第4話 おせち饗宴
昨年、思うところがあって神さまに供するおせち料理を作るのをやめると宣言したシュウだったが。
まあ、そのあとの騒ぎと言ったら。
全国津々浦々の神さまから、来るわ来るわ、ブーイングの嵐! 嵐! あらし!
なにせ八百万の神々様がブーブーぶうぶう、ぶぶうのぶう! と、毎日うるさいことこの上がなかった。
そして。
今年も当然、おせちは作りませんと宣言したあと、今度は静かにブーイングの波が広がっていく。
ただ、気の弱い? 神さま方は、シュウに言ってもあのポーカーフェイスでいなされるのを知っているからか(昨年実証済み)、夏樹を攻撃の的にしてきたのだ。まあ、この夏樹攻撃には、誰とは言いませんが策士が絡んでいるのはいつもの事。
朝も昼も夜も、それこそ寝る間を惜しんでブーブー言ってこられる神さまに、さすがの夏樹がシュウに泣きついた。
「シュウさあ~ん、神さまがあ、神さまが毎日毎日、まーいにち、ぶうぶううるさくて、俺、寝られません~」
「それは……悪かったね……」
「シュウがあんなこと言うからだよ。おせち作るのやめるなんてさ。しかも二年続けてなんだもん。みんなこの一年間、シュウの作るおせち料理を、すごく楽しみにしてたんだから~」
ニッコリ笑って言う冬里に、心外という顔で答えるシュウ。
「楽しみにして頂けるのはありがたいけど、それだと……」
シュウがなぜおせち料理の提供をやめると言い出したのか、それは、もともと各神社におられる、神さま専属の料理人に遠慮をしたからなのだ。
「せっかくおられる料理人が腕を振るえないのは、どうにも申し訳なくて」
けれどそんな心配は全くの杞憂だったことがわかる。
なんと!
全国津々浦々の神さま専属料理人たちからも、静かにブーイングの嵐が巻き起こっていたのだ。
これにはさすがのシュウも目を丸くするしかない。
「ふふ、事態がよく飲み込めていないご様子」
茶化すように言う冬里に、どんな返事をすれば良いのか、とまどうシュウ。
「だ~か~ら~、前に言ったじゃない。料理人たちはシュウの妙技を見たいんだって」
「妙技って……」
「はい! それは俺にもわかります!」
すると、今までシュウに泣き言を言いつつ2人の会話を聞いていた夏樹が、急に元気になるとピシッと手を上げて言う。
「シュウさんの料理は、作ってるひとつひとつの過程を見てるだけなのに、すんごく勉強になりますもん。気づくことが無限にあるし、目からうろこがドシドシぽろぽろ落ちていきます!」
「だよね~」
「ね~」
などと言って、さっきまでとは裏腹に可愛く首をかしげる夏樹とそれに応える冬里の野郎2人に、ようやくいつものようにため息をつくシュウだった。
そして、さすがのシュウも、実際に起こっている現象から目をそらすわけには行かない。神さまだけでなく、料理人からもリクエストがあるのならば。
「仕方ありません」
ふう、と、気持ちを落ち着かせるように1つ呼吸をすると、天に向けて宣言をしたのだった。
「今年は、おせち料理を作らせて頂きます」
「!!!」
まあ、そのあとの騒ぎと言ったら。
盆と正月と、クリスマスとバレンタインデーとホワイトデーと、春休みと夏休みと秋休みと冬休みがいっぺんに来たような大わらわ。
「やんや、やんやあ」
「あなめでたや」
