第66話、怪樹の中の森①
よし、まずは一番下のフロアを目指して登っていくか。
正面にある一番近くの巨木の麓まで移動すると、螺旋状に生えるその幹の上を時には手も使って階段のように登っていく。巨木の枝はそんな螺旋状の幹の内側にも外側にも生えているが、……見えた。はるか上方の巨木の内側に第一フロアの底の部分、密集して生えている多くの枝が。
そして第一フロアまで休憩無しで一気に登った私達は、その広大なエリアに度肝を抜かれる。これは見るからに枝の上ではなく、地面の上となんら変わりない。怪樹の中に土があり草木が生えている、そう鬱蒼と生茂る森が目の前に広がっているのだ。
第一フロア、怪樹の中の森。そしてトレント達が多く存在するため、多くの冒険者達がドロップ目当てで訪れる狩り場。初日の今日は、この森で一日を過ごす事になるわけだ。因みに地図によると、第二第三フロアもここと同じような森が存在するらしい。だから第一フロアでトレントにあまり遭遇しなかった時は、他のフロアへ移動も考えられるわけだ。
「さてと、エル頑張ろうな」
言われたエルは、目を丸くする。
「もしかしてアルドさん、これからボク一人で頑張るとかじゃないですよね? 」
その問いに沈黙で答える。
「鬼、悪魔、アルドさん! 」
酷い言われようだが、引っ張りすぎても可哀想だから——
「エル、すまなかった、冗談だ」
「冗談? 」
「あぁ、冗談だ」
「……アルドさんが冗談を言うだなんて。そう言えばお腹の件もあるし、アルドさんの冗談は笑えないのか」
なぜか一人納得顔のエル。は置いておいて——
「みんな、探索を始めるぞ」
私の号令に皆が返事をするのであった。
◆ ◆ ◆
螺旋に上へ伸びる巨木と巨木の間から、夕焼け色の陽が斜めに差している。
しかし鬱蒼と生茂る森に差し込む光は少なく、よって森の中は薄暗い。
先頭をアルドさんが務め、次にボク、お姉ちゃん、イリスさんと来て、最後尾をレイゼルさんが守っている。そして結構ジグザグに進んでいっているのだけど、なかなかトレントに出会えない。もしかして他の冒険者の人達がすでに討伐してしまったのかな?
とその時、目の端で何かが動いたのを捉える。そこで左側を注視して見てみるのだけど——
あれ? 気のせいかな? 足を止めて見ているのだけど、何も異変はない。
「どうしたエル? 」
アルドさんが同じく足を止め、振り返りながら聞いてきた。
「いま左側で何か動いたような気がしたのですが」
「ほほぉう、中々鋭い勘をしているな」
「と言うと、トレントですか? 」
「あぁ、本当はもっと釣れてから倒そうかと思っていたのだが、エルがすぐに見つけたため即討伐しようか」
えっ? その言葉にゾッとする。だって仮にボクが異変に気付いていなかったら、トレント達に取り囲まれた状態で戦闘がスタートしていたかもしれないのだから。
「ちなみにどの木がトレントだと思う? 」
「えーと」
神経を研ぎ澄ませ、左側をしらみ潰しに見ていく。
「エルさん」
すると声をかけられた、レイゼルさんだ。
「まずは身体から滲み出している闘気を、イメージして下さい」
「はっ、はい」
言われるがまま、イメージしてみる。
「そして肌は鳥肌が立つような感じにして、そこから一気にその闘気を外側に放出してみて下さい。そうですね、最初は一メートルぐらいまで放出を伸ばしてから固定してみて下さい」
こっ、こうかな?
「敵の索敵は、目で見るのではなく身体で感じるのです」
そこでアルドさんが感嘆の息を吐く。
「中々やるな。そしたらエル、その状態で怪しい場所に近付いてみるのだ」
そうして闘気を放出しながら暫く歩いていくと、明らかに違和感を感じる木を見つける。
「もしかしてこれですか!? 」
指差して思う。それは一メートルと接近している木であって——
『キシャァー』
擬態を解いたため目と口が現れた木が、両手の枝を広げてボクに覆い被さってこようとする。
「ぎゃー」
その時一陣の風が吹いて——
「よく見つけた」
ボクとトレントの間にアルドさんが。
そして強振されたメイスが、トレントの幹に突き刺さるようにして当たる。
吹き飛ばされたトレントは傷口から黒い霧を噴出し出したかと思っていると、全体から黒い霧が滲み出てきてボォンという破裂音と共に全てが黒霧へと変わった。
「ひゃー、相変わらずの馬鹿力ですね」
するとレイゼルさんが頭を横に振る。
「今の攻撃、確かに力が強いですけどそれだけではありません」
「と言いますと? 」
「トレントは木のモンスターで、木はそこそこ硬いです。しかし全てが硬いと、トレントは動けません。つまりトレントは動くために少し柔らかな場所があります」
「なるほど、そしたらアルドさんはその柔らかい部分を狙っているんですね! 」
「それでは半分正解です」
「えー半分ですか? 」
するとレイゼルさんが微笑んだ気がした。
「はい、実はモンスターも少し闘気を纏っています。そして闘気は身体を満遍なく覆っているのではなく、薄い場所があったりします」
「えっ、もしかして」
「そうです、アルド様は外皮が薄い中でもさらに闘気が薄い場所を狙って攻撃されています。だから敵は、紙屑のように壊れてしまうのです」
「うわっ、今の一撃にそんな凄い技術が盛り込まれていたのですか!? 」
正直凄すぎて、本当なのかどうか疑いたくなってしまう。でも実際にあの固そうなトレントが瞬殺されたわけだし——
「しかし闘気にも分厚い場所や薄い場所が存在するのですね」
「はい、どんなに鍛えていても薄い場所は皆あります。そして薄い場所を人は急所と呼びます。しかしアルド様の言葉じゃないですが、なににでも例外があって……」
そこでレイゼルさんの視線がアルドさんに向けられる。
しかしレイゼルさんの説明、アルドさんと違って分かりやすい。今度から戦闘の技術はレイゼルさん、いやレイゼル先生に教えて貰おうとボクは思うのであった。




