第73話、犠牲者
ガラディの街に到着した私達は、陽が暮れている事もあって宿屋でチェックインを済ませてからギルドへ立ち寄る。そしていつものようにギルド掲示板で、護衛業の依頼を探していた。
因みにエルは読み書きが出来るのが嬉しいそうで、この手の掲示板を見ると真っ先に確認していく。
「……ないですね」
「あぁ、ないな」
掲示板にはここから西へ行く、護衛業の依頼書が貼り出されていなかった。恐らく商業国家連盟トウセイと亜人国家ハルシオンの間で、国交が開かれていないのだろう。西にあるウズの森を挟んですぐにハルシオンとの国境線があると言うのに、このガラディの街にはエルフやドワーフ、そして獣人の姿が確認出来ていないしな。
「仕方がない、ここから西への移動は徒歩だな」
「えぇー」
「アルド様」
思い思いに掲示板を見ていたレイゼルが、私の隣に来て真剣な眼差しで語りかけてくる。
「最近ガラディ周辺の街々で、多くのうら若き女性達が失踪しているようですね」
「あぁ、私も今見ていたところなんだが、人攫いだろうか? 」
「はい、そのようで」
「……そうか」
ここで私は言葉を失ってしまう。このような時、前世の私なら迷わず助けに行っていただろう。しかし今の私は、守らなければならない大切な仲間がいるわけで、この間のレイゼルの件もあるので彼女達を置いて私一人では行くことは出来ない。
ただし拐われたのが、私の仲間だとしたらどうだろうか? 助けにいかないわけがない。すぐにでも探しにいくだろう。
ここの掲示板に出されている捜索願、その一つ一つが助けを求める叫びのようなもの。だから私は——
そうしてその日の夜、酒場の丸テーブルを囲み食事をとる仲間達の中で、私は一人真剣な表情で意を決する。
「みんな聞いてくれて」
私の言葉にみな談笑をやめて、耳を傾けてくれる。
「今回いつもとは毛色の違う依頼を受注しようと思う」
「アルド様、助けにいかれるのですね」
私の言葉にいち早く察したレイゼルが、声を弾ませて言った。
「あぁ、その依頼とは行方不明者の捜索、人助けだ。しかし高確率で危険が付き纏うが、みんなは参加してくれるだろうか? 」
するとエルが、鼻の下を擦りながらに話し始める。
「アルドさん、ようは勇者パーティーの頃のように動きたいのですね。ボクはまだ足手まといになるかもですけど、頑張りますよ」
エルに続き、リーヴェが真剣な眼差しで口を開く。
「リーヴェも賛成です。アルドくんの言葉じゃないですけど、これも縁なのです」
イリスが優しく微笑みながらに言う。
「アルルがしたいようにやると良いのです。祝福の風はそんなアルルを、全力で応援するのです」
「アルド様、もちろん私は大賛成です」
「そうか、みんなありがとう」
そうして翌朝私達祝福の風は、ギルドへ赴き人探しの依頼を受注するのであった。
◆ ◆ ◆
「おら、歩け! 」
声だけが聞こえる。それは両腕を後ろ手に縛られた上で、目隠しをされているから。
「ガーランドの旦那、連れてきやしたぜ」
「あぁ、そこに繋いだら下がれ」
「わかりやした」
私はただ近道をしようとしただけだった。そして通りから一本入った路地裏を歩いていたら、悪そうな人達に囲まれてしまって——
私の他に連れて来られた女の子の一人が、さっきからずっと泣いている。
私も泣きたい。とそこで——
「泣き顔か、最初に喰らうのはお前に決めた」
その底冷えしそうな男の声のあと、コツコツと歩く音がしたと思ったら泣き声が止んだ。さっきまでわんわん煩いぐらいだったのに、プツリと途切れるように。
……もっ、もしかして殺された!?
「次はお前だ」
コツコツと歩いてくる音が近付いて来て——私の近くで止まる。
わっ、私の番!?
「わっ、私は何でもします。だから命だけは」
私じゃない、隣の人だ。
隣のお嬢様風の声の人は、まくし立てるようにして言った。
「懇願か、嫌いじゃないぞ」
「たっ、助け——」
そしてお嬢様風の人の気配が急に途切れた。
どっ、どうなっているの?
そこで男が、私の後ろに回り込む気配が。そして目隠しと手の縄が外されていく。
わっ、私の番がきたみたい。私は目を見開き辺りを観察する。薄暗い部屋で、アンティークなテーブルと椅子、壁には本棚が置かれているのが確認出来た。またこの場に不釣り合いな、女の子の石像が並べられている。ここはどうやら屋敷の一室のようだけど——
そこで男が正面に回り込んできたので、睨み付ける。
彫りが深く目つきが鋭い男は、ウェーブがかかった黒髪を肩まで伸ばしている。また男は貴族なのか、綺麗な白いボタンシャツをラフに着こなして黒のズボンを履いている。
そこで男が語りかけてくる。
「鋭い眼光だな、まぁ良い。今宵はお前が最後。だから語りかけている。どうだ、私の作品達は? 」
男が手を差し出した先に、女の子の石像が立っていた。
作品? もしかしてこの女の子達の石像の事を言っているの?
「……もしかして、あなたがこの子達を石に変えたの? 」
「あぁ、そうだ」
「そんな馬鹿な——」
そこで昔冒険者だったお爺ちゃんがよく昔話をしてくれる中に、人を石化させる恐ろしいモンスターがいる事を話してくれた事を思い出す。たしかそのモンスターは大国レイジンのダンジョンの一つにいて、コカトリスと言う名の大きな鶏に蛇の尻尾を持つ姿と言っていたはず。
どうやっているのか分からないけど、このままでは私も石にされてしまう!?
男から未知なるものへの不気味さ、恐怖を感じるけど、でも、でもでも私はこの男が——
「許せない」
「そうか、気丈だな」
そこで踵を返した男が、ガラガラとテーブル台車を私の前まで移動させて来た。そのテーブル台車の上には、一本のナイフが置かれている。
「女、そのナイフを好きに使っていいぞ」
言われるまでもない!
私は奪い取るようにナイフを手にすると、両手で握り込み胸の前へ持ってきて構える。
「近付いたら刺すわよ! 」
すると男が、鋭い眼光のまま目尻を下げ口角を吊り上げた。
「その表情、気に入った」
男が無造作に近付いてくる。
「本当に刺すわよ! 」
そんな鬼気迫る私を前に、男は左の手の平をこちらに向けて伸ばしてくる。
「刺してみろ」
そしてその男の声を最後に、私は意識が遠退いてしまう。




