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第4話、リーヴェさん、近くないですか?

 ユーリダス家の敷地を出た私とリーヴェは奴隷商会に首輪を返却したのち、町の北側に位置する配達屋『ルラ』に向かって歩き始めた。

 因みにここバーバラの町はとても小さな町のため、冒険者風の人間を滅多に拝む事が出来ない。そのため町を行き交う人々は、私たちと同じような庶民の服装だ。


「そう言えばリーヴェ」


「はい? 」


「取り敢えずこれから、私と同じ仕事をするんだよな?」


「はい! 」


「なんと言うか、今までと違う仕事って、緊張するよな」


「はい」


「……あとリーヴェ? 」


「はい? 」


「これからの事に緊張しているんだろうけど、さっきからずっと『はい』しか言ってないぞ」


「あっ、はっ……うぅぅ、アルドくん、意地悪です」


「はははっ、いや、ごめん。でも私はそんなリーヴェが好きだから、安心してくれ」


「……えっ? 」


 さてと、もう首輪の跡を残しておく必要もないので、さっさと消しておくとするか。

 首に手を当てると、頭の中に呪文を構築し解き放つ。それによって私の首がヒールの淡い青色に包まれたのち、その光が消え首輪の跡も同じく消えた。

 よしと。


「あの、アルドくん? 」


「ん? どうかしたか? 」


「えーと、今の光ってもしかして、魔法なんですか? 」


「そうだよ、初級回復魔法のヒールだ」


「アルドくんって、読み書きが教えられたり魔法が使えたり、本当に凄いです! 」


「いやいや、私の授業についてこれたリーヴェ君も中々だよ。……先生は立派な生徒と出会えて、幸せだ」


「もー、また子供扱いされている気がするのです! 屋敷では私の方が先輩だったんですからね! 」


 リーヴェが頬っぺたを膨らませウーウー唸りながら迫ってくる。


「すまない、つい」


 しかしリーヴェ、少し私に近寄りすぎではないか?

 屋敷にいた頃から時々近いかなと思う事はあった。だが屋敷を出てからはずっと、なんだか近いような気がする。


 ハーフダークエルフのリーヴェは、大きな瞳に鼻筋通った綺麗な顔立ちをしているがどこかヌケた性格のため、冷たい印象が一切なく逆に表情に優しさが滲み出ている。

 そんな実年齢より少し若く見えそうなリーヴェは、流石ダークエルフの血が流れているだけあって、スタイルがよく出ているところはちゃんと出ているようだ。


 ……いかんいかん、私は十六才の女の子をなんて目で見てしまっているのだ!?

 身体は十八才でも、私は前世の年も合わせると四十後半のオジさんなんだぞ。

 この若さゆえの身体の熱を下げてしまわねば。

 私なら出来る、精神を集中して呼吸を整えていくのだ。


 ゆっくり、ゆっくりと——


「アルドくん? 」


「おわっ! 」


 突然私の肩に柔らかな手が置かれたため、ビックリして声を上げてしまった。


「アッ、アルドくんごめんなさい。その、目を閉じたまま、寝たまま歩いていたから危ないかなと思って」


「あっ、あぁ、すまない。急に眠気が襲ってきたんだ。助かったよ」


 色々と恥ずかしくてリーヴェの顔が見れない。


「あっ、あれじゃないですか? 」


 リーヴェの声に見上げる。すると彼女が指差す方向の先に、こちらから見えるようにして目的地である配達屋の看板が壁からぶら下がっているのが見えた。


 しかしこの時の私は、本当に眠くて頭が働いていなかったと思う。

 だから忘れてしまっていた、軽んじてしまっていた。

 人は私と違って、他者に固執する生き物だと。また人によっては疑い深く勝手に敵を作りあげると、時には排斥や排除をしたがる愚かで浅ましい者も中には存在する事を。



 ◆ ◆ ◆



 わしは怒りが治らなくて、玄関ホールの絨毯の上を右へ左へ行ったり来たりを繰り返している。


 最後に見せたあいつの目、あれはなんだったんだ?

 凄みのような、わしを射竦めさせる眼光。


 ……そうだ、わしは時折見せるあいつの冷めた目つきが気に入らなくて、教育と称して痛めつけてきた。しかしあいつは、数日経つとなにもなかったかのようにケロッとして仕事をしている。

 主従関係を分からせるために、執拗に繰り返してやったというのに。


 そう言えば別れ際、あいつはわしの踏みつけを片手で止めていたような?


 ……気の所為だろう。しかしあいつは、あいつはわしに恨みを持っている。

 首輪の制限が無くなったいま、報復に来るかもしれない。

 奴隷の分際で、……人以下の家畜の分際で!


 ふざけるな!

 腹立たしい、なぜわしがこんなにイライラしないといけないんだ? 生かしておいてやった恩を仇で返しやがって、許せん! 許せん許せん許せん許せん!


 そこで怒りに任せて壁を殴りつけるが、逆に拳を痛めてしまう。しかしその痛みがわしを冷静にさせた。


 そう言えばあいつら、ここを出てからは配達屋で仕事をすると言っていたはず。

 近くにダンジョンは無いが、町から町への移動は常に危険がつきもの。金欲しさに追い剥ぎをする奴がいても、なんらおかしくない。武器を携帯していない丸腰のガキなら、尚更狙われて当然。

 首輪付きのままで死なせてしまったよりは安価だし、安眠代と考えれば安いものだ。


 くくっ、アルの奴め、わしを怒らせた事を後悔させてやるからな!

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― 新着の感想 ―
静かな夜からの侵入→制止→翌朝の旅立ち→不穏なラスト、と起承転結がはっきりしてて、伏線としてパオルの逆恨みが次の事件の火種になりそうな引きになっているのが秀逸でした。凄く上手いと思います!
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