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87.取り調べ開始です

 午餐会が終わって暫くすると、ゲルグが目を覚ましたので一時間後から取り調べを始めると連絡が入った。


 比較的シンプルで動きやすいドレスに着替えたリリアンナがエドワードと共に騎士団の取調室へと向かうと、昨夜ゲルグを取り押さえた騎士のうちの一人が出迎えてくれる。


 彼の案内で取調室内の様子を見ることができるマジックミラーが備えられた部屋に入ると、間もなくしてゲルグが二人の騎士に連行されてきた。


 何処となく気怠げなゲルグは不機嫌な様子を隠すことなく椅子に腰掛けると、目の前に座った騎士を忌々しそうに睨み付ける。


 すると次の瞬間、手錠が掛けられた両手を机にガンガンと打ち付け始めた。


「なあ、これ外してくれよ。どうせ逃げられないんだからさあ」


 ゲルグは太々しい態度で嫌らしい笑みを浮かべると、間延びした口調でそう言い放つ。


 それと同時に意識誘導の魔法を発動しようとするが、術式が展開されることなく魔力が霧散した。


 魔法が発動しないことに気付いたゲルグは訝しげに顔を顰め何度も同じことを繰り返すが、結果は全て同じで魔力が霧散するだけだ。


 そのことに次第に焦りを募らせたゲルグは、これまでとは比較にならないほど激しく両手を机に叩き付けた。


「おいっ! お前ら俺に何しやがった!? 何で魔法が使えないんだよ!!」


 堂々と魔法を使おうとしたと自白したゲルグを、二人の騎士は冷え切った眼差しで見据える。


 これでは、意識誘導の魔法を使って逃げるつもりだったと言ってるようなものだが、それには気付いていないようだ。


 隣の部屋から中の様子を窺っていたリリアンナとエドワードも冷めた目でゲルグを眺め、話にならないとばかりに首を横に振った。


「その手錠は魔法の発動を阻害する魔道具だ。お前程度の魔法力では、それに対抗することなどできない。魔道具自体に防御の術式が付与されているから打ち付けて壊そうとしても無駄だ」


 それを聞いたゲルグは怒りで顔を真っ赤にし、更に激しく手錠を机に叩き付ける。


 だが手錠には傷一つ付くことなく、ゲルグの両手と手首から血が流れるだけだ。


 騎士達はそれを止めることなく、ゲルグの気が済むまで好きなようにさせていた。


 一頻り手錠を机に打ち付けると、怒りよりも痛みが勝るようになったのか、ついに手を止め息を荒げながら、痛みに耐えるように顔を歪める。


 それを見た騎士達はゲルグの怪我の応急措置を手早く済ませると、洗浄魔法で机に付着した血を綺麗に落とし、漸く取り調べを開始した。


「昨夜、何故あの侍女を追い掛けていた?」


 騎士の問い掛けにフンッと鼻を鳴らしながら、ゲルグは拗ねた子供のようにそっぽを向く。


 そして、顔を逸らしたまま投げやりな態度で言葉を吐き捨てた。


「今ここにリリアンナ・オルフェウスとかいう女が来てるんだろう? そいつを連れ出すのに協力してもらおうと思ったんだよ」


 ゲルグの口からリリアンナの名前が出たことで、リリアンナは眉を顰め、エドワードは目を鋭くする。


 ゲルグの標的がリリアンナであることは分かっていたことだが、実際に本人からそれを語られると、より重みが増したような気がした。


「オルフェウス侯爵令嬢を連れ出す為に侍女に協力してもらうというのは、一体どういうことだ?」

「魔法で言うこと聞いてもらおうとしたんだよ。折角上手くいきそうだったのに邪魔しやがって」

「つまり、お前の魔法でその侍女を操って、オルフェウス侯爵令嬢の誘拐に協力させようとしたということか?」

「そうだよ。ついでにその侍女の姉ちゃんも連れ帰って、たっぷり可愛がってやろうと思ってな」


 にやりと下卑た笑みを浮かべたゲルグが、ヒヒヒッと気色の悪い声を漏らす。


 どのように可愛がるつもりなのかを正確に理解した二人の騎士と、彼らの遣り取りを見守っているリリアンナとエドワードは、揃って全員が嫌悪感から顔を険しくした。


「オルフェウス侯爵令嬢を、何の為に誘拐しようとした?」

「魔法無効化の魔道具を作らせようとしたんだよ。その女が、うちの組織が持ってた未完成の魔道具を無力化したんだろ? だったら、逆に魔法無効化の魔道具を完成させられるんじゃないかと思ってな」


 既に手に入れていた情報通りのことが、ゲルグ自身の口から語られていく。


 取り調べを行なっている二人の騎士達も当然知っていたことで、これはゲルグ本人に対しての確認作業に過ぎない。


 そうした遣り取りが、暫しの間続けられることとなった。


「ところでお前は、オルフェウス侯爵令嬢を誘拐するなんて、本当にできると思ったのか?」

「小娘一人誘拐するくらい、別に難しいことでもないだろう。俺の魔法があれば簡単なことだ」


 再度下卑た笑みを浮かべたゲルグが、自信たっぷりに相手を馬鹿にしたような笑い声を上げる。


 それを見ていたリリアンナとエドワードは、リリアンナを侮るにも程があるその言葉と態度に、怒りを通り越してただ呆れるしかない。


 騎士達はそんなゲルグを一瞬だけ嘲笑すると、がらりと気配を変え、冷え切った視線と口調で容赦なく現実を突き付けた。


「その割にはあっさりと捕まっているがな」

「うるせえっ! そんなの、偶々お前らの運が良かっただけだろ。俺が捕まるなんて有り得ないことなんだよ!」

「現実に捕まっておいて、有り得ないも何もないだろう」

「うるせえっつってんだろうがよ! クソッ、ロイドの奴がいれば、間違ってもこんなことにはなっていないってのによ。あいつ、どこに消えやがったんだ……!?」


 突如飛び出してきたその名前に、騎士達だけでなく、リリアンナとエドワードも顔色が変わる。


 まさかアンナが所持していた媚薬以外にも何か作らせていたのかと、背筋が冷たくなるのを感じた。

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