第71話、新しい魔法
◆ ◆ ◆
意識が覚醒してくるが、橙色がまぶたに張り付いていて瞳を開けられない。どうやら私は横になっているようだが——
真上を向いていた頭を横へと向けて、瞳を薄っすらと開けていく。すると夕焼け色に染まる空と、沢山の枝が見えた。
ここは……ダンジョン。
そうか、私はレイゼルを助けるため迷宮核がある部屋から飛び出して、あの男と戦ったのであった。
そして私は今、レイゼルに膝枕をしてもらっているようだ。顔を寄せてきたレイゼルは、整った顔を崩して今にも泣き出しそうな表情をしている。
「……アルド様が急に倒れましたので、心臓が止まる思いでした」
「心配かけたな」
そこで心臓に痛みが走る。また身体中が青あざだらけになっており、疲労で指一本動かせない事にも気付く。そのため念には念を入れてまずは心臓にヒールをかけた後、全身を全方位回復で完治させた。
あの男は強かった。捨身の攻撃を躱された時点でこのままでは勝てないと悟り、つい今しがた呪文を少し修正したばかりの魔法の使用に踏み切った。
聖魔法防御赤。
私が前世で編み出した固有魔法の一つで、今まで真実の呪文が分からずに使用出来なかった魔法。
聖魔法防御の亜種で、心臓に聖魔法防御を連続して何度も何度もかける事によって無理矢理心拍数を上げ、火事場の馬鹿力も相まって常人では不可能な動きを可能にする。
使用中何度も心臓が張り裂けそうになりヒールを多用していたが、結局心臓と全身のダメージにヒールが追いつかなくなって意識が飛んでしまったのだろう。前世の呪文ではここまで心臓にダメージを負わなかったが、あんなに早く動けもしなかった。恐らく聖魔法防御赤は、現段階で真実の呪文ではないのだろう。
そこでみんなが揃っている事に気付く。
そのため私は起き上がると——
「すまなかった、私が浮かれてしまっていたために、レイに危険が迫っている事に気付くのが遅れてしまった。この通りだ」
みんなに向かって頭を下げる。
「アルド様、どうか頭を上げて下さい。至らなかったのは私で、アルド様ではありません。だから自分を責めないで下さい」
「……私を責めないのか? 」
「責めるもなにも、助けて頂きありがとうございます、です」
「リーヴェも、アルドくんはいつも頑張ってると思います! 」
顔を上げると、リーヴェが一生懸命励まそうとしてくれている姿が映る。
「アルドさん、らしくないですよ」
エルはいつもの調子で私を元気づけようとしてくれている。
「しょうがないのです、アルルはいつまでたっても泣き虫なのです」
イリスは広い心で私を受け止めてくれようとしている。
みんな、優しいな。
……そうだな、悔やんでばかりでは前には進めない。そして同じ過ちをしない事が大切なのもわかる。ただし私は今日の事を忘れない。そして今日という日があり、はっきりとわかった事がある。私が一番大切なものは、仲間だと言う事が。
……呪文は二の次だ。
それから私とレイゼルが大事をとって身体を休める中、リーヴェ達三人が迷宮核がある部屋の壁面に描かれた魔法文字を書き写してくれた。
そうしてダンジョンから帰還した私達は、酒場で食事を済ませたのち宿屋に戻って来ていた。
本題の魔法研究を行うか。
今の私のままでは、また仲間に危機が迫った時に助けられないかもしれない。そのためにも、一つでも多くの真実の呪文が分かる魔法を増やさないといけない。
書き写して貰った魔法文字の解読を行なっていく。そうしてあのダンジョンの壁画に描かれた内容が、どうやら炎獄と言う場所に存在する者について記されている事がわかってきた。
さてと、早々に霊界探索を開始するか。
床に腰を下ろし瞳を閉じ肉体をリラックスさせると、何度も深呼吸を行ない六感全てを研ぎ澄ませる。それから自身のアストラル体を肉体の外へと一気に押し出しアストラル界へと移動する。そして仄暗い世界でダンジョンに記されていた文字を頭に思い浮かべると、目的の地である炎獄へと向け飛ぶ。周りの街並みが光となりそれらが後ろへと流れていき、光のトンネルを進んでいくと視界が開かれていった。
ここは——
第一印象は地獄かと思った。見渡す限りの地面という地面から炎が吹き出しており、私が浮かぶ上空には熱風が吹き荒れている。
また精霊なのだろうか?
実体の無い赤い光の球が、火の粉と一緒にあちこちで舞い上がるようにして現れては消えていく。
そこで強烈な存在感を感じる。また全方位回復にも反応が。この方向に私が求める存在がいる!
私はその存在感がする方向へ向け飛行を開始。そうして炎の上を進んでいくと、湧き上がる炎の中からその者は静かに現れた。
四足歩行で紅蓮の長い毛並みを逆立てた大きな神獣。またその神獣が歩いた場所には、パチパチと炎の花が咲き乱れては消えていく。この炎は、再生の炎。
そこで獰猛な一面を併せ持つ静かな意識が、私の頭の中に直接語りかけてきた。人の言葉ではないが、私が何者で何をしに来たのかを聞いてきている事が伝わってくる。そこで私は神獣から思考を覗けれるようにすると、仲間を救いたい想いが伝わるようイメージを行なう。
すると目の前の神獣の名が、煉獄覇王獣ザンバエルグドルガーである事が伝わってきた。
私は真名を教えてくれた感謝の気持ちをザンバエルグドルガーに伝えると、愛を込めて祈り、意識をアストラル界から現実へと引き戻し宿屋の一室へと戻ってきた。
ザンバエルグドルガー、初めて聞く名の神々しい存在で、レダエルの魂と近しく感じた。そして私の中で、今世ではレダエルが複数に分裂しているのではと言う説が浮上してきていた。
……これからもダンジョン探索して、確かめていかねばならないな。
それからすぐさま精神統一をしたのち祈りを捧げて、気付きの中から呪文を構築していく。そして次に、私が考えうる全てのパターンも試していく。
そうして呪文を試していった結果、真実の呪文に辿り着いたのが神聖放出弾 で、呪文名が変わって神聖降臨陣となった。因みに確認のため先程試し打ちをしたら、私を中心にかなり大きな光の柱が発生して街中大騒ぎとなった。部屋の中にいたためどれくらいの範囲の柱が現れたのか不明だが、後日使用して確認しなければならない。
そして私の固有魔法である神聖放出弾専用変換魔法である、ラーダが判明したっぽい。前世ではこれで核爆が撃てていたので、呪文の最終調整をして試し打ちするのが楽しみである。
あとは諸刃の剣で使えるのか微妙だった聖魔法防御赤も、真実の呪文に辿り着いた。
先日の魔法に比べたら抑え目だが、それでも回復に多くの魔力を使用する。そのためここぞと言う時の切り札としての使用を考えている。
そうして今回の魔法研究は、三つの真実の呪文が判明して終わりとなった。