「あら嬉しや」
「シュウ・クラマの料理姿が!」
「また見られる!」
「料理じゃおせちじゃ」
「酒が美味いぞ」
「やんやーやんやー」
「……!、……!、……!、」
これを見たシュウは、判断を誤ったかなと、今度は大きなため息をつくしかなかったが。
とは言え、一度言った事を取り消したりしないのがシュウのシュウたるところ。
「皆さまに喜んで頂けるのでしたら、こんなに嬉しいことはありません」
それを聞いてまた喜ぶ皆の衆に、「ただし」と、釘を刺すことは忘れない。
「今年は奇をてらった物ではなく、昔からある正統派のおせちを作らせていただきます。ですので、申し訳ありませんがどなたのリクエストもお受けすることは出来ません」
昨年休んでしまったので、神さま方の事だから、あれが良いこれが良い、いやわしはあれが食べたい、いやこんなのも食べたいと、超うざい(あ、これは失礼……)、……とても賑やかになるのは承知しているが。
そこはやはりこちらにも都合というものがあることをわかっていただかなくては。
シュウの新たな宣言に、ハッとする神さまとその料理人たちだったが、そのあとの彼の表情に、こうなったシュウを動かすのは誰にも(宇宙人でさえも!)無理だと皆わかっているので、おとなしく首を縦に振るばかりだった。
残るは会場選びだけなのだが。
これに関しては一昨年、虎視眈々と立候補を狙っていた《すせりびめ》、(こちらは《おおくにぬしのかみ》の奥さまであらせられます)よりの強い希望で、出雲大社が引き受けてくださる事になった。
そうと決まれば、話は早い。
暮れも押し詰まったある日。
10月でもないのに、「出雲大社」(正確には以前、椿と由利香の披露宴をした、かの料亭です)に続々と神さまが集まり始める。
そして、彼らの専属料理人たちもね。あ、もちろんいつものアニメネズミたちも、頬を紅潮させてやってきていた。こればかりは神さまに感謝するシュウだ。
「よろしくお願いしますね」
「はい、シュウしゃまのお手伝いが出来ますこと、大変嬉しゅうございます」
そしてもう一人。
「うっし! 頑張るぞお!」
もちろん夏樹も料理人として手伝いをする気満々だ。
さてここで、おせちの説明を簡単に。
そもそもおせちとは、新年を迎える大切な正月の節句の日に、神様に振る舞う料理だったそうな。
「ええー、だったら作りませんなんて言った鞍馬くんは罰当たりよねえ」とか、由利香なら言いそうですね。
そしておせち料理は、五穀豊穣、家内安全、子孫繁栄、不老長寿、などの意味を込めた山の幸、海の幸を贅沢に盛り込んであり、それぞれの料理には年初めに食べるべき理由や意味が込められているんだそうです。
黒豆 数の子 田作り(ごまめ) たたきごぼう 紅白かまぼこ 伊達巻き 栗きんとん 紅白なます 昆布巻き 鯛・ブリ・エビの焼き物 お煮しめ
代表的なものだけ並べてみましたが、日本人ならどれかひとつくらいは食べたことがあるのでは? 〈子どもの頃は栗きんとんと、かまぼこばかり食べた記憶も……〉
とまあ、御託はこのくらいにして、料理作りに入りましょうか。
とは言え、定番おせちなら、どの料理人さんも1度は作ったことがあるはず。
勝手知ったる御台所へ集まった精鋭たち。
皆、余裕綽々で準備を始め……、
……? あれ?
