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85.侵入者を捕縛します

 自分だけでなくエドワードとロザリーを含む三人に浮遊魔法を行使すると、身体がふわりと浮かび上がる。


 同時にリリアンナは、自身とロザリーが着用しているワンピースのスカート部分が膨らんで広がらないように形状を維持する魔法を使い、更に万が一下に誰かいても問題ないように、スカートの中が見えないよう幻影魔法を行使した。


 その上で認識阻害魔法を三人にかけると、地面から僅かに浮いた程度の高さまで、ややゆっくりとした速さで降りる。


 地面に足が着く寸前で形状維持の魔法と幻影魔法を解除すると、代わりに風魔法を発動し、少しずつ速さを上げながら目的の方向へと進み始めた。


 リリアンナが今回使用している認識阻害魔法は従来のものであり、彼女が新たに開発したものではない。


 王宮の敷地内にはあちこちにゲルグを監視する騎士達が配置されており、それぞれが従来の認識阻害魔法を感知する魔道具を所持している。


 当然リリアンナが現在行使している認識阻害魔法も彼らに感知されているが、敢えてそちらを使ったのはそれが目的だからだ。


 新たに開発した方ではその魔道具でも感知することができず、彼らがリリアンナ達の存在を認識することができない。


 それだと面倒なことになる可能性が高いので、彼らには認識できるがゲルグには認識できない状況を作り出したのだ。


 実際彼らには、リリアンナ達が侍女達の宿舎がある方へスピードを上げながら近付いていく様子が感知できている。


 ゲルグが視認できる場所で監視を続けている騎士達は、リリアンナ達が到着するのを静かに待ち構えていた。


 リリアンナが浮遊魔法と風魔法を併用したことにより、走るよりも圧倒的に速いスピードで移動を続けている。


 エドワードが全てをリリアンナに任せているのは、認識阻害魔法を併用している以上その方が都合がいいからだ。


 三人の中で安定して認識阻害魔法を行使できるのはリリアンナだけ、その効果範囲に収まるよう移動の為の浮遊魔法と風魔法を行使しなければならないので、それぞれを別の者が担当するより全てを一人で担う方が容易く行える。


 その分エドワードは、何かあれば直ぐに防御結界魔法を発動できるよう周囲を警戒していた。


 ロザリーも周囲を警戒しているのは同様だが、魔法の腕はリリアンナとエドワードの方が圧倒的に上なので、そちらは任せるようにしている。


 彼女はいつでも暗器を取り出せるよう、準備を整えていた。


 だが特に問題が起きることもなく、ゲルグと思われる中年男を目視できる位置まで到達する。


 ゲルグに一番近い位置で監視していた騎士の元に近寄ると、浮遊魔法と風魔法を解除した。


 お互い言葉を交わすことなく目で合図を送り合うと、認識阻害魔法を行使したまま影に身を潜める。


 ゲルグにはリリアンナの認識阻害魔法どころか浮遊魔法と風魔法ですら感知した様子は見られないが、気を抜くつもりなどないので念の為だ。


 ゲルグの前方に、宿舎へと向かう一人の侍女の姿が見える。


 どうやらゲルグは、この侍女を追い掛けてここまで来たようだ。


 侍女に危害を加えようとすれば直ぐに魔法を発動できるようエドワードが待機している。


 リリアンナは仮にゲルグが他者の意識を誘導すると思われる魔法を行使した場合に備え、その対処を優先することにしていた。


 すると認識阻害魔法を解除したゲルグが、リリアンナにも覚えのない魔法を侍女に向け発動したのを感知する。


 それが機会があれば解析したいとリリアンナが望んでいた魔法であることは、その効果からしても間違いようがなかった。


 侍女の身体がゆらりと揺れ、ゆっくりとゲルグの方を向く。


 見たところその侍女は魔力保有量が少ないので魔法への耐性が低いのだろう、その目は焦点が合っていなかった。


 だがその僅かな時間でも、リリアンナにとっては充分な時間だ。


 口元に小さく笑みを浮かべると、エドワードとロザリーにだけ聞こえる程度の小声で簡潔に囁いた。


「解析完了」


 それと同時にリリアンナがゲルグの魔法を無効化し、エドワードの風魔法による突風がゲルグを宙に押し上げ、骨折しない程度の強さで地面に叩き付ける。


 その直後、ロザリーが侍女の身柄を確保した。


 側に控えていた騎士達が飛び出し、痛みに呻くゲルグを拘束する。


 それを確認したリリアンナは認識阻害魔法を解除し、エドワードと共にゲルグの前に姿を現した。


 だがそれを確認することなく、ゲルグは意識を失ってしまう。


 頭は打ち付けていないが、全身を打撲した痛みに耐え切れなかったようだ。


 まさかこれであっさりと意識を失うとは思わず、エドワードはつい顔を顰めるが、叩き起こしてまで尋問するつもりはない。


 一先ずゲルグの捕縛に成功したことに安堵し、ランメル国王や騎士団長と事前に決めていた通り、ゲルグを牢に放り込むようランメルの騎士達に指示を出す。


 それから程なくして、犯罪組織の拠点を制圧したと、今回の作戦の為に派遣していたフォレストの魔法士から連絡が入った。


 全員命を奪うことなく無力化し、捕縛することに成功したようだ。


 ゲルグを暗殺しようとしていたガルドは先に拘束されており、その時に行使された魔法で今も眠り続けている。


 何故ゲルグがリリアンナではなく侍女を標的にしたのかは気になるが、兎も角これで今晩の作戦は全てが成功に終わった。


 後は明日以降取り調べが始まり、彼らの処分が決まることになる。


 エドワードは騎士団長に通信用の魔道具で連絡を取り状況を伝えると、ゲルグが侍女を標的にした理由を知りたいと告げた。


 すると騎士団長から、予定が合えば取り調べを見学しても構わないと許可をもらい、リリアンナと二人で見学することにする。


 予め翌日は自由に動けるように予定は入れていないので、そのことに何も問題はなかった。


 騎士団長との連絡を終えると次はクリフに連絡を入れ、全てが無事完了したことを伝えると、明日に備えさっさと部屋に戻ることにした。


 これから湯浴みをして眠ることになるのだから、いつまでもここに残っていたところで睡眠時間が短くなるだけだ。


 後は騎士達に任せ、リリアンナ達は来た時と同様に浮遊魔法と風魔法を併用して、あっという間にそれぞれの部屋に戻った。


 ただその直前、敢えてリリアンナの部屋で二人きりの状況を作ったエドワードからしっかりとキスされたのは、あまりにも彼らしくて、頬を赤く染めながらも呆れるしかなかったが。


 だがリリアンナ達がゲルグ捕縛に動いていた頃、ラドリス公爵家では、懲りずに邸を抜け出そうとしていたアルフレッドとイリーナを、オルフェウス侯爵夫妻とラドリス公爵夫妻にロマーノで必死に阻止していたことを翌日聞かされ、それ以上に呆れることになったのだった。

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