四 魔法の詠唱がこんなに面倒くさいものだったなんて・・・
「これが魔導図書館...」
巨大な図書館の玄関前で、僕は首を傾けた。白亜の外観はこの街並みに違和感なく溶け込んでいるが、その上空に浮かぶホログラムのような魔法陣群は、明らかに異質だ。
「ほら、早く中に入りなさいよ!」
せかすようなピクシィの声に、僕は静かに頷く。重厚な扉をくぐり、中に足を踏み入れた瞬間、視界がざわめいた。
Notice: Library System Connected
Access Level: READ (Public)
Available Sections:
- General Magic
- History
- Social Studies
- Restricted Archives (Higher access required)
図書館のシステムからの通知に目を通しながら、僕は内部を見渡す。古びた書架が整然と並ぶ様子は一般的な図書館のようだが、本の背表紙が淡く発光しているのが特徴的だ。
「まずは、基本的な魔法体系の資料からあたってみようか」
そう言って歩き出した僕の前に、突如として青白い光が現れる。
Access Denied: Command Line Interface
Current Status: Library Mode
Note: Switch interface mode to proceed
「ふむ」
僕はその通知の意味を瞬時に理解した。この世界のシステムには、複数の操作モードがあるということだ。
「switch_mode("command_line");」
Command Line Mode Activated
Terminal Ready
> _
視界の一部がターミナル画面のように変化する。やはり、この世界のシステムはコンピュータのそれに酷似している。
「ls ./magic_system/」
Contents of ./magic_system:
drwxr-xr-x ElementalMagic/
drwxr-xr-x SystemMagic/
drwxr-xr-x StatusMagic/
-rw-r--r-- README.md
-rw-r--r-- CHANGELOG.md
-rw-r--r-- .gitignore
「...!」
表示された内容に、僕は思わず息を呑む。これは間違いなくLinuxのファイルシステムのような構造だ。しかも、.gitignoreの存在は、この世界がGitで管理されているという推測の裏付けとなる。
「cat README.md」
# World Magic System
Version: 2.0.3-alpha
## Overview
This is the core magic system of the world.
Originally developed by the Ancient Ones.
Currently maintained by the Regional Repository Maintainers.
## Warning
CRITICAL: System instability detected
Cause: Unknown
Status: Investigation required
Priority: HIGH
「ねぇ...あなた、何をしてるの?」
肩越しに覗き込むピクシィの声に、説明を始めようとした瞬間、新たな通知が浮かび上がる。
Warning: Suspicious Access Pattern Detected
Location: Main Library, Section C
User: Unknown (Previous Developer Signature Found)
Action Required: Report to Administrator
「まずいな...」
それと同時に、図書館の奥から人の気配が近づいてくる。長い法衣を纏った図書館員だ。その胸には、Repository Maintainer Assistantの徽章が輝いている。
「あなたですか...通常とは異なるアクセスパターンを示している方は」
落ち着いた声音で問いかけてくる図書館員。その目には、警戒と同時に、どこか期待のような色が浮かんでいる。
「はい。私は...」
答えようとした瞬間、新たなウィンドウが展開される。
Quest Updated: [Repository Access Rights]
New Objective: Explain your identity to the Library Administrator
Warning: Your response may affect future access rights
図書館員の視線を受けながら、僕は深く息を吸う。この出会いは、偶然ではないのかもしれない。そう直感した僕は、決意を固めて口を開いた。
「私は、このシステムの...前世界での開発者です」
その言葉と共に、図書館全体が微かに震動する。まるで、世界そのものが僕の言葉に反応したかのように。
New Access Pattern Recognized
Developer Signature Authentication: In Progress
Please stand by...
図書館員の表情が、僕の発言を機に一変する。
「お待ちしておりました...開発者様」




