから。
少し様子を見てみるべきか?
ドワーフはゾンビ達の突撃をものともしていないし、エルフは瞬時に呪文を構築してゾンビやレイスに雷属性の魔法を叩き込んでいる。
「あの、アルドさん、戦わないのですか? 」
「獲物の横取りは禁止されているから、少し様子を見ようと思っている」
「なるほど」
「ただし少しでも危なくなったら加勢をするから、そのつもりで待機していてくれ」
「わかりました」
◆ ◆ ◆
ドワーフの戦士であるオールドの銀のバトルアックスが、襲い掛かってきていたゾンビの頭を一つ二つと吹き飛ばす。
「レガストさんよ、ゾンビの数が全然減らんのぉ〜」
「泣き言はいわぬのじゃ」
しかしたしかに、レイスの影から這い出すゾンビの数が多すぎる。
ワシらはダンジョン内で二度ほどレイスを討伐した事がある。そのどちらのレイスもここまで大柄でなく、またゾンビもそんなに生み出さなかった。ゾンビを沢山生み出すのは、眼前にいるレイスの固有能力のようなものなのだろうか。だからこのレイスに名を付けるなら、差し詰め『ゾンビの王』と言ったところか。
そして先程から十何発も魔法を叩き込んでいるのに耐えているこのゾンビの王の耐久値も注目するところだが、時折仕掛けてくる遠距離攻撃が厄介だ。
そこでちょうどゾンビの王が体を小刻みに振るわせながら、虚空に向かって雄叫びのような叫び声を上げ始める。
「レガストさんよ、アレが来るぞぃ! 」
「あぁ、オールド頼むのじゃ」
そしてゾンビの王がこちらに向かって、その長細い腕を下から上に振るった。すると地面から生えた闇色の刃が、こちらに向かって高速で距離を詰めてくる。
その強烈な一撃をワシの前に陣取るオールドが、銀の盾で防ぐ。
しかし今回ばかりはこれだけで終わらなかった。ゾンビの王は何度も腕を下から上に振り続ける。その度に地を這うようにして闇色の刃がワシらに迫る。
「ぐぬぬっ」
それらもオールドが盾で防いでいくが、かなり無理をしているようだ。
そして闇色の刃の猛攻は、なおも続いていく。
やらせるか!
呪文を瞬時に組み上げていき、発動させる。
「雷撃連鎖! 」
ワシが手にする杖の先に集まった雷が、呪文を唱えると共に解き放たれる。そしてワシの杖から伸びた雷の鎖が、ゾンビの王の細長い腕に触れた瞬間——
感電、からの雷はその細長い腕の付近で小さくこちらに向かって円を描くと、肩に伸びる。そして今度は肩で円を描くと心臓へ伸び円を描き、そこから同じようにしてもう片方の肩、頭部へと絡み付いていく。
「よし、今じゃ! 」
雷撃の威力を最大出力に上げて、ゾンビの王に大ダメージを与えていく。
ここからは根比べじゃ。ワシの魔力が尽きるか、ヌシの生命力が尽きるかの。
とそこで力強く引かれた。綱引きするように雷を引いたのはゾンビの王。
そのため体重が軽いワシは、目の前にいたオールドを押し除けて、べちゃりとゾンビの王とオールドの間の地面にうつ伏せで着地してしまう。
顔を上げてゾンビの王を見れば、闇色の刃を打つ前の雄叫びのような叫び声を上げ始めていた。振り返りオールドを見れば、全方位からゾンビ達が襲い掛かってくる瞬間であった。
しししっ、しもうたー。
そこで思わずキュッと瞳を閉ざしてしまっていると——
「神聖降臨陣! 」
声がした。そしてワシの外套がフワフワと持ち上がる中目を開けると、悲鳴を上げるゾンビの王が強烈なキラキラ輝く光に貫かれ包み込まれている最中であった。オールドの方を見れば、群がっていたゾンビ達がまるで光の柱に串刺しにされているように動きを止めながら消滅していくところでもあった。
そうしてゾンビの王も消滅した頃には、あたりのゾンビも全て消え去っていたのであった。




