第77話、おやすみの……。
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眼前に漂う深い霧により隠れる道を、前進する事により払い鮮明にしていく。
ガラディの街を出発した私達祝福の風は、再度ウズの森を徒歩で進んでいた。パッカラでの移動は早くて楽なのだが、この森の街道は霧が深くて危険だからな。そもそもパッカラを購入するお金の余裕もないし。
そしてこの霧の先は亜人国家ハルシオン領で、私達の次の目的地はハルシオンにあるダンジョン、沼地に埋没する墳墓になる。まぁ、ダンジョンだけ目的地にするとみんなの息が詰まるかもしれないため、そこに至るまでに立ち寄った街々の観光もする予定だが。
そこで隣を歩くエルが質問してくる。
「アルドさん、次のダンジョンはどんな所なんですか? 」
「まだ詳しくはわからないが、聞く所によると沼地にある大きな墓の中を下って行くらしい」
「えっ、墓地ですか? 」
「あぁ、そしてそこにはゾンビやグール、またゴーストなどがいるそうだ」
「げげげ、超ホラー系のダンジョンじゃないですか」
「なーに、武器に祝福を施せば他のモンスターより比較的簡単に倒せるため、私に言わせれば楽なダンジョンだよ」
「それはアルドさんだからですよ! 普通不死のモンスターは倒しにくいものなんですよ」
「ちゃんとエルの剣にも祝福を施すから、大丈夫だよ」
とそこで霧が晴れて来た。どうやらウズの森を抜けてハルシオン領内へ入ったようだ。森は続いているが。ちなみにここから更に街道沿いに西へ二日進めば、ラナの街に着くそうだ。という訳で、今夜は久々の野宿だな。
そして獣道のような街道を暫く進んで行くと、日も暮れていき——
何故か、リーヴェとレイゼルの料理対決が始まろうとしていた。
事の発端は私にある、だろう。先程、手料理が食べられるな、と私の呟きを右隣を歩くリーヴェが拾ったのだ。
「アルドくん、料理なら任せて下さい」
「久々のリーヴェの手料理か。楽しみだな」
「えへへっ」
するとレイゼルが音もなく、私の左側を歩き始める。
「アルド様、私にも料理を作るチャンスを頂けないでしょうか? 」
「チャンスもなにも、作ってくれた料理は残さず頂くよ」
「ありがとうございます」
すると私の右手に柔らかな感触が。リーヴェが私の手を握ったのだ。そこでリーヴェの顔を見ると目が一瞬合ったのだが、恥ずかしそうに地面に視線を落とした。
いや、恥ずかしいのは私もなのだが。
「失礼します」
そして声と共に左手を繋がれる。言わずもがな、レイゼルだ。彼女は整った顔を崩しこそしていないが、どこか熱っぽい視線を私に向けてきている。
これは突然訪れた試練なのでは? 女性に弱い私が、女性を克服するための。だから身を任せてみた。時間が解決すると考えたのだ。
しかしそれは唐突だった。
「リーヴェはアルドくんとキスをした事があります」
リーヴェ、なぜ今それを言う!?
「なっ」
するとレイゼルが誰が見ても明らかなぐらい、ショックを受けていた。しかしレイゼルは首をブルブルと横に振ると——
「アルド様、レイゼルもキスをしてみたいです」
と言った。
私はしどろもどろになってしまい、咄嗟に出た言葉は——
「えっ、なぜそうなるの? 」
その言葉に、レイゼルは少し悲しそうな表情になる。
その表情をみて思わず、心の中でごめんなさいと謝まる私。
「リーヴェさんだけキスをしているのは、同じ婚約者として……ずるいからです」
そこで返答に困っていると——
「そしたら料理対決をするのです」
そうリーヴェが言った。そして続ける。
「アルドくんが美味しいと言ったほうが、アルドくんとキスをするのです」
なっ、なに?
「……わかりました、それは今からですよね? 」
「はい」
とまあこんな風に話が進んでしまい、私との接吻をかけて勝負が始まろうとしていた。
とその前に——
野営地を湖の畔に決めた私達は、燃えそうな木を集めてきた。そしてイリスが唱えた火の魔法で焚き火をして夜に備える。
それからリーヴェとレイゼルは、各々食材を探しに森の中へと消えて行った。その間エルとイリスは仲良く釣りを、私は火が消えないよう焚き火の番をした。
そして先に帰ってきたのはリーヴェで、多くの野草やキノコを採取してきていた。どうやらそれでスープを作るようだ。
次に帰ってきたレイゼルの手には、野鳥と竹が。そしてスパスパとナイフで竹を切り串を作ると、毛を毟った野鳥をこれまたスパスパと切り刻み串に刺していく。レイゼルは焼き鳥を作るようだ。
そうして暫くすると、各人の料理が出来あがった。
「どうぞです」
と言うわけで、まずはリーヴェのスープを頂く事に。
色は薄っすら緑色でダシがしっかり出ている。またキノコはプリッとした食感で豊かな旨味の中にほのかな苦味があって美味しい。そして外は少し肌寒いため、その温かさが身体に染み渡っていく。
「次は私の番ですね、お願いします」
レイゼルの焼き鳥の番だ。
まず香ばしい香りが食欲を刺激する。そして齧りついてみると振りかけた岩塩の量が一定で焼き加減も絶妙のため、噛めば噛むだけ肉汁が出てくる。それにお腹に溜まって、美味しい。
という訳で私はどちらも美味しいから、勝負は引き分けとした。するとその結果に納得しない一同。大ブーイングである。
「アルル、せっかく二人とも頑張ったのですから、その結果はあんまりなのです」
「そうですよアルドさん。……そうだ、引き分けなら二人ともキスするって言うのはどうですか? 」
「それは却下だ」
「なんでですか? 」
食い下がるエル。
「私が恥ずかしいからだ」
するとリーヴェが提案をしてくる。
「ホッペにチューはどうですか? 」
「それも——」
それも却下と言おうとしたのだが、目を潤ませながらも一生懸命見つめてくるリーヴェとレイゼルに言葉を詰まらせてしまう。
えーい。
「わかったよ、頬っぺたなら良いよ」
二人とも本当に料理が美味しかったしな。
そうして就寝前にリーヴェとレイゼルに挟まれた私は、倒木に座るなか同時にキスをされるのであった。
そしてこの話には続きがあって——
「アルドさん、キスのお返しはしないのですか? 」
「私からするだと? それは少しハードルが高すぎるのではないか? 」
「そしたら婚約者なんですから、これから毎晩おやすみのチューをして貰ったら良いと思いますよ」
そのエルの提案に、リーヴェとレイゼルが「わかりました」と綺麗にハモる。
うーん、二人にはこれまで婚約者らしい事はなにもしていないわけだし、なにより瞳をウルウルされながら迫られたら断れないしな。
うーん、しかしこれから毎晩か。




