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9/10

九 ある意味というか、この登場シーンを書いたところで、終わっても?

 白亜の街を覆う黒煙の中を、一羽の巨鳥が旋回していた。


「お待たせ~!」


 明るい声と共に、巨鳥が図書館の屋上に着陸する。背に乗っていたのは、まるでRPGのような出で立ちの少女。銀髪のショートカットに、黒いローブ。そして、首から下げた古びたペンダントが、かすかに青く光っている。


「システムエンジニアのアリアです♪ よろしく!」


 屈託のない笑顔と共に、ウィンドウが展開される。


Friend Request from: Aria

Title: The Quick-Cast Sorceress

Status: Former Security Engineer

Accept? [Y/N]


「あ、はい。よろしく」


 戸惑いながらも承認すると、彼女は満足げに頷いた。


「良かった~。味方のデベロッパー見つけられるかな~って心配だったの」


 その時、新たな火柱が立ち上がる。アリアの表情が一変した。


「もう、手加減なしなの?この暴走パターン...」


 彼女は素早くペンダントに触れ、何かをつぶやく。


「grep -r "force_push" ./world/magic/*/access_log | sort -k2」


 空中に次々とログが展開される。


「見て。force pushの痕跡が、全部北の魔法塔から」


 彼女の指摘に、図書館員が身を乗り出す。


「システムの根幹に対する強制的な書き換えというわけですか...」


「うん。しかも、結構強引なやり方。タイムスタンプ見てると...」


 アリアの説明は、新たな警報で遮られた。


WARNING: Buffer Overflow Detected

Location: ./world/magic/elemental/fire.git

Status: Memory corruption imminent

Action required: Immediate intervention


「まずい!このままじゃメモリ破壊が...」


 僕が慌てて対処しようとした時、アリアが軽やかに杖を振る。


「fire_wall.sh -target all -range 500」


 瞬間、図書館の周囲に整然とした火の壁が形成される。驚くべきことに、その炎は制御を失った魔法の影響を完全に遮断していた。


「シェルスクリプト...!そうか、定型魔法を事前定義してるんですね」


 アリアはウインクする。


「ご明察。既存の魔法をラッピングして、使いやすくしてるの。まあ、非公式の魔法って言われちゃうんだけど」


 巨鳥が不安げに鳴く。空は、さらに不気味な色に染まっていた。


「説明は後回しかな。とりあえず、北の魔法塔に向かいましょ?」


 アリアの提案に、全員が頷く。が、その時。


SYSTEM ALERT:

Multiple instances of "./world/physics/gravity.git" detected

Warning: Possible repository duplication

Location: Northern Magic Tower area


「重力システムまで...」


 アリアが眉をひそめる。


「dark_compilerの手口、だいぶ強引になってきたわね」


 彼女は巨鳥に跨りながら、僕たちに手を差し伸べた。


「さ、行きましょ。わたしがハッキング対策、君がシステム修復。図書館員さんの知識も必要になるはず」


 ピクシィが僕の肩に止まる。


「当然、私も行くわよ。...べ、別にあんたが心配だからじゃないわよ!」


 一同が巨鳥に乗り込んだ瞬間、新たな通知が届く。


Quest Updated: [Restore the Authority]

Party formed:

- You (Developer)

- Aria (Security Expert)

- Library Administrator (System Historian)

- Pixie (System Assistant)

Time remaining: 2:47:13


 白亜の街が、徐々に視界から遠ざかっていく。その上空には、歪んだ空間に覆われた北の魔法塔が、不吉な影を落としていた。

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