第101話、猛き識者メギルベル
レイゼルと見張りの番を交代しながら三時間の休憩を取った私は、起床してきたエルに声を掛ける。
「エル、今回は眠れたかな? 」
「はい、涼しかったですし疲れも溜まっていたので、目を閉じていたらいつの間にか寝むっていました」
「それは良かったな」
そしてリーヴェも起きてきたため出発のため荷物を纏めると、私はみんなが見えるようにダンジョンの地図を広げる。
「さてと、ここから先は深部に近い事もあって一筋縄ではいかないモンスターが沢山いるそうだ」
頭の後ろで手を組んでいるエルが質問をしてくる。
「例えばどんなモンスターがいるんですか? 」
「砂漠地帯に白っぽいリザードマンがいただろ。ここには緑色のリザードマンがいるそうなんだが、その中に混じっているらしい」
「何がですか? 」
「普通のリザードマンより一回り大きくて体格ががっちりしている将軍リザードマンが」
「やっぱり変異種ですか? 」
「だろうな。そしてそいつは一蹴りで大木をへし折る脚力があるらしい」
「へぇー」
そこで地図の中の、山が描かれた場所を指差す。
「まぁ、リザードマンが多くいる巣穴みたいなのがここら辺にあるそうなんだが、そこに近づかなければまず遭遇しないそうだ。またギルドで確認されていてまだ討伐出来ていない変異種の竜なんてのもいるぞ」
「それはどんな奴なんです? 」
「雷を纏った竜だそうで、表皮の上に雷が流れていて雷のブレスを吐くそうだ。そのため雷撃竜と呼ばれているらしい」
「なんか、格好良さげですね」
「こいつはここから先の森林地帯だったらどこにでも飛んで現れるらしいから注意が必要だな」
「他には注意が必要な敵はいるんですか? 」
「あとは普通の竜も多数いるそうなんだが、雷撃竜と同じようによく空を飛んでいるそうだから上空に注意しながら進まないといけないな。と言う事で小川を目印に上方が木々で隠れている所を進もうと思っているのだが、どうだろうか? 」
私の投げかけに三人とも了承の返事をする。
そこでリーヴェがいつものように元気よく話しかけてくる。
「アルドくん、子猫ちゃん達がまたリーヴェ達の周りを走り回り始めましたので、また他人からは存在感が薄くなっていると思います」
「そうか、子猫達が復活したか。それは頼もしいな」
「はい! 」
そうして私達は、小川近くの木々の間を進んで行く。小川の横幅が深部に近づけば近づいただけ広くなっていく中、リザードマンの一団や近くの空に飛んでいる竜と遭遇しそうになったりもした。しかし子猫達の力のおかげもあって、それらに見つかる事なく進むことが出来ていた。
そして遂に私達はダンジョン竜が棲まう大地の深部である、滝の所まで来ていた。
「わー、すっごい景色ですね」
「きっ、綺麗です」
「これは、幻想的な場所ですね」
三者三様の感想が聞こえてくる中、みんなに習って下方を覗き込んでみる。たしかに綺麗で不思議な空間だな。小川の終着点は流れ落ちる滝になっていた。そのため前面がごっそり何も無く空と一体化しており、緑豊かな崖から多くの量の水が流れ落ちていた。また滝の下方、遥か先には絨毯のように雲が広がっている。
またここは竜の楽園なのかとも思った。それは遠いため豆粒くらいの大きさに見えるが、多くの竜がそれこそじゃれ合うように楽しそうに飛行していたり崖の窪みで翼を休ませていたりしているのが見えたから。
「アルドさん、ここが深部なんですよね? 迷宮核の部屋はもしかしてこの崖の下とか言わないですよね? 」
「いや、迷宮核の部屋は反対、上空の方らしい」
「えっ、どこですか? 」
「あの雲の中に島が浮いているそうだ」
「へぇー、凄いな」
そしてその迷宮核の部屋の前には炎影神竜メギルベルがいる。
「ここで待っているとメギルベルが現れるって話なので、みんな心の準備をしておいてくれ。なんせその竜は人の言葉を話し、人の心を覗き見るらしいから」
「うわっ、そんな事を言われたら逆に雑念が浮かび上がってきてしまうよー。どうしよう? 」
「エル、そんな時は瞑想をして心を落ち着けるのだ」
「そんなのアルドさんしか出来ないよー」
そしてリーヴェが緊張した面持ちで待ち、エルがあーだこーだ何やらごにょごにょ言い、レイゼルが澄まし顔でいる中、メギルベルは……現れなかった。
なぜだ? 情報に偽りがあったのか? それとも既に心の中を読まれて飽きられてしまったとかなのか? わからない。
……でも私は諦めるわけにはいかない。イリスを助けるための手掛かりを見つけなければ。しかしどうする?
いっそ会いに来てくれないのなら、こちらから会いに行ってみるか。本来ならメギルベルに気に入られたらその背に乗せて貰い浮島まで運んでくれるそうなんだが、幸いな事にこちらには空を飛べるエルがいる。
「エル、少し頼みがあるのだがいいか? 」
「なんですか? 」
「私をあの雲の中にあるであろう島の所まで、飛んで運んでくれないだろうか? 」
「飛んでですか。……まぁ、いいですよ」
「本当か、ありがとう」
「やめて下さいよ、仲間じゃないですか」
「そしたらリーヴェとレイ、安全が確認出来たら二人とも呼び寄せるから少し待っていてくれ」
「「わかりました」」
そうして天使バージョンになり翼を生やしたエルが、私の後方から抱きつく感じで腕を回してきた。そこで一気に飛び上がる。上から下へと流れる景色。
はっ、早いな。
そしてあっという間に雲の中に突入。眼下に陸地が見えてきた。そこに降り立つ私とエル。どうやらこの島は、白を基調とした神殿跡のような建造物が広がっているようだ。
そうして深い霧の中を徒歩で進んで行っていると、熱量を感じる。目の前に浮かび上がる巨大な陰。それに対して、歩を進めてさらに近づく。身体を丸めて休めているのか、その巨大な身体を真紅に染めるドラゴン。また身体の細部が炎となっておりメラメラと燃えている。
この威圧感を感じずにはいられないドラゴン、メギルベルなのだろうか?
「あの、アルドさん、話しかけてみます? 」
「そうだな、話しかけてみるか」
そこで声を張り上げてみる。
「私はアルド=モードレッドと言います。あなたの名前を教えて頂けないでしょうか? 」
するとドラゴンの瞳が開かれ、両の翼を頭上高く上げ弓なりに反らせる。そして頭の中に聞こえてくる声。
『ワシか? ワシの名はメギルベル。して何用か』
メギルベルに倣い心の中で質問に答える。
『仲間を助ける為に真実の呪文が必要なのです。迷宮核のある部屋へ通して貰えないですか? 』
『ふむふむ、たしかにお前が望む答えはここにあるだろう。しかし真っ直ぐな心を持っているな。少しの雑念もないとは。ただし通しても良いが少し話すか。お前は特殊な生まれのようだからな』
『特殊な生まれ、ですか? 』
『前世の記憶があるだろう? 』
『なぜそれを? 』
『質問を投げかけると、波紋のように情報が浮かび上がってくるのだ。して『魔なる者』と呼ばれる存在が何なのかから話そうか』
『魔なる者の、その正体……』
『それは世界真理神レダエル、そうお前が信仰していた神だ』




