第74話、霧の森
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ギルドで失踪者の氏名が入った似顔絵を手にいれた私達祝福の風は、行き交う人々の中大通りを進んでいる。
「アルドさん、これからどうするのですか? 」
頭の後ろで手を組んで歩いているエルが尋ねてきた。
「あまり乗り気ではないのだが、囮捜査を行なおうと思っている」
「えっ、誰が囮になるんですか? 」
「私です」
そうピシャリと述べたのはレイゼルだ。実は昨晩レイゼルと個別で話した時、自身が囮になる事をレイゼルが提案してきていた。私は反対して代案として私が女装する話をしたのだが、レイゼルから反対と言うか呆れられてしまった。
うーむ。勇者パーティー時代、暗殺勇者が女装して成功した事例があったため大丈夫かなと思ったのだが。そう言えば、あの時私以外のメンバーたちが、女装して男の娘になった暗殺勇者を可愛いともてはやしていたな。因みに興味がなく無関心だった私を、暗殺勇者は鬼のように怒っていたのは恐ろしい記憶だ。
とまぁ、囮捜査はレイゼルに押し切られる形で話が進められたのだが——
レイゼルがいつもの動きやすそうな黒装束では襲われにくいとの事で、女性らしい格好をする事に。
そうして服を買いに行き何着か試着をしたあと、レイゼルは黒のロングシャツにライトグレー系のフレアスカート姿になったのだが——
「どうですか、アルド様」
嬉しそうにクルクルと上体を捻る事によって、着た服の正面と背後を交互に見せてくれるレイゼル。
「あぁ、似合っているよ」
するとレイゼルが曲げた人差し指を唇に当てて、私に向かって微笑みかけてくる。
とそこでエルがズイッと私の視界に入ってきた。
「アルドさん、なんだか最近レイゼルさんとばかり仲良くしていませんか? お姉ちゃんにあまりかまっていなくないですか? 」
「そうか? 」
「そうですよ、婚約者はレイゼルさんだけじゃないんですから、しっかりして下さい」
言われてリーヴェに視線を向けてみると、どこか元気がないように感じられた。だから聞いてみる。
「リーヴェ、大丈夫か? 」
「……大丈夫です」
「いや、大丈夫じゃないだろう? もしかして怒っているのか? 」
「怒っていません」
いや、たしかに今の状態のリーヴェは不機嫌だ。そしてエルが言うように、私がレイゼルと仲良くしていた事が原因のように段々と思えてきた。
どうしたら機嫌をなおしてくれるのか、わからない。そして危険な囮捜査をしようとしているのに、こんな事で悩んでいて良いのか、わからない。
とそこで、クスクス笑っているイリスと目が合う。
「アルル、これからはリーヴェちゃんも気にかけてあげたら良いですよ」
「……助言、ありがとうございます」
因みにこれからの作戦は、囮になったレイゼルが人気のない路地裏を歩いて回り、ちょっかいをかけて来た者達を片っ端から捕縛して尋問すると言う、至ってシンプルなものである。
そして準備が整った私達は、囮捜査を開始する。後方に控える私が全方位回復を展開する中、レイゼルは怪しまれないよう足早に路地裏を歩いていく。
そうしてガラディの街の路地裏を一通り歩き、二巡目に突入した頃全方位回復に複数の怪しい動きをする反応が。その反応はレイゼルの後をついて回っている。そして暫くすると、男達の内の数名がレイゼルを通り越して取り囲む形となった。取り囲んだ男達の一人の手には、怪しい大きな麻袋が。またここからでは聞こえないが、足を止めたレイゼルに話しかけてくる男達。とその時、レイゼルの背後に位置する男がその麻袋を彼女に被せた。
人攫いの現行犯だ!
そこで一斉に動く。駆け寄った私のメイスによる強振、私に続き剣を振るうエル、逃げる標的に矢を放つリーヴェと魔銃を撃つイリス、そして麻袋をナイフでズタズタに切り裂きそのまま襲いかかるレイゼル。そうして一人も逃す事なく男達を捕まえ、尋問し、とある館の場所を突き止める事に成功する。
因みに尋問の際にも男達は負傷をしていったが、洗いざらい全てを話した頃には全ての傷をヒールで完治させた。その代わりに幻影思考の呪文を案内人役以外にかけたのは言うまでもないが。
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今私達は縄でグルグル巻きにしている人に案内をして貰いながら、鬱蒼と生茂る森の中を進んでいます。またウズの森は別名霧の森と言われるだけあって、とても濃い霧で私の目でも遠くまでは見ることが出来ません。そして私はドキドキしながら歩いてます。いつ館が見えてくるのか、悪い人攫い達がどれだけいるのか。
ちなみに猫ちゃん達はみんなの頭や身体の上に乗っているのですが、この間産まれた子猫ちゃん達は走り回るのが楽しいようです。さっきから私達の周りを、両手で持った白い布をなびかせるようにして走り回っています。
「……おかしいな」
先頭を歩くアルドくんが、呟くように言葉を落としました。
「どうかしたのですか? 」
その言葉をエルちゃんが拾います。
「いや、さっきから全方位回復に私達の反応がないのだ」
「リーヴェ様——」
そう私の名前を呼んだのは、私の頭の上にいるパラソル猫のスヴァンさんです。そしてスヴァンさんは続けます。
「索敵魔法に引っかからないのは、走り回っている子猫達の能力です」
「そっ、そうなんですね」
「えぇ、存在感を薄くしています。そしてこの事を、アルド殿に伝えてみて下さい」
「わっ、わかりました! 」
そして先頭を歩くアルドくんに並んだ私は、子猫ちゃん達の能力を伝えました。
すると褒めてくれたアルドくんが、リーヴェの頭をよしよししてくれました。
「良かったですね」
「はい、スヴァンさん、ありがとうございます」
とそこで、軽やかな笛の音が聞こえてきました。音がする方を見てみると、緑色のとんがり帽子を被った一匹の猫ちゃんの姿が。そしてその霧の中から現れた猫ちゃんは、両手で支えるように持った横笛を吹きながら二足歩行でこちらへ近付いてきます。
「私は笛猫のレン、リーヴェ様宜しくお願いします」
と言う事で、また新しい猫ちゃんが仲間になったようです。そこでレンさんが、私の肩の上に飛び乗ってきました。
「リーヴェ様、私の笛の音は集中力を高め心を落ち着かせる効果があります。どうか耳を傾けて下さい」
そしてまた演奏が始まりました。たしかに笛の音を聴いていると、ドキドキが薄れて来ました。
レンさん、ありがとうございます。
そして視界の悪い中ずっと進んでいると、霧から浮かび上がるようにして大きな二階建ての屋敷が目の前に出現しました。




