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84.予想外の行動です

 ゲルグの動向が伝えられたのは、ランメル王家との午餐会が終わる頃だった。


 ミハイルの二歳下の妹であり、イリーナと同類の気配がするレナータ王女に熱い眼差しで見つめられながらも笑顔でこの場を乗り切ったリリアンナは、ランメル国王のその言葉に居住まいを正した。


「そうですか、今晩動くのですね。でしたら私はこの後、夜に備えて仮眠を取っておくことにします」

「それがよかろうな。ゲルグの捕縛についてはリリアンナ嬢が要となる。フォレスト王国の貴女に任せることになってすまないが、よろしく頼む」

「ゲルグの標的は私なのですから当然のことです。どうぞお任せください」


 午餐室から客室へと戻りながら、リリアンナはこの後の予定を頭の中で計算する。


 リリアンナ専属の侍女で護衛を兼ねているロザリーにも、夜は一緒に動いてもらう予定だ。


 彼女にも明るい間に休んでおいてもらった方がいいだろうと考え、その間のことは他の侍女達に任せようと三人の顔を思い浮かべる。


 今回はロザリー以外に三人の侍女達がリリアンナについてきてくれているが、オルフェウス侯爵家の使用人は全員が武術に長けているので、彼女達に代わりの護衛を任せても問題はない。


 そんなことを考えていると、エスコートをしていたエドワードが徐におかしなことを言い始めた。


「リリィ、仮眠はどれくらいする予定? 仮眠とは言っても数時間はするんだろう? その間は僕が側でリリィを守ることにするよ」

「駄目に決まっているでしょう。寝顔を見るのは禁止です」


 どう考えてもリリアンナの寝顔を眺めることが目的だとしか思えないエドワードの発言に、間髪入れずにきっぱりと断る。


 婚姻後は仕方ないにしても、そんな恥ずかしいことを今はまだ許すつもりはない。


 口元だけ笑みを浮かべ冷めた目で見上げると、エドワードも負けじと態とらしく整えた笑みを浮かべた。


「ロザリーにも仮眠を取らせるつもりなんだろう? だったらその間の護衛が必要なのではないかな?」

「当家の侍女達なら全員護衛を任せられるわ。そうでなければうちの使用人は務まらないもの」

「だけど彼女達には侍女としての仕事だってあるだろう?」

「だったら私がリリィの側にいるわ。それに、エドだって仮眠を取らないといけないでしょう?」


 両者譲らずに笑顔で睨み合っていると、横からミレーヌがリリアンナに助け舟を出してくる。


 それだけでなく、クリフまでもがエドワードへ追撃を掛けてきた。


「どちらにせよ、俺達全員が交替で仮眠を取らなければならないんだ