第72話、お披露目会
宿屋の一室、窓から暖かな陽が差してチュンチュンと小鳥が囀る声が聞こえて来る。
もう朝か。結局徹夜をしたわけだが、身体が慣れてきたようで眠気は全くない。
そこで部屋をノックする音が。
「開いているよ」
そして開いた扉からひょっこりと顔を覗かせたのは、リーヴェとエルの二人であった。
「アルドくん、おはようございます」
リーヴェに続きエルも挨拶をしてきたので、私も挨拶を返す。
「その、真実の呪文はわかったですか? 」
「あぁ、聖魔法防御赤とは別に攻撃用の魔法が二つ見つかったので、だいぶ戦力補強されたと思うよ」
「えー、アルドさん、また強くなったのですか? 」
エルがかなり驚いたような表情を浮かべている。……わざとらしいけど、私を元気づけようとして賑やかにしているのだろう。
「まだ試し打ちをしていないためどれくらいの威力があるのか分からないが、アンデット系以外にも有効な遠距離魔法をついに覚えたよ」
「それは見てみたいですねー」
「リーヴェも興味あります」
と言う事で、魔法のお披露目会をしに町外れの草原にまでやって来ていた。
見物人は祝福の風のメンバー全員である。
「うおっほん、攻撃魔法は二種類あるのだが、まずはアンデット系にのみ有効な神聖降臨陣を唱えてみるよ」
するとエルが手をポンっと叩いてみせる。
「昨晩大騒ぎになった魔法ですね。すぐにアルドさんがやったのはわかったのですけど、本当にびっくりしたなー」
「それはすまなかった」
再度みんなに対して頭を下げると、エルが大慌てで手を横へ振る。
「そんな深刻な顔で謝らないで下さいよ」
「……あぁ」
なにかやりにくいな。まぁ、私を心配してくれているのだろうから、ありがたく思わないとだな。
さてと、頭を切り替えていくか。
まずは神聖降臨陣を唱える前に、全方位回復索敵版を展開しておく。それは神聖降臨陣の効果範囲を正確に知るためである。また口に出さなくても発動出来るのだが、言えば気持ちが乗るのと場の雰囲気を汲み取って今回は呪文名を言おうと思う。と前置きはこれくらいにして——
「それでは始めます、神聖降臨陣! 」
魔法を唱えた瞬間、私を中心とした半径五十メートルの地表から髪の毛をふわふわと持ち上げる程の上昇する微風に乗って、強烈なキラキラと光り輝く真っ白な光の柱が発生した。上空は全方位回復の効果範囲ギリギリ一杯の百メートルまで伸びているようだ。そしてこの魔力消費量、私の魔力容量の一割も持っていかれているため、連続して十回は唱える事が出来る計算になる。
前世と比べると効果範囲が広がった分、消費コストが上がったわけか。神聖放出弾の方が格段に魔力消費コストがかからないため、きちんと使い分けして行こうと思う。
「うわっ、やっぱりこの光、凄い迫力であと綺麗ですね」
効果持続時間は、五秒といったところか。
「次は神聖放出弾の亜種、その名も核爆を唱えてみるよ」
一同を背にした状態で、右の手の平を上にして眼前まで上げる。
「核爆! 」
そうして手の平上にコイン一枚程の大きさの、グツグツと煮えたぎる火球が現れた。その火球は徐々に全方位からエネルギーをキュンキュン音を立てながら集めるようにして大きくなり、最終的には神聖放出弾と同じ大きさである拳大程の塊となる。そして正面の木へ向けて、右腕を押し出すようにして火球を放つ。木に着弾、と同時にゴバッと展開される半径三メートルの渦巻く炎の球体に、木は一瞬で跡形もなく燃やし尽くされた。
「ひゃー、もうアルドさん、向かうところ敵なしなんじゃないですか? 」
「いやいや、まだまだだよ」
核爆は神聖放出弾と違ってラーダを介して唱えるため、その分一発一発の魔力消費量が増えているな。また発動してから時間をかけて威力を徐々に上げていく魔法のため、使い所を選びそうだ。あとこの魔法、火球がマックスまで大きくなったらかなり熱い。一つならまだ我慢出来るが、同時に複数個発動した場合は火傷に注意したほうが良さそうだ。そうしてこの魔法は前世とほぼ変わらない効果である事がわかった。
そして注目するべきは、やはりラーダのほうだろう。今ある呪文のスペルを変更したら、また別の魔法が出来そうな予感がしている。それにはまた別の力ある神々しい存在の真名が必要になってくるだろうが。
こうして新魔法のお披露目会は、多くの気づきを得て終わりとなった。
それから街へと帰りギルドへ足を運んだ私達は、街から街へと移動する護衛業の依頼を受注する。
そうして西へ西へ移動してきた私達は、今回も数日間かけて西へと向かい商業国家連盟トウセイの最も西にある街、ガラディへと無事に辿り着くのであった。




