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89.想像以上に厄介な効果でした

 この日のゲルグの取り調べが終わり騎士団を後にすると、リリアンナはエドワードと共に彼が宿泊している部屋へと向かった。


 すると程なくしてルイスとクリフ、そしてミレーヌもエドワードの部屋に集合する。


 全員がソファーに腰を落ち着けお茶で口を潤すと、ゲルグの取り調べについて報告を始めた。


 話が進む度に、ルイス達は呆れたり顔を厳しくしたりと、ゲルグに対して嫌悪感を露わにする。


 リリアンナとエドワードも、あれは酷かったとげんなりとしていた。


「それにしても、取り調べなのか、ゲルグの愚痴や妄想を聞かされているのか、よく分からなかったわね……」

「そうだね……」


 リリアンナが今日の取り調べに関して素直な感想を吐露すると、エドワードも疲れたように深く頷き同意する。


 大半はゲルグの夢物語としか言いようのない、無謀で杜撰な計画を延々と聞かされ、それが叶わなかった愚痴をこれまた延々と聞かされたのだ。


 その間に何度か質の悪い酔っ払いのような暴れ方をしたり、暴言を吐きまくったりと不愉快なことこの上なかった。


 最後にゲルグの意識誘導の魔法を無効化したのがリリアンナであること、そして彼の認識阻害魔法を感知していたことが騎士達の口から明らかにされ、リリアンナを誘拐するなど不可能だったと断言されると、激昂してより酷く暴れようとした。


 拘束魔法が行使されていたので身動き取れず暴言を吐くのが精一杯だったが、現実を受け入れられず、そんなことは有り得ないと騒ぎ出したのである。


 リリアンナを侮る発言が次々と飛び出し、何故こんなにも酷評されなければならないのだろうかと、怒るのも呆れるのも通り越して不思議に思ったくらいだ。


 最終的に騎士達から呼ばれ、エドワードと共にゲルグの前に姿を現したリリアンナは、許可を得たというよりは要請を受ける形で、気絶も怪我もしない程度の攻撃魔法をゲルグに容赦なく浴びせ掛けた。


 神経に直接衝撃を与える魔法で、怪我一つしてなければ着ている服にも一切影響を与えていない。


 瞬間的に、神経が痛みを感じるだけの魔法だ。


 だがやはり想像を絶する程の痛みを感じたらしく、盛大に絶叫し、顔は涙やら何やらで酷い有様となっていた。


 騎士達にしてみれば、あまりにもゲルグがリリアンナのことを不当に酷評していたので、多少は現実を思い知った方がいいだろうと意図してのことであったが、結果は多少どころではない。


 思った以上に効果が絶大で、要請した側の騎士達は引き攣り笑いをし、ゲルグは化け物でも見るかのような目でリリアンナを見ては怯えていた。


 リクエストに応えただけのリリアンナとしては、非常に不本意な結果である。


 ただエドワードだけは、ゲルグのリリアンナに対する暴言に鬱憤が溜まっていたこともあり、よくやったと言わんばかりに満面の笑みを浮かべていた。


 この辺りの話を聞いたルイス達は、アルカイックスマイルで無反応を貫いていたが、ある意味賢明な判断だと言えるだろう。


 兎も角、二人の報告を聞き終わったルイス達は、疲れたようにソファーに身体を預けたり、こめかみを押さえたりしていた。


「どう考えても頭がおかしいだろう……」

「そんな馬鹿げた理由で、何種類も厄介な媚薬を作ろうとしてたのか……」

「そんなので王宮に侵入できると思うなんて、随分とおめでたい頭をしてるわね……」


 ゲルグとロイドは、国で一番高貴な女性である王妃を好き勝手にできたら面白いのではないかと、それだけの理由で王宮に侵入し、王妃や王宮にいる女性達を辱める計画を立てていたらしい。


 その興味本位で立てたとしか思えない計画を実行する為に、ロイドに様々な媚薬を作らせようとしていたようだ。


 まさかそんな理由で王宮に侵入し、その為に媚薬を作っていたのかと思うと呆れるより他ない。


 更には、ゲルグの認識阻害魔法と意識誘導魔法、そして何種類もの媚薬があれば簡単に実行できると盛大に勘違いしていたのだ。


 そのおめでたいにも程がある思考回路は、全くもって理解できなかった。


「ゲルグ達が考えていたことを理解するのは、僕達には無理だと割り切った方がいいかもしれないね」

「そうね。その方が楽かもしれないわ。それに、例の媚薬の効果の方が問題だわ」


 アンナが所持していた媚薬の効果は、服用した時だけの問題ではなかった。


 正確には、服用したのが一回のみ、または時折服用するのであれば、その時に限り媚薬特有の症状が現れることと、目の前にいる人物が意中の相手に見える幻覚を見るだけで済む。


 だがこれを何日か立て続けに服用すると、事態が異なってくるのだ。


 ゲルグの説明によると、五日ほど毎日服用した場合は、五日前後意中の相手に会えない状況が続くと、媚薬を服用していなくても目の前にいる人物が意中の相手に見える幻覚を見るようになるらしい。


 そして十日ほど毎日服用した場合は、常にその幻覚を見るようになるとのことだ。


 しかも、どちらの場合も幻覚と媚薬特有の症状がセットになっている。


 最初にその日数分、毎日服用するだけでその状態となり、その後は媚薬を服用しなくてもそれがずっと続くらしい。


 つまり十日ほど毎日服用すれば、その後は一切服用することがなくても常に幻覚を見るようになり、媚薬による熱に浮かされたのと同じ状態が続くようになってしまう。


 ゲルグのような輩が標的とする女性にその媚薬を十日ほど毎日服用させるだけで、いつでも好きな時にその相手を弄ぶことができるようになってしまうのだ。


 十錠程度でそんな状態を可能にしてしまう媚薬など、途轍もなく厄介で危険極まりない。


 実際にそれだけの効果がその媚薬にあるのかは現状まだ不明だが、五日ほど毎日服用した場合に限っては、アンナの症状と見事に一致していた。


「これは、あの媚薬の実験方法を見直さなければならなくなったな……」

「そうね、確かに毎日続けて服用することは考えていなかったでしょうし……」


 リリアンナとエドワードが顔を見合わせ、表情を曇らせる。


 アンナが他の者をエドワードだと思い込み襲おうとする謎は、これで一応解明に近付いたが、それ以上に面倒な事実が判明しただけだった。

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