第57話、ピエロの品定め②
夕暮れ時、路地裏には陽が差し込んでいないため冷たい空気が辺りを包み込んでいる。
ピエロはいつの間に取り出したのか、その両手にはナイフが握り込まれていた。そこから青白い光を放ちながらナイフをくるりと回転させると、逆手に持ち替える。
相手はやる気満々か。私は相手が殺しにかかってくる場合、その相手が例え女でも手加減はしないと決めている。しかも相手は一流、こちらも全力でいかせて貰う。
私がメイスを手に取ると、ピエロがゆらりとこちらへ向かって歩きだす。そして唐突に走り出した。距離はあっという間にゼロとなる。林檎をなます切りにしたように、右へ左へナイフを鋭く振ってくる。今度は林檎ではなく、私を標的にして。
それを私はメイスを素早く動かして防いでいく。
◆ ◆ ◆
武器を傷つける事なく防いでいきますか。
生存維持本能でメイスに闘気を纏っていますね。しかもかなりの練度で……それと魔法付与もしていますね。ふふふっ、スピードを上げていきますよ。
金属と金属が衝突する音が、路地裏にメロディとして奏でられていきます。
このスピードもついてきますか。素晴らしい、しかも魔力回路の乱れを微塵も感じさせないですね。やはり私の勘は当たっていました、ゾクゾクしてしまいそうです。
そこでナイフでの乱撃の間隙を縫って、前蹴りが私の鳩尾目掛けて繰り出されました。私はそれを、右脚を上げて防ごうとするのですけど——
なっ、威力が——
あまりにも強烈な蹴りに、私が吹き飛ばされている!? そこで上半身に力を込め重心をコントロール下におくと、バク転をして後退します。
そして彼は、そんな私を追い詰めるため前進してきていました。
あぁぁぁ、素晴らしい、いま私、責められている。だめ、本気を出してしまいそうです。
彼はメイスで襲いかかってくるのですが、それをナイフで防いでいきます。とても力強い——
抑えないと——彼が腐り落ちてしまう。こんなに良い男なんだから、私が認めた男だから、もう殺してしまっては駄目ですのに。
ナイフが一本、また一本と弾かれ私の手から溢れ落ちてしまいます。
あぁぁ、もう駄目、抑えが効かない。本当の私を受け止めて欲しい欲求に——誰も耐えられやしないのに。
そこでメイスが無防備な私目掛けて振り下ろされ——
あぁ、容赦がないところも、素敵。
肉体意志力増強の上限突破、闘気形状変化を思わず発動してしまいます。
彼が持つメイスが私の闘気形状変化である侵食によりポキリと折れます。
こうなっては抑えが効かないです。私の半径十メートル以内の物は全て例外なく、侵食の餌食であります。つまり彼は既に侵食により腐れ落ちて、絶命する寸前に——
視線を上げて彼と最後の対面をしようとするのですが、……彼は綺麗な顔のまま佇んでいました。
えっ、なぜ、どうして?
そして彼から振り下ろされる拳に、私は顔面を殴られていきます。チラリと周囲を見れば、草木は腐食していっています。つまり彼だけ無傷!?
「ちょっ、ちょっと待って下さい」
両手を上げて降参をアピールします。すると彼は拳を止めてくれました。
あぁぁ、優しいところも素敵。
「どうした、命乞いか? 」
私は高い鼻筋が災いして折れてしまっているのを無理矢理元に戻すと、ポケットから出したハンカチで流れている鼻血を拭き取ります。
「私はレイゼル=ブラームスと申します」
「……えっ、あぁ、そうか」
あぁぁ、この人の熱くて濃い子種を、私の中に出して欲しい。
「良ければ私と結婚して下さい」
「えぇぇぇ、……結婚ですか? 」
「そうです、そして私に沢山子供を産まさせて下さい」
「どう言う事ですか? 」
「……実は私、旦那様を探す旅をしておりまして、貴方様に、いえ、アルド様にお会いする事が出来ました」
「はぁ」
「……ご迷惑ですか? 」
「迷惑もなにも、突然の申し出に混乱しています」
あぁぁ、即切り捨てないところも優しい。
そこで思わず飛び込んでしまいます、彼の胸の中へ。
暖かい、それに私がこうして人に触れる事が出来る日が来るだなんて。
それから私は、自身と家族が商業国家連盟トウセイで有名な殺人請負ファミリー、マザー&ミスターであると言う事実や、私には本当にアルド様しかいない事を何度も何度も伝えました。
すると顔面に回復魔法をかけてくれたアルド様が、仲間を紹介すると言って宿屋まで連れていってくれる事になりました。




