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88.無謀な計画が始まりでした

 顔色を変えた二人の騎士の前で、ゲルグの自信過剰にも程がある愚痴が延々と続く。


 だが再びロイドの名前が出た時には、思わずゲルグの言葉を遮らずにはいられなかった。


「ロイドとは、違法な媚薬を作り売っていた男のことだな? その男にそんなに幾つも薬を作らせていたのか!?」

「ああ? それがどうした? 女と愉しむ為の薬を作らせて何が悪い?」


 ロイドにどんな薬を作らせようとしていたのか、ゲルグは面白おかしく語り出す。


 ただそれを愉快に感じているのはゲルグ本人のみで、正面から聞いている騎士達や隣の小部屋から窺い見ているリリアンナ達にしてみれば、只管不愉快で気分の悪くなるものばかりだった。


「作らせようとしていたのって、全部媚薬だったのね。それも、全部が犯罪目的……」

「ああ、まさか、ランメル王妃陛下やレナータ王女まで毒牙に掛けようとしていたとはね……」


 リリアンナ達がいる小部屋には防音対策がなされており、大声で話してもゲルグがいる取調室に聞こえることはない。


 二人はゲルグが何か気になることを話す度に言葉を交わしており、今も彼への嫌悪を口にしている。


 ゲルグが語って聞かせている媚薬の効果は、相手の意思に関係なく女性を辱めることを目的としたものばかりで、直接命に関わるものではないが質が悪いことに変わりはない。


 しかもそれらを使って王宮に侵入し、王妃をはじめとするあらゆる女性を辱め弄ぶ計画をロイドと二人で立てていたようだ。


 その中には、ミハイルの妹で現在十二歳のレナータまでもが含まれており、ゲルグとロイドが如何に倫理観が欠如し、女性に対して悪辣非道であるかを物語っている。


 この二人が、女性であれば老若関係なく誰でもいいという見境のなさで、犯罪組織のリーダー格の者達とトラブルを起こし睨まれていたと聞いてはいたが、ここまで酷いとは思ってもみなかった。


「それにしても、どうしたらそんな計画を立てる気になれるのかしら? 今言っていた媚薬が本当にできたとして、それで王宮に忍び込んだところで上手くいくとは思えないのだけど」

「そうだよね、流石に王宮を侮りすぎだよ。ランメル王国の警備体制がどれほどのものかはここに来てまだ三日目の僕には判断しかねるけど、ゲルグが言うほど甘くないのは確かだよ」


 ゲルグはロイドが作った媚薬と自分の魔法があれば、王宮に忍び込むこともそこにいる女性達に恥辱の限りを尽くすことも容易いことだと思い込んでいるようだが、それは楽観視が過ぎるというものだ。


 ゲルグがロイドに作らせるつもりだったと言っていた媚薬の中には、個人ではなく空間を対象にしたものもあったが、どちらにせよ状態異常無効化の魔道具を装着していれば確実に防げる。


 実際にそれらの媚薬が完成し王宮に忍び込んだところで、直ぐに捕えられて終わるだけだろうと思われた。


 それに、ゲルグが言っていたこれらの媚薬が本当に作れるのかも疑問である。


 その効果があまりにも荒唐無稽すぎて、とても現実的だとは思えないからだ。


 ただリリアンナとエドワードは薬を作ることに関しては専門外なので、実現可能かどうかについては判断がつかなかった。


「お前の言うロイドとかいう男は、一年前にフォレスト王国で遺体で発見された。お前と同じ組織にいたガルドとか言う男に暗殺されたようだ」

「なっ…!? あの、クソガキがっ……!」

「それを指示したのは、組織のリーダー格の者達だそうだ」

「あいつら……っ!」


 どうやら今までそのことを知らなかったらしいゲルグが、激昂し机を蹴り上げる。


 直ぐ様騎士の一人が浮かび上がった机を手で押さえ静かに元に戻すと、もう一人の騎士が動かせないようゲルグの足に拘束魔法を行使した。


「おいっ! 何で魔法なんて使ってんだよ、さっさと解除しやがれ!!」

「お前が暴れなければ、魔法など使うことはなかった。自業自得だ、暫くそうしてろ」


 騎士達は大声で騒ぎ立てるゲルグを一瞥し、冷静に冷めた視線と言葉で突き放す。


 それを憎々しげに睨み付けると、ゲルグは唸るように言葉を吐き捨てた。


「あいつに頼んだ薬を、何一つ手に入れてないってのによ。折角逃してやったのに、あっさり捕まって始末されやがって……!」

「逃した? お前が?」


 思わぬ言葉に騎士達が目を鋭くすると、ゲルグは鼻を鳴らし、自由になる上半身を捻り顔を逸らす。


 その方向はリリアンナ達がいる小部屋の方で、リリアンナとエドワードはその太々しい態度と表情に眉を顰めた。


「あいつが殺されると、薬も手に入らなくなるからな。ロイドの奴、リーダーお気に入りの女で散々薬を試して、そいつを壊しやがったんだ。それで流石にまずいと思って逃したんだよ」


 それがマーク達が起こした事件で使われた媚薬だと分かり、それは組織に狙われることになるのも当然だろうと呆れながら溜息を吐く。


 しかもその女性は精神を壊した挙句命を落としたというのだから、態々ガルドをフォレスト王国にまで差し向けたことに納得せざるを得なかった。


「あいつから、一つ目の薬が完成したと連絡がきたからフォレストまで出向いてやったのに、いつまで経っても指定した場所に来やしねえ。まさか、その時既に殺されてたとはな。そりゃ見事に連絡が途絶えるわけだ」

「その一つ目の薬とは、目の前にいる人物が意中の相手に見えるという、幻覚作用のある薬か?」

「ああ、そうだよ」


 それがアンナの所持していた媚薬だと気付いたリリアンナとエドワードは、自然と顔が厳しくなる。


 そして続けられたゲルグの言葉に、それがアンナの謎の行動の原因かと、二人は目を眇め唇を噛み締めた。

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