第41話、とある休日
◆ ◆ ◆
「全方位回復」
自室の床を血で汚す程に、ぐちゃぐちゃに損傷した私の右手が瞬時に完治する。しかし今まで使っていた全方位回復は、真実の呪文ではなかったのか。そしてこの感じ、前世と比べても格段に性能アップしたな。
結局祈りで得た気付きも含め考え得る全ての呪文を試した結果、写本の間違いを正し真実の呪文に辿り着いた事で大幅に性能アップしたのが全方位回復。
これはブースト無しでも、部位接着と部位復元を行えるようになったのは大きい。
あとは今まで使えなかった上級回復魔法の真実の呪文の一部が判明したようで、自動復元回復として実戦でギリギリ使えるレベルにまでなった。また幻影思考の真実の呪文が完全に判明したに終わったか。
幻影思考も試しに自身へ使用してみたが、前世と比べ遜色ない効果が発揮されている。
つまりそれはアジュツゥレモから得た情報により、私が知る全ての回復魔法の真実の呪文が分からなかったと言う事だ。
よってレダエルからレダギルとアジュツゥレモが二つに分かれた説が、完全に消えてしまったわけだ。
ああぁ、それよりまた新しいダンジョンで新たな手掛かりを見つけるまでは、今回のような本格的な魔法研究はお預けになるのか。
そこで窓を見ると、朝陽が室内にさしていた。
徹夜をしたわけなんだが、まだまだ早い時間のようだな。気分が高揚しているため朝飯も食べなくても良いし、今日一日ぐらいは寝なくてもいけるのだがする事もないので少し寝るとするか——
そこで部屋がノックされる。
「アルドくん、起きていますか? 」
リーヴェの声、……朝食の誘いかな?
「あぁ、あと開いてるよ」
すると僅かに開いた扉から、リーヴェが顔を覗かせる。
「アルドくん、その、大変な事になりました! 」
この感じ、真に大変な事ではなく、リーヴェの中では大変な事なのだが、他人から見ると割とどうでも良い話のパターンである。
「まずは落ち着くんだリーヴェ、話はそれからだ」
「はい! 」
それから深呼吸をしたリーヴェは、小首を傾げた。
「えっと、あれ? 」
どうやらテンパりすぎて、話の内容をど忘れしたようだ。そこでヒントを出す事に。
「ウォッホン、……ちょう……しょく」
「そうそう、朝食を食べに行かないですか? 」
「あぁ、付き合うよ。そしたら少し用意をするから、待って貰ってもいいかな? 」
「はっ、はい! 」
しかし忘れた事柄を思い出したであろうリーヴェは、何故かまだハテナ顔で何かを思い出そうとする素振りを見せていた。
要件は他にもあったのかな?
そして私の用意が済むとエルも誘いに部屋へ向かったのだが、既に一人で食事に出掛ける旨が記された書き置きが残されていた。そのため二人で外へ出掛ける事になり、どのお店に入ろうかと現地で直接決める事になったのだが——
なんだか久々に街を見ながら、ゆっくり歩いている気がする。
リーヴェもこの状況を楽しんでいるようで、先程から食事とは関係ないお店でチョコチョコと足を止めている。
「ここも覗いて良いですか? 」
「いちいち私に断らなくて、好きに見てくれて構わないよ。そこまでお腹が空いているわけではないから」
「ありがとうです! 」
そして適当に決めた飯屋で朝食を済ませ商店街に出ると、リーヴェは興味があるのか果物屋さんの前で立ち止まりモジモジし始めた。
◆ ◆ ◆
リーヴェたちの上に乗っている猫さんたちの事を伝えようと思っていたのに、直前で物忘れしてしまったです。
でも気がつくと、リーヴェがアルドくんを朝食に誘っていて、部屋に戻ると何故かエルちゃんは居なくなっていて。それから食事が終わったのに用事もなく街を二人で歩くだなんて、なんだか知らないうちにデートをしているみたいになっています。しかも誘ったのはリーヴェからであって——
そこで恥ずかしくなってしまい思わず足を止めてしまっていると、アルドくんから声が掛かります。
「ここも入ってみるか」
「えっ、はい、見てみます! 」
顔を上げて苦し紛れにそう伝えると、アルドくんがポンと手を打ちます。
「あぁ、そう言うことか」
……えっ? リーヴェの心の内が、バレたです!?
遅れてですが、アルドくんの言葉の意味を理解した瞬間、心臓の鼓動が飛び出しそうなぐらいバクバクになっちゃっています!
しかもリーヴェの心の中を見透かしているような、優しい瞳で絶賛見られています!
「あっ、……その」
恥ずかしくて、身体が内から震えて、出そうとしていないのに声が勝手に外に出てしまっています。
「気にしなくて良いよ、荷物持ちなら手伝うから」
そうしてそこそこ重くて荷物になる、ズイガカを一玉買う事になりました。表面は黒の縦じまが入った緑の球体でそこそこ高いですけど、割ったら赤くて甘い身が詰まってるので、これは痛い出費ではないのです!
それから他のお店も立ち寄りながら串団子も購入したリーヴェたちは、それを食べながらギルドまですぐそこの所まで来ました。
「リーヴェ、ついでだからギルドに寄っていかないか? 依頼掲示板を見ておきたかったから」
「わかりました! 」
ギルド内に入ると朝一番に張り出される依頼を求めて訪れる冒険者の方々による、依頼ラッシュが終わった後のようでした。そのためギルド側の建物内にはあまり冒険者の方々は居らず、変わって酒場の方で飲んでいる冒険者の方々の人数が多い状態になっています。
そこでアルドくんの後について掲示板を見て行っているのですけど、どうやら護衛の依頼ばかりを見ているようです。
あっ、わかりました! ダンジョン断崖絶壁の虚空城を攻略したので、この街から違う街に向かうのですね! そしてただ移動をするのではなくて、ついでに護衛の依頼があればそれを受注するという。
「アルドくん、次の目的地はどこになるのですか? 」
「それが特には決めていないんだ。回復魔法の研究も楽しみなんだが、世界を気ままに旅するのも自由で良いかなと思っているから」
世界を自由に旅ですか! リーヴェもなんだか、とってもワクワクして来たです!
「因みにリーヴェは、北と南はどっちが良いと思う? 」
「どちらかと言えば南です! 寒いよりは暑いほうが良いです! 」
「そか、そしたらこれかな。キャラバンに同行するメンバーを集っているのが一件あるな。レコ王国と西方の隣国マジェスタ王国の国境線を南下する商隊で、……出発は明朝になっているな。急だけどエルにも聞いて、オッケーならこれにするか? 」
「はいです! 」
冒険者って大変だと思っていたのですけど、こんな形で旅が出来るのはとっても楽しそうです!
「そしたら早速宿に戻って、エルに聞いてみるとするか」
そうしてエルちゃんの同意も得たので正式に依頼を受注して、リーヴェたち三人はズイガカを仲良く分けて明日に備えるのでした。




