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95.因縁のある相手との対面です

 ランメル王国の騎士に案内され騎士団の取調室に向かうと、その十分後にガルドが連行されてきた。


 その無気力な顔は、昨日映像で見た時の様子と何ら変わりないように見える。


 レナードはガルドが椅子に座らされるのを確認すると、自身も壁際に寄せられた椅子に座った。


 ガルドの取り調べはランメル王国主導で行われることになっており、レナードは必要に応じて口を出すことになっている。


 殆どその様子を見ているだけで、その場で見学しているようなものだった。


 ガルドは反抗する素振りを見せることなく、淡々と取り調べに応じている。


 一貫して無気力で、気怠げな態度でだ。


 その様子は自暴自棄になっているのではなく、本気でこの先自分がどうなろうが興味ないと思っているように見えた。


 拘束されたことにも動じることなく、冷静に状況を受け入れている。


 それが何処となく不気味で、レナードは寒気を覚えるより先に不快だと感じた。


 目付きが鋭くならぬよう意識し、無表情を取り繕いながらガルドの顔を凝視する。


 するとこの日の取り調べが一段落したところで、ガルドがレナードへと視線を向けてきた。


「なあ、そこのお兄さん、この国の騎士ではないみたいだけど、何でいるんだよ?」

「私は、フォレスト王国の騎士だ」

「は……?」


 その言葉に、ガルドは虚をつかれた様子で暫しレナードの顔を凝視する。


 それはこの取調室に連れて来られてから、初めてガルドが感情を見せた瞬間だった。


「何でフォレストの騎士がこんなところにいるんだ? 俺は別にフォレストに恨みはないし、何かするつもりもねえけど」

「その様子だと、お前の祖父が何をしたのか知っているのだな?」

「祖父って言っても生まれる前に処刑された奴なんて知らねえけどな。ランメル前国王の婚約者になる予定だった令嬢を暗殺させたんだろ? フォレスト前国王の婚約者候補だと勘違いして」


 面倒臭そうに顔を顰めたガルドは一気にそれだけ言うと、レナードからあからさまに目を逸らす。


 それにレナードは表面上は反応することなく、静かに言葉を続けた。


「その暗殺された令嬢は、私の大叔母に当たる方だ」

「…は?」

「そのことについて、お前には罪がないことは理解している。大叔母の暗殺を指示した男の血を引いていることには、思うところがない訳でもないが」

「……面倒臭え」


 思わずレナードに目を向けたガルドだが、渋面を作ると再び目を逸らす。


 そんな彼に対し感情を殺したまま、レナードは敢えて淡々とした態度で接した。


「私がここにいるのは、お前をフォレストに移送する為だ」

「はあ!? どういうことだ? さっきも言ったが、俺はフォレストに恨みはないし復讐するつもりもねえよ」

「お前がサラ・ゾリラスの息子であることは関係ない。それとは別件だ」

「別件?」


 訝しげな顔をするガルドに近寄り、映像を記録し、その映像を宙に映し出す魔道具を机の上に置く。


 それを起動させると一人の少女の姿が浮かび上がった。


「この少女に会ったことがあるか?」

「……は?」


 問われたガルドは数回瞬きをした後、顔を顰めその映像を暫し凝視する。


 だが直ぐに目を見開くと、素っ頓狂な声を上げた。


「あの時の変な女!」

「あの時とは、お前がフォレストでロイドという薬の売人を始末した時のことで間違いないか?」

「……そんなことまで調べがついてんのかよ」


 ガルドが苦虫を噛み潰したような顔で唸りを上げる。


 そして、改めて魔道具が映し出す映像を眺めた。


 宙に映し出されている少女はアンナだ。


 アンナが学園に入学する為にザボンヌ子爵領から王都へ向かっている際、ガルドと会っていることが確認されている。


 だがフォレストに移送されることとアンナにどのような関係があるのか分からず、ガルドは胡乱げな目をレナードに向けた。


「お前とこの少女は魔力の相性がいい。違うか?」

「……確かに、そう思った。それが何の関係があるんだよ?」


 その問いには答えず、レナードは新たな映像を映し出す。


 それは学園でリリアンナに対して見せた、アンナの奇行の数々だった。


「……何だ、これ?」

「私達も、彼女の奇妙な行動は謎でしかない」

「謎ってレベルじゃないだろう……」


 次々と宙に映し出される映像を眺め、ガルドは呆然と呟く。


 それは、同じ部屋でこの映像を見ているランメル王国の騎士達も同様だった。


「この少女が絡んでいるのは、オルフェウス侯爵令嬢ですよね?」

「そうです。この少女は自分がエドワード王太子殿下の妃になるのだと思い込み、オルフェウス侯爵令嬢に対しこの様な行動を常日頃からしています」

「へえ、この物凄い美少女がリリアンナ・オルフェウスか。成程、確かに妖精姫だな。俺達みたいな奴らにとっては悪魔みたいな化け物だけど」


 ガルドが呆然としながらも、間延びした声でそんなことを呟く。


 そんな間抜けな表情をしていたかと思うと、改めて訝しげな顔になり、レナードを睨むように見上げてきた。


「それで、この映像と俺のフォレストへの移送がどう関係してるんだ?」

「彼女のこの奇妙な行動には、彼女が持つ特殊な能力が関係していると考えられている。魔力の相性が良いお前が彼女に関わることで、どのような影響が出るのか検証したい。つまりお前は、フォレストの魔法省の研究対象だ」

「はあ!?」


 思いも寄らぬことを言われ、ガルドが再び素っ頓狂な声を上げる。


 犯罪者としてではなく、魔法省の研究対象としてフォレストに移送されるなど考えもしなかった。


「どちらにせよ、お前が罪人であることに変わりはない。だが衣食住は通常の罪人より遥かにマシであることは保証する。そこは安心しろ」

「それ以外は一つも安心できる要素がねえよ!」

「当然だが、お前はこの少女と深く関わってもらうことになる。詳しいことはフォレストに移送した後で説明させてもらう」

「この変な女と関われっていうのが一番安心できねえよ!」


 最初の無気力な様子が嘘のように、ガルドが感情を露わにする。


 そのことにレナードもランメル王国の騎士達も驚くが、それを表情に出すことはしない。


 レナードは自分の感情を押し隠してでも、移送する手続きを進めるだけだ。


 一方ガルドは、只管嫌な予感しかしなかった。


 アンナと関わること自体が、最も重い罰のような気がしてならなかったのだ。


 その後フォレスト王国の魔法省に送られたガルドが、犯罪組織にいた方がまだマシだったと思い悩むことになるのは、それから僅か十日後のことであった。

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