えーと、どなたも料理を始めようとせず、緊張の面持ちです。
いえ、緊張と言うより、皆、心持ちお顔がにやついているような。
そうなんです、皆さん、今か今かとシュウからの指示を待っていらっしゃるんですねえ。
そんな中でただ1人。
「よーし、はじめるぞお。食材は? どこかな食材~」
テンション上がりまくる夏樹だが、ふと、他の誰も動いていないことに気が付いた。
「あれ? どうしたんすか?」
「皆しゃま、シュウしゃま待ちです」
「シュウさん待ち? あ!」
夏樹が、ちょっぴり苦笑しながらどこからか取り出した資料を配りだすシュウに気づく。
「それ、何の資料っすか! 俺にも下さい」
当然、定番おせちのレシピだ。今回のレシピは3段重ねの重箱に、祝い肴、口取り、焼き物、お煮しめを詰めていく手はずになっている。
ひととおり目を通したところで、早速食材を取りに行く者、早速シュウに質問をする者など。
ようやく料理人たちが動き出した。
今回のおせち作りでは、3段目の煮しめだけは大釜で作り、あとの料理は各々の料理人が各々の神さまのために作っていくことになっている。
シュウはアニメネズミたちとともに、煮しめを担当することにしている。
けれど厳密な決まりはないので、他の料理人も手が空いたときは、大釜にやってきて手伝ったりもする。
そのほかにも、シュウにレシピの質問をして行く者もいる。
シュウは誰が来ても丁寧な対応をするし、心和む一言二言を添えることも忘れないので、誰もが嬉しそうだし楽しそうだ。
こうして2年ぶりのおせち饗宴が過ぎていった。
もちろん夏樹も、他の料理人に引けを取らないほど頑張っている。
とは言え。
シュウの煮しめが非常に気になるのも確かだ。
ただ、営業中におこるふとした疑問は店が終わってから質問すると言うのが、彼の中での鉄則になっているので、今日もチラチラと横目で大釜を見つつ、「ん? 今の動きは?」とか「あ、今入れたのなんだろ」とか、聞きに行きたいのをぐっと我慢している。
けれど他の料理人たちはずいぶん違うようなので、それも意外だ。
(で、ここからはしばし夏樹、心の声)
――俺は自分の担当をこなしながら、横目でシュウさんの技を見つつ、他の料理人の動きにも注目していた。
さすがは神さま専属の料理人。シュウさんの時とはまた違った意味で勉強になることが山ほどある。
で、シュウさんへの対応も。
なんというか、俺みたいに頑張って技を盗むぞおーって力んでるんじゃなく、(……あ、そういう人もたまにいるんだけどね)
わからない事があったり、シュウさんがちょっと違った動きを見せたりすると、躊躇なく行って質問するんだよね。
でも、なんて言うか、その質問の仕方も素直って言うか、本当にこれが知りたいって言う純粋な思いからだから、ちっとも嫌みがない。シュウさんもそれがわかってるから、純粋な答えを返す。そして彼らは納得するとまた自分の仕事に戻っていく。
そんな風に次から次へとやってくる料理人たちに、シュウさんは嫌な顔ひとつせずイラついたりもせず。
しかもだよ、質問の答えだけじゃなくて1人1人の癖なんかをよく見ていて、ちょっとしたアドバイスまでしてしまうんだ。これには料理人たちも驚いたり喜んだり。
そんな中でもシュウさんの手は止まることなく、風が流れるように自然に仕事をこなして行く。
その立ち居振る舞いが、そこから出来上がっていく料理が……
ああ……
思わず天板に顔を埋める俺。
そして、心の声が、口に出てしまっていた――
「うー! くっそお、カッコいいなあ、シュウさんは!」
するとちょっと下の方から聞こえる声。
「夏樹しゃまも、カッコいいでございましゅよ」
へ? と顔を上げて声のした方を見ると、一匹のアニメネズミがきょとんとしながら言っている。
「うん、俺もそう思うよ」
「へ?」
そして、その向こうにいた神さまの料理人も、ニッコリ笑いながら頷いた。
「え、ええーっと、……」
わけがわからず返事に困る夏樹。
「だってさあ、あのシュウ・クラマの隣で、毎日遜色なく料理を作ってるんだろ? それだけでも、カッコいいっつうか、尊敬するわあ」
「へ? ええー! いやいや遜色なくってほどでは」
「え? けどさ、お前が作った料理をお客様にお出ししてるんだろ? それとも店ではシュウが全部作ってるのか?」
