第55話、大道芸人
アトゥリ二日目、一人魔具の弓の製作に取り掛かっているイリスを宿に残して、私達三人は早朝からギルドへ訪れていた。
今回はお金稼ぎが目的なため、様々な依頼に目を通していこうと思う。
とそこで人でごった返している中、エルがちょんちょんと背中を突っついてきた。
「多くの人で賑わっていますね」
「そうだな」
朝早くなのにみんな依頼書が張り出されるのを、まだかまだかと待っているようだ。
そして多くの冒険者が見守る中、ギルドの係の者が紙の束を抱えて現れた。次々と依頼掲示板に新たな紙を貼り出していく。
この街は近くにダンジョンが無い事もあって、ダンジョン関係の仕事は殆どないな。
そんな事を考えていると、一枚、また一枚と同業者である冒険者によって依頼書が剥がされていく。
この感じ、みんな受ける依頼をある程度絞って来ているようだ。お目当の依頼が張り出されたら、即受注するといった感じで。これは依頼ラッシュを甘くみていたな。完全に出遅れてしまった。
そして冒険者に人気があるであろう採取関連と討伐関連の依頼書は、数が少なかった事もありあっという間に無くなってしまった。あとは街と街を行き来する護衛系ぐらいだが、イリスを置いてはいけないし——
いや、残っている採取関連ものもあるが、それはどれも難度が高いドラゴン関連のものであった。
つい先日、レッドドラゴンを討伐したと言うのにな。普通の街なら処理に手間取ってしまうかもだが、ここの街のように大きな市場があれば、持ち込めば売れる部位は沢山あったはず。
……いや待てよ、いっそドラゴンを狩りにいくか?
しかし何よりこの街の周辺にはドラゴンがいないみたいだし、リーヴェのエンチャント弓矢、一射に全てを託すのは——危険か。これは私達のパーティーには、ドラゴンはまだ早すぎると言う事なのだろう。
そこでドラゴン関連の依頼書には、どれもB級冒険者からの参加になっている事に気付く。
なんて事だ。どのみち受注出来ないではないか。ちなみに私がEランク、リーヴェとエルがFランクで、イリスも昔取得したきりっと言う事でFランクである。
逆にランクを必要としない依頼のどれもは、冒険者でなくても良い肉体労働や雑用の仕事ばかり。これは高額の依頼は諦めて、掃除や配達などで地道に稼ぎなさいという神託なのかもしれない。
そこでエルを見やる。
「エル、労働をしているのに理想の体型、筋肉がつく仕事はどう思う? 」
「えっ、例えばどんなお仕事ですか? 」
「そうだな、この工事現場での石運びなんてどうだ? 」
「えー、冒険者なんですから、冒険者らしい仕事がしたいです。あとボク、か弱い女の子だから工事現場はちょっと……」
「しかしこの街はダンジョンが近くに無いからな——」
「そしたらボク達、個々で出来る事をやりましょう」
「……出来る事か」
「そうです! 」
私が出来ること。文字の読み書きを教えれる。あとは神学について語れるぐらいかな?
つまり教師になれるわけだが、需要、即ち生徒がいないのであれば成り立たない職業である。
「ちなみにエルは何が出来るのだ? 」
「ボクは、宿屋の受け付けや客室清掃、あとは呼び込みなんて出来ます」
「なるほど」
実家が宿屋だったしな。しかしエルも私と同じよう、冒険者とは程遠いスキルを持っている。
「リーヴェは何が出来る? 」
「リーヴェは狩りと植物採取です」
「そうだよな」
リーヴェが一番冒険者らしいスキルを持ち合わせているが、今回はその肝心な依頼がない。
「アルドさん、思ったんですけど、また明日出直すなんてどうですか? 」
「それもそうだな、また明日掲示板を見に来ようか」
そうしてギルドを後にした私達は、街をぶらぶらしていた。しかし何もしなくてもお腹は減るわけで、コロッケを複数個購入した私達は一人頑張るイリスへ差し入れをするのであった。
そして昼過ぎ、何もする事がない私達は再度街へ繰り出していた。
しかし一日を無駄にしてしまっているな。そんな思いを抱いていると、リーヴェとエルの笑顔が見えた。二人は街を見て回るのが新鮮で楽しいようだ。
そうか、二人のためと思って接してきたが、今までの日々が忙しすぎたのだ。
たまにはこんな日、明確な目的がない日があっても良いのか。
とそこで街の広場に観客ゼロの中、奇妙なダンスをしている上半身裸のモンク風のおっさんを見つける。
あのモンク、羞恥心を捨てて鉄の心臓を獲得しようとしているのか?
「アルドさん、あれ見に行きましょう! 」
ちなみにエルが指差しているのは、そのモンク風のおっさんの隣、人だかりが出来ている方であった。
「あぁ」
そして近付いてみると、一人のピエロが鋭そうなナイフでジャグリングをしているところであった。大道芸人か、前世で旅していた時に何度か見た事があるな。そうして早々に興味を失った私は立ち去ろうとしたのだけど——二人は初めて見るようで足を完全に止めていた。
仕方がない、少し付き合うか。
そして一緒になって拍手をしたりしていたのだが——
このピエロ、えらく目が座っているな。パッと見て分からなかったが、見れば見るほど常人の目つきでない事が分かってくる。
とそこでずっと無口で黙々と演技をしていたピエロが、その口を初めて開いてみせる。
「お兄さん、ちょっとこちらへ来てお手伝いをして頂けないですか? 」
私の事を言っているようだ。しまった、完全に厄介ごとに首を突っ込んでしまったような気がする。
私がピエロの瞳の奥を覗き込んでいた間、ピエロもこちらを見ていたのだろう。私もそうだが、魔力回路を解放させている者は、魔力回路を解放させている相手が分かる事がある。そしてこのピエロ、十中八九魔力回路が解放されている。そう、只者ではない。




