第54話、アトゥリでぶらぶら
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ひたすら荷馬車に揺られていたのだが、ようやく揺れが完全に止まった。そう、商業国家連盟トウセイ領内の街、アトゥリに到着したのだ。今日はもう遅いしみんな長旅で疲れただろうから、ギルドで報償金を貰ったら酒場で晩飯だな。
ちなみに先程お別れしたシグナ達特務部隊の人達は、捕縛した者たちから情報を聞き出して明朝に荒野の蜥蜴のアジトへ向けて出発するらしい。
前世の私がそうだったように、国の機関に属している者はこき使われて大変そうである。
そして翌朝——
宿屋を出発した私達は、早速市場へ顔を出していた。
しかし活気があるな。朝早いと言うのに、道行く人で大通りはごった返している。
そして近くに海があるだけあって、露店には山の幸だけでなく多くの新鮮な魚も並べられているようだ。また商業国家連盟と言う名は伊達ではなく、市場の奥の方には骨董品や魔具などの装備品から、何に使うのかわからないモンスターの部位までなんでも売られているそうだ。
さてと、取り敢えずまずは朝食かな。
そこで目を輝かせキョロキョロと歩いていたエルが、とあるお店の前で興奮気味に話しかけてくる。
「アルドさん、アルドさん、あのクリームシチューって言う白いスープを食べてみたいです。いいですか? 」
「あぁ、かまわないよ」
そこで身体をくの字に曲げて顎に手を当ててそのお店の看板を間近で見ているイリスが、首だけをこちらへ向ける。
「クリームシチューにパンを付けて食べるのがオススメらしいのです。みんなもパンを買いますか? 」
「はい、リーヴェもパンを買います」
そうして木製のお椀とスプーンを手渡された私達は、その場で立ったままトロリとしたクリームシチューに丸パンを付けて食べる事になった。まずはクリームシチュー単体で食べてみるか。スプーンで掬って口に運ぶ。美味しいな、このクリームシチューって奴。クリーミーだけどあっさりしているため、パクパクと口に運べる。
次はこのパンを千切って、クリームシチューに浸すのか。
……なんと、固かったパンが水気を帯びる事により、咀嚼するちょうど良い固さへと変わるとは。パンだからお腹にも溜まって良い。そうして私達は初めて食べるクリームシチューをペロリと堪能するのであった。
「アルル、次は弓の素材を見に行きたいのです」
「わかりました。荷物持ちでもなんでもしますよ」
と言う事で次は市場の奥の方、蚤の市での探索が始まる。私達はイリスについて回っているのだが完全に専門外で、イリスが一人目を輝かせている状態だ。そして時間と共に見て回ったお店が増えてくると、少しづつ荷物が増えていった。
しかしイリスは買い物上手だな。私はぼったくられない程度に値段交渉をするが、イリスは全部相手が提示している値段より安く買い物をしている。
お金は有限で大切だからな。
今度から私達のチームの売買窓口をイリスに任せるか。
そこで武器を扱っている露店の前に通りかかる。棚や広げた風呂敷の上に所狭しと剣や槍、そしてメイスが立てかけたり置かれたりしている。
早速イリスに頼んでみるか。
柄の長さが色々とある中で、六十センチ程の長さの中古品であろうメイスを手に取ってみる。そしてそれをイリスに見えるように掲げる。
「イリス、このメイスが欲しいのですけど、出来るだけ安く購入してくれませんか」
「お安い御用ですよ」
そしてそのメイスを手にして品定めをしたイリスは、お店の人に対して話したてる。
それはメイスに錆が付着しているから始まり、今の世にメイスを扱う人間なんてどれだけいるのや、いま在庫処分しないとずーと売れ残るです、と言ったこのメイスに対する低い評価をぶつけまくった。
そして集まってきたギャラリーを味方につけて、お店の人が泣きながら帰ってくれと言ったあたりで購入を決めた。
ちなみにこちらも中古品だが、おまけで弓も付いてきていた。
「はい、アルルとリーヴェちゃん」
「あぁ、ありがとう」
「ありがとうです」
しかしまさか半額になるとは。そしてたしかに少し錆が付いているが、そこまで言われたらかなり気になるではないか。
……宿屋に帰ったら、厚手の布で擦って錆を目立たなくしようかな。
それからも買い物は続き、お昼は串団子を頂いた。そして陽が傾く頃には、弓の素材は残すところ竜種の堅殻のみとなっていた。それも売っている所を見つけているのだが、元々の値段が高すぎたため買い物上手なイリスでも買えなかった。
まぁイリス曰く弓の製作はそこそこ時間が掛かるそうで、今晩から早速取り掛かるらしいのだが各パーツごとに造るそうなのでまだ全てが揃っていなくても大丈夫との事だ。
しかし資金不足か。
リーヴェとエルを連れて、明日からはギルドで依頼をこなしてお金を貯めないとだな。