「え? いやいや、俺も作ってますよ」
「だったらすごいじゃないか~」
今度は《すさのお》やヤオヨロズのように、ガッハハハと笑って言う。
「実際、お前の料理姿、カッコいいぜえ」
「カッコいいぜえ」「いいぜえ」
アニメネズミたちも、なんだか楽しそうにキュッキュッと身体をくねらせながら言ってくれるものだから、夏樹は嬉しいやら恥ずかしいやら。
「えっへへえ、なんかモジモジしちまうす。けど、ありがとうございます! おーっし、だったら今からはもっと格好よくなれるよう頑張ります」
「おう、期待してるぜ」
ニュッと手が伸びてきて、バン! と背中を叩かれて、ちょっとむせつつも笑顔満開の夏樹だった。
当然、夏樹にも気を配っていたシュウが、そんな様子に、ふ、と微笑んでいると、
「ま~た、過保護」
と、のたまう声がする。
「冬里」
今までどこをほっつき歩いていたのか、〈ニコッ〉、……あ、すみません。
ここでようやく冬里が登場した。
「そろそろ仕上げに入った頃かな~って思って、見に来たんだよね」
そう、冬里は今回も料理作りには参加せず、放っておくと「料理はまだか、まだか」と邪魔ばかりしに来る神さま方のお目付役兼余興係などという面倒な役を買って出ていたのだ。当人は面倒どころかけっこう楽しんでいた様子だが。
それを知っているシュウなので、過保護発言にも特に反応はせずにいる。
「ああ、いつもながらナイスなタイミングだね」
そうなのだ。
ちょうどさきほど、すべてのお重に料理が詰め終えられ、是非にと頼まれて最終チェックをしようとしていたところだ。
「そう? だったらお運び隊を呼んでもいいね」
と、そこにいたアニメネズミに目配せをして、頷く彼らと共に、パチン! と華麗に指を鳴らす冬里。
すると。
御台所の四方八方からダダーーーっと音がして、お運び隊の老若男女がずらりと整列した。
「はいはーい。えーと、どうやらシュウが最終チェックするみたいだから~」
と、言って指をクルクル回しつつ一瞬考える冬里。
そして指が止まったところで、今度は冬里が指示を出し始める。
「あ、シューウ。この端の列からチェックして行ってよ。お運び隊の皆はチェック済んだのから順に持って行ってね」
「はい!」「了解」「かしこまりましてごじゃいます」
シュウは今度こそこめかみに手を当て、ため息をついて言う。
「料理は完璧だから、本当はチェックはいらないんだけど……」
するとそれを聞いた冬里が、周りにいた料理人に問うた。
「ってシュウは言ってるけど。もうチェックしなくていい?」
するとすると、料理人たちは揃ってブンブンと首を横に振る。
「だそうだよ」
そしてパンパンと手を打つと楽しそうに言った。
「はいはい、シュウは順番にチェックして。手抜きしないでね~」
「かしこまりました」
ここまで来てはもう仕方がないと腹をくくり、うやうやしくお辞儀などして、置かれた料理に順に向き合うシュウだった。
お重は三段。
1段目に「祝肴」と「口取り」。
2段目に「焼き魚」と「酢の物」。
3段目にはお煮しめが詰められている。
料理人たちに渡したレシピはすべて同じ。
けれど。
どの重箱もひとつとして同じ物がない。ひとりひとりの個性や思いや、その料理人らしさがあふれ出ている。そして一番大事なこと、お出しする神さまへの思いが存分に込められている。
シュウはそういうのが好きだ。
百貨店やスーパーマーケットで販売するおせちなら、見た目も味も規格通り、すべて揃っていなくてはならないのが当たり前だ。そういうものもまた大事にしたいシュウだが、ここはそうではない。
なので、あえてレシピに曖昧な表現を残しておいたのだ。
ここから先は、自分で考えて――。自分の思いを表現して――。
そんなシュウの気持ちを皆がくみ取ってくれたのだろう。
嬉しさをかみしめつつ、最後のお重に向かう。
これは……。
「夏樹」
「はい!」
「いいおせちが出来たね」
「あ……、はい! ありがとうございます!」
それは夏樹が手がけたおせち。
ひと目見てわかった。
ニカッと笑う夏樹がそこにいるような、大輪の花が咲いたような華やかなおせち。
夏樹のおせちはあとで冬里とシュウが頂くことになっている。
