第45話、特務部隊①
「とっておきですか? 」
「えぇ、私の研究の集大成。だからとっておきなのです」
再度イリスの家へ戻った私たちは、お店の方ではなくアトリエの方へ通されていた。
作りかけの魔具だろうか、アトリエは所狭しと物が置かれている。その中でも一際目を引くのは、何種類かの鋼鉄素材で作られている肘から先の腕だ。ガラスケースの中で縦に置かれたそれは、義手のようである。
そうしてアトリエの奥でゴソゴソしていたイリスが、魔銃をかなり長くしたような物を両手で抱えて現れた。眼鏡をしているイリスは、うっとりとした表情でその手の物を見ている。
「見せたかったのはこれです。スナイパーライフルG。魔銃より射程が長くて、威力もあるのです」
「それも魔銃ですか? 」
「そうです。簡単に言うと魔水晶に魔石を組み込んだ魔力炉を、この小さなサイズで構築した逸品中の逸品。魔石の消費が多いのですけど、現在これだけが大気中の魔素が濃ければ代用が効くのです」
そこで小首を傾けたイリスが、不思議そうな顔で眼鏡をクイクイ上げ下げする。
「おかしいですね、部屋の中の魔素値が安定していないのです」
そして不意にリーヴェへ視線を向けた眼鏡姿のイリスが、直後に目を丸くして固まる。
「なんですか? なんで魔力が溢れているのですか? もしかしてずっとこの状態が続いているわけですか? なんで、なんでなのですか? 」
リーヴェに詰め寄るイリスに、困惑顔であわあわと慌てふためくリーヴェ。
「うっ、生まれつき、こんな体質なのです」
「そしたら、その周りに浮かぶ発光体は何ですか? 」
なに、発光体だと?
「発光体ですか? ……猫ちゃんだと思います」
「ねっ、猫!? なにそれです? なんでこの光が猫なのですか? あと裸眼で見えているのですか? もしかしてこの光が猫に見えているのですか? 」
「はい! 」
あの眼鏡をかければリーヴェが言う猫たちが見えるのか! 猫には秘密が多い。
それにあの眼鏡で見れば、魔力付与された時など何かしらの変化を見る事が出来るのでは。
「私も見て良いですか? 」
「えぇ」
イリスから眼鏡を借りると、早速リーヴェを見やる。すると確かに今まで見えなかった発光体が、リーヴェの周辺を漂っていた。
そこでイリスがリーヴェの体をペタペタと触り始める。
「あっ」
「なんでなのですか? 凄い凄いのです! それに肌もモチモチしているのです」
何を言っているのだ?
「それは関係ないのでは? 」
「そうです、それより助手にならないですか? 」
「えっ、助手ですか? 」
「そうです、助手なのです。なにも難しい事は要求しませんから、ただ色々と耐えてくれるだけで良いのです」
「耐えるのですか? 」
「ごめんなさい、助手の話は冗談なのです。でも凄い才能の持ち主なのです! 」
「あっ、ありがとうございます! こんなに褒められたのは生まれて初めてかもしれません! 」
なに、私もリーヴェの才能をベタ褒めした記憶があるのだが。
「それよりかなり脱線してしまったのです」
そこで眼鏡を返した私は、そのままイリスへ問いかける。
「イリスさん、私たちの仲間になると言う事は、このお店を捨てて冒険に出る事になるのですが、それで良いのですか? 」
「えぇ、もう決めましたから大丈夫なのです」
イリスはテーブルに眼鏡を置くと、真っ直ぐ見つめ返してくる。どうやら決意は固いようだが——
「リーヴェとエルは良いか? 」
その問いに二人は首肯で返事をする。
決まりか。
「イリスさん、仲間になるからには呼び捨てで呼ばせて貰いますけど、良いですか? 」
「もちろんですアルル、好きに呼ぶのです」
こうして魔銃使いのイリスが、正式に仲間になった。
しかし魔銃か。どう考えても近接戦闘メンバーではないため、未だ私が回復に専念する事が出来ないパーティー構成のままであるな。
次の日、イリスの荷物整理を手伝ったりして過ごした私たちは、あっという間に時間が過ぎ去り護衛任務当日を迎えるのであった。
朝靄が残る早朝、私たち四人は集合場所を訪れていた。そこには既に多くの者たちが集まっており、今も尚多くの者がこの場へ足を運んでいる。
しかし仲間次第では依頼のキャンセルを考えていたが、杞憂に終わったか。どの者も精悍な顔つきで、商人も商人らしからぬ強者の顔つき。十中八九襲われるのを覚悟しているから、当然と言えば当然なのだが。
しかし凄い顔ぶれだ。
盲目の覇者ボルコス。通り名の通り、彼は目が見えない。しかし心の眼を開眼しているらしく、こと戦闘に関してはハンデを物ともしない豪傑と言われる。また通り名の由来となった覇者とは、とある闘技大会に出場し、当時Eランクだったボルコスが優勝賞金の全額をギルドへ寄付したらしい。そこでギルド内の審議が行われる事となり、ギルドへの貢献、またその優勝する強さから申し分なしと、異例の飛び級でBランクへ昇格した経緯がある。そしてBランクへ昇格した事で、他の冒険者同様、通り名がギルドより与えられた。
次に視線を奥へと向ける。まさかこの者を間近で見る日が来るとは。
レコの勇者と名高い、他の者より頭一つ分抜け出した筋骨隆々の大男、勇者カザン。所属は特務部隊の隊長職で、冒険者ではなく国に属する軍人。と言っても他の軍人と違い国中で人助けの放浪の旅をしているため、国中に彼の偉業を称える者がいる。レコの国民から愛される勇者で、人格も優れた戦士。
そしてあの金髪の女兵士の隣にいる片眼を隠すように前髪を伸ばした長髪剣士。恐らく彼が双頭の竜殺しシグナだろう。カザンが指揮する特務部隊の隊員でありながら彼の相棒と噂される彼は、最近二つ首の竜の変異種である双頭のドラゴンを討伐。その部位で作り上げた斬撃と殴打に使い分けられる特殊な両刃の剣、ドラゴンソードを携えるとされる戦士。
そんな彼と親しそうに話している金髪の女性も、もしかしたら特務部隊に属した兵士なのかもしれない。
彼ら、特に特務部隊の人間がいるという事は、この任務を受ける価値が極めて高い事を意味する。それは彼らは傭兵まがいの冒険者たちとは違い、簡単に途中で任務を放棄する事がないからだ。
とそこで声がかかる。
「おいおい、女性が沢山参加するみたいだけど、大丈夫なのか? 」
声をかけて来たのは、双頭の魔竜殺しシグナである。




