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98.また一波乱ありそうです

 主役二人が何とか笑顔を浮かべて始まった婚約披露パーティーは、表面上は何事もなく終わった。


 始まる前こそリリアンナからの婚約祝いの魔道具がお預けになったことに意気消沈していたが、いざパーティーが始まればアルフレッドもイリーナも自然と幸せそうに微笑み合い、その熱々ぶりに周囲を驚かせ、顔を真っ赤にさせていた。


 中には当然の如く、熱々過ぎて引いている者達もいたが。


 詳しいことは分からなかったが、アルフレッドと共にいる時のイリーナは、普段の彼女とは随分と様子が違うらしい。


 イリーナと同じ学園に通っているらしい令息令嬢達は、本当に同一人物なのかと疑うような目をしていた。


 主役のアルフレッドは勿論、オルフェウス侯爵一家はその名だけで目立つことになっていたが、その中でも特に注目を集めていたのはリリアンナだ。


 その功績もさることながら、妖精姫という異名に相応しい儚げで清楚可憐な彼女の人間離れした美しさに、老若男女問わず目を奪われ感嘆の溜息を漏らしていた。


 だが不用意に近付いてくる者は誰一人としていなかった。


 隣で隣国の王太子が笑みを張り付けたまま周囲を威嚇していたので、近付くに近付けなかったのだ。


 それを見て苦笑したルイスが、エドワードに近寄り、こっそりと耳元で苦言を呈した程である。


 だがその後も彼の態度が変わることなく、既に顔見知りだった数人以外、ランメル王国の貴族とは交流することなくパーティーは終了した。


 これから友好を深めることになる国の貴族達との交流を疎かにするのは如何なものかと、リリアンナがエドワードに詰め寄ることになったのは仕方がないことだろう。


 ただそれに対しエドワードがどこ吹く風だったのは言うまでもないことだった。


 彼もランメル王国の貴族達と交流する必要性は理解していたが、建国祭だけで充分だと考え、今回は彼らの様子を観察することにしていたのだ。


 だが彼の本音が、ランメル王国の貴族令息達をリリアンナにできる限り近寄らせたくないだけだということは、誰の目にも明らかなことだった。


 エドワードが今回のパーティーで社交を放棄した分、ミハイルの婚約者となったレイチェルは積極的にランメル王国の貴族達と交流を図っていた。


 何れミハイルと婚姻を結びランメル王国の王太子妃となることを考えれば当然のことだと、向こうからやってくる相手だけではなく、レイチェルからも声を掛け会話を楽しんだ。


 ただ楽しむだけではなく、一国の王女らしく相手を見極めてもいたが、それに気付いた者はどれくらいいただろうか。


 その様子を時折目で追っていたリリアンナは、レイチェルが概ね好意的に受け入れられていることに胸を撫で下ろした。


 何人かは面白くなさそうに見ている者もいたが、それには当然ミハイルも気付いていることだろう。


 無論エドワードも、それをしっかりと確認している。


 この二人は王宮に戻ると直ぐにエドワードの部屋で話を擦り合わせ、エドワードはその者達の情報を頭に入れていた。


 そこに、まだドレス姿のままのリリアンナが訪ねてくる。


 そして、一枚の紙をエドワードに手渡した。


「これをパーティーが始まる前に、ロザリーがお父様から受け取っていたらしいの」

「オルフェウス侯爵から?」

「ここに書かれているのは、全員が我が国の貴族令息ですね。まさか……」

「以前、私に婚約を申し込んできたランメル王国の貴族令息のリストです」


 その途端、エドワードの顔が険しくなり不穏な空気が漂い始める。


 それに疲れたような視線を向けると、リリアンナはエドワードの肩にそっと触れた。


「落ち着いて、エド。重要なのは、その中に今日のパーティーで、レイにおかしな態度を取っていた者やその関係者がいないかどうかだから」

「それも重要だけど、リリィに婚約を申し込んだこと自体も問題だよ」

「それはとっくの昔にお断りしていることよ。だから落ち着いて」


 リリアンナがエドワードを宥めている前で、ミハイルがリストを眺めながら目を鋭くする。


 そして徐に、一人の名前を指差した。


「一人、要注意人物がいますね。尤も、今日のパーティーでレイチェル王女に不遜な態度を取っていたのは、その父親の方ですが」

「まさか! ……やはり、ガルドレア公爵ですか」

「ええ、先程お話しした尤も警戒すべき相手です」


 慌ててリストを確認したエドワードが、その一番上に書かれていた名前を凝視し眉を顰める。


 ガルドレア公爵は、ラドリス公爵家を一方的に敵視し、娘をミハイルの婚約者にしようと画策していたらしい。


 ただミハイルはその娘に嫌悪感を抱いていたし、ランメル王家でも王妃となる素質も素養もないと判断していたので、早々に候補から除外していた。


 だがそれでも諦めることなく、親子揃って執拗に婚約を迫っていたそうだ。


 そのガルドレア公爵が、ミハイルとレイチェルの婚約を快く思っていないことは明白だった。


「リリアンナ嬢に婚約を申し込んだのは、後継の長男ですか。あの程度の魔法力でオルフェウス侯爵家の令嬢に婚約を申し込むとは、身の程知らずにも程がある」

「私に婚約を申し込んだ方々に、私を娶れるだけの魔法力を有した方は一人もいらっしゃらなかったと聞いています」


 そう言って溜息を漏らすリリアンナに、ミハイルは深く頷く。


 そしてちらりとエドワードを見ると、直ぐにリリアンナに視線を戻した。


「それはそうでしょう。リリアンナ嬢に釣り合う魔法力を有するのは、フォレスト王国でもエドワード王太子殿下だけでは?」

「それは……」

「失礼しました。殿下の婚約者は、学園を卒業なさった後に発表されるのでしたね」


 言外にエドワードの婚約者はリリアンナ以外有り得ないだろうと断定しながら、ミハイルが申し訳なさそうに肩を竦める。


 それにリリアンナもエドワードも、何とも言えずにただ苦笑するしかなかった。


「兎も角、建国祭ではガルドレア公爵と長男には注意しておいてください。両陛下には伝えておきますが、私はまだ出席できる年齢ではありませんので……」

「分かりました。心に留めておきます」


 既に遅い時間だということもあり、詳しいことはまた明日以降にと、ミハイルが挨拶をして部屋を出ていく。


 その姿を見送りまた面倒なことが起きそうだと、リリアンナは憂いを帯びた表情でエドワードと顔を見合わせた。

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