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94.強制的に熟睡させました

 翌日のミレーヌは一日中レナードにべったりと張り付き、彼が無茶をしないよう監視していた。


 朝起きて顔を合わせた途端、その顔色の悪さに目を眇めたミレーヌは、朝食が終わるなり寝室に引っ張っていき、無理矢理レナードをベッドに押し込めた。


 その直後にベッドの脇に椅子を運び込んで座ると、レナードの顔を見下ろし、眠れと言わんばかりに無言の圧を掛ける。


 そんなに凝視されては眠るに眠れない状態だが、それで逆に気が抜けたレナードは漸く睡魔に襲われ眠りにつくことができた。


 その間もミレーヌは側から離れず、彼の顔をじっと見ていた。


 疲労の色が濃いその顔は目の下にくっきりと隈ができており、数日間はまともに眠れていないことが見て取れる。


 ここまで共に駆けてきた彼の愛馬を休ませる時以外は、休息らしい休息など取っていないに違いない。


 その時間すらまともに休んではいないだろう。


 宿に泊まったかどうかも怪しいほどだ。


 身体や衣服は洗浄魔法で清潔に保つことができるが、それでは身体を休めることなどできない。


 騎士団の遠征や演習で野営をする時よりも酷い状態だったかもしれないと、ぐっすりと深い眠りについているレナードの顔を見下ろし、ミレーヌは静かに溜息を吐いた。


 側にいるのが心を許せる妹のミレーヌだからか、ここ最近では珍しく熟睡したレナードが目を覚ましたのはそれから八時間後のことだ。


 そのことにも驚いたが、軽くなった身体とすっきりとした頭にどれだけ自分が疲れを溜めていたのかに気付き、騎士として体調管理ができていなかったことに自己嫌悪した。


 既に午餐の時間を過ぎ、それどころか晩餐の時間が近付いていたこともあって、軽く湯を使い汗を流すと、空腹を誤魔化せる程度に軽食をつまむ。


 するとそれを見計らったように、ガルドの取り調べを担当するというランメル王国の騎士が、騎士団長と共に部屋を訪れた。


 昨日ランメル国王と謁見した際にも顔を合わせていた騎士団長は、レナードの顔を見ると満足そうな笑みを浮かべ鷹揚に頷く。


 それに昨日の自分がどれほど酷い顔をしていたのかを思い知らされ、恥ずかしさから落ち着かない気分になった。


 ガルドの取り調べを翌日の午後から行うと告げられた後、拘束された後の彼の様子ついて簡単に説明を受けた。


 拘束された時に使われた魔法の効果が抜けたのは今朝のこと、まだどこかぼんやりとしている彼の映像を見せられる。


 年齢は現在十九歳のレナードより二つ上の二十一歳、平民としては整っているが貴族の中に入れば凡庸な部類の顔立ちをしたガルドは、焦点が合っているのかどうか分からない目で牢の壁を眺めていた。


 壁に背を預けながら床に直接座り、足を投げ出して一点を眺めているガルドは、ぼんやりとしているだけなのか、それとも全てを諦めているのか或いは何もかもがどうでもよくなっているのか判断がつかない。


 ただ途轍もなく無気力なように感じた。


 ガルドがいた犯罪組織の拠点に潜入していた者からの報告によると、彼は普段からそんな様子だったらしい。


 拘束されたからそうなっているとも言い難い状態だった。


 当然の如くこの場に同席していたミレーヌは、魔道具が宙に映し出すガルドの姿をレナードの隣で凝視している。


 その顔からは表情が抜け落ちており、何を考えているのか分からない。


 ただそれが、酷く危うい状態に思える。


 その様子を見たランメル王国の騎士団長は、敢えてそれに触れることなく、用事は済んだともう一人の騎士と共に退室していった。


 その後晩餐を終えると、エドワードの部屋に幼馴染達とレナードが集まる。


 全員がソファーに腰を落ち着けた後、改めてレナードの顔を確認したエドワードは、穏やかな笑みを浮かべた。


「随分と顔色がマシになったな」


 正面からそう言われ、気まずそうにレナードが目を逸らす。


 それに微かに苦笑を漏らすと、エドワードは徐に口を開いた。


「この国でのガルドの取り調べは、フォレスト側からはレナード、お前に一任することになる。移送時期も含めてな」

「エドとリリィは見学もしないのか? ゲルグの時は初日だけしたのだろう?」

「それはゲルグがリリィの部屋ではなく、侍女達の宿舎に向かった理由が一刻も早く知りたかったからだよ。元々こうした取り調べは騎士団の管轄だ。今回は大人しく任せるよ」


 納得して頷くレナードに同じように頷くと、今度はその隣に座るミレーヌに目を向ける。


 どこか心ここにあらずな様子を気遣わしげに一瞥した後、エドワードは表情を切り替えると何でもない振りをしてミレーヌに問い掛けた。


「ミレーヌ、お前は見学するか? 希望するなら話は通しておく。その場合、クリフにも同席してもらうが」

「えっ…? あ、ううん、それは遠慮しておくわ。場合によっては、暴れたくなるかもしれないもの」

「それもそうだな」

「ちょっと! それはどういう意味よ!?」


 あっさりと自分の言葉を肯定したエドワードに、ミレーヌが思わず食って掛かる。


 少しは彼女らしい部分が見えたことに僅かに安堵しながら、リリアンナはミレーヌに近寄り後ろから肩に手を置いた。


「ミレーヌ、落ち着いて。単なる冗談だから」

「冗談には思えなかったわよ!?」

「そうだな、本気でそう思っているから」

「寧ろ暴れる未来しか見えない」

「ルイスまでっ!」

「……エドもルイスもいい加減にして」


 呆れた目をエドワードとルイスに向け、茶化すなと言外に伝える。


 様子のおかしいミレーヌの為に敢えてそうしているのは分かるが、程々のところで止めないと収拾がつかなくなってしまう。


 直ぐに二人からクリフに視線を移すと、その意味を理解した彼は微かに頷き、ミレーヌの頭をゆっくりと撫でた。


「落ち着け、エドとルイスがああやって揶揄うのはいつものことだろう」

「だって……!」


 勢いよく振り向いたミレーヌは、思ったより近くにあったクリフの顔に驚き、突然動きを止める。


 そしてそのままゆっくりと俯くと、それきり動かなくなってしまった。


「…もう今日はこの辺にして、全員部屋に戻った方がいいかもしれないわね」

「…そうだね」


 ミレーヌの様子を見かねたリリアンナは、全員の顔を見回しながらそう提案する。


 それにエドワードが賛同したことにより、それぞれが部屋へと戻り始めた。


 ミレーヌは俯いたまま、クリフに手を引かれ部屋を後にする。


 それを見届けて部屋に戻るリリアンナに、当然の如くエドワードがついてきた。


 その後、リリアンナの部屋で二人きりになったエドワードが何をしたかはお察しの通りである。

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