これは楽しみですね。
ふ、と微笑むシュウに、何か言いたげな冬里だったが、なぜか今回は無言のまま肩をすくめるだけだった。
「皆さんお疲れ様でした。きっと神さま方もお待ちでしょうから、私たちも宴会場へ行きましょうか」
そう、今日は新年、無礼講。
料理人たちにも宴を楽しんでもらいたいと言う神さまのご意向により、皆で御祝いをすることになっている。
心地よい疲れを感じつつも、嬉しそうに御台所を出て行こうとする彼らに、戸口でシュウが何かを渡している。
「お疲れ様の和三盆です。疲れたときは甘い物が良いのですよ。少しお行儀は良くないですが、歩きながら食べてください」
いつの間に用意してあったのか、それは小さな落雁だった。
「わ、可愛いっすね」
「どれどれ、……うむ、こいつぁ美味い!」
「む……、おお、甘い物は苦手なんだが、これは行けるな」
受け取った料理人たちはポイッと口に入れ、ワイワイ言いながら宴会場へと向かっていく。
不思議なことに、歩くごとに足取りが軽くなる彼ら。けれど誰もそれに気が付いていないようだ。
「今日は、八百万に過保護だねえ」
そんなシュウに、今度こそ面白そうに言う冬里。
それは何故か。
実はこの落雁には、そうとわからぬほど微量の本気が込められているのだ。
「八百万の料理人にだよ」
「ふふん、言うようになったじゃない。でもさ、八百万に過保護になるよきっと」
「?」
果たして冬里の予言通り、料理後にあまり疲れていない料理人を不審に思った神さま方が、シュウの落雁の事を聞いて押しかけてくるまで、あと少し。
こうして正月のおせち饗宴が和やかに過ぎていった。
明けましておめでとうございます。
善き1年でありますように。
〈エピローグ〉
さてところ変わって、こちらはいつもの2階リビング。
松の内もとうに過ぎた頃。
「ただいまー、あー疲れたあ」
「さんざん休んでおいて疲れたはないだろ、由利香」
裏玄関から入ってきたのはおなじみ秋渡夫妻。
2人はこの年末年始休みを利用して、シンガポールとイギリスの実家へ帰っていたのだ。今日はお土産を持参して、日本の実家へやってきたと言うわけだ。
お土産を渡すためだけに来たのかって? いやいや、由利香がそんな事のみで来るわけがない。
今年は神さまにおせちを作ると聞いた由利香が、「神さまたちだけずるい!」と、自分たちの分も作るよう、旅立つ前に厳命しておいたのだ。
「三が日どころか、松飾りを外してからおせちを食べるなんて、聞いたことないよ」
と、冬里が面白そうに言うのにもなんのその。
「いいじゃない、私たちだもの、なんでもありよ」
「由利香……」
あきれながら言う椿だが、ふと何か思いついたようだ。
「そう言えば1月11日って鏡開きだよね。下げた鏡餅でぜんざいを作るんじゃなかったっけ」
言外に、ぜんざいで妥協しなよと匂わす椿だが、
「ぜんざいも良いけど、でも、やっぱり神さまたちが食べたおせちが食べたーい!」
由利香は納得しそうにない。
肩をすくめたあとに、頭を下げつつ「だそうです、すみません」とシュウたちに謝る椿。
シュウがふんわり微笑んで「よろしいですよ」と、事もなげに言ったので、成り行きをハラハラしつつ見守っていた夏樹が、「うっしゃあー!」と声を上げた。
「椿、任せろ。俺が最高のおせちを作ってやる!」
そうだ、夏樹はどんなときも料理命だったと気づく椿。
「わかった、だったら楽しみにしてるぜ」
と、片手ハイタッチで約束を交わす2人だった。
「これは定番おせちだから、いつか僕たちに作ってよね、由利香」
「ええー? わかったわ、作るわよ、椿が」
「ええー? これだ。じゃあ作るよ、夏樹が」
「ええー? 任せとけ!」
「ちょっとお、それじゃ意味ないじゃない!」
「意味なーい」
「意味なーい」
「いや、俺が作る」
こんな感じで、鏡開きと時季外れのおせち料理を楽しむいつものメンバー。
皆のやり取りに苦笑しつつ、
「せっかくですので御屠蘇も作っておきました」
と、屠蘇の入った漆塗りのお銚子と杯を運ぶシュウ。
「ヒューヒュー、シュウさんやるう」
「さすがは鞍馬さん」
「いいわねえ」
いろんな事がありますが《はるぶすと》は年明けから通常通り営業しております。
今年も皆様のお越しをお待ちしております。