九 ある意味というか、この登場シーンを書いたところで、終わっても?
白亜の街を覆う黒煙の中を、一羽の巨鳥が旋回していた。
「お待たせ~!」
明るい声と共に、巨鳥が図書館の屋上に着陸する。背に乗っていたのは、まるでRPGのような出で立ちの少女。銀髪のショートカットに、黒いローブ。そして、首から下げた古びたペンダントが、かすかに青く光っている。
「システムエンジニアのアリアです♪ よろしく!」
屈託のない笑顔と共に、ウィンドウが展開される。
Friend Request from: Aria
Title: The Quick-Cast Sorceress
Status: Former Security Engineer
Accept? [Y/N]
「あ、はい。よろしく」
戸惑いながらも承認すると、彼女は満足げに頷いた。
「良かった~。味方のデベロッパー見つけられるかな~って心配だったの」
その時、新たな火柱が立ち上がる。アリアの表情が一変した。
「もう、手加減なしなの?この暴走パターン...」
彼女は素早くペンダントに触れ、何かをつぶやく。
「grep -r "force_push" ./world/magic/*/access_log | sort -k2」
空中に次々とログが展開される。
「見て。force pushの痕跡が、全部北の魔法塔から」
彼女の指摘に、図書館員が身を乗り出す。
「システムの根幹に対する強制的な書き換えというわけですか...」
「うん。しかも、結構強引なやり方。タイムスタンプ見てると...」
アリアの説明は、新たな警報で遮られた。
WARNING: Buffer Overflow Detected
Location: ./world/magic/elemental/fire.git
Status: Memory corruption imminent
Action required: Immediate intervention
「まずい!このままじゃメモリ破壊が...」
僕が慌てて対処しようとした時、アリアが軽やかに杖を振る。
「fire_wall.sh -target all -range 500」
瞬間、図書館の周囲に整然とした火の壁が形成される。驚くべきことに、その炎は制御を失った魔法の影響を完全に遮断していた。
「シェルスクリプト...!そうか、定型魔法を事前定義してるんですね」
アリアはウインクする。
「ご明察。既存の魔法をラッピングして、使いやすくしてるの。まあ、非公式の魔法って言われちゃうんだけど」
巨鳥が不安げに鳴く。空は、さらに不気味な色に染まっていた。
「説明は後回しかな。とりあえず、北の魔法塔に向かいましょ?」
アリアの提案に、全員が頷く。が、その時。
SYSTEM ALERT:
Multiple instances of "./world/physics/gravity.git" detected
Warning: Possible repository duplication
Location: Northern Magic Tower area
「重力システムまで...」
アリアが眉をひそめる。
「dark_compilerの手口、だいぶ強引になってきたわね」
彼女は巨鳥に跨りながら、僕たちに手を差し伸べた。
「さ、行きましょ。わたしがハッキング対策、君がシステム修復。図書館員さんの知識も必要になるはず」
ピクシィが僕の肩に止まる。
「当然、私も行くわよ。...べ、別にあんたが心配だからじゃないわよ!」
一同が巨鳥に乗り込んだ瞬間、新たな通知が届く。
Quest Updated: [Restore the Authority]
Party formed:
- You (Developer)
- Aria (Security Expert)
- Library Administrator (System Historian)
- Pixie (System Assistant)
Time remaining: 2:47:13
白亜の街が、徐々に視界から遠ざかっていく。その上空には、歪んだ空間に覆われた北の魔法塔が、不吉な影を落としていた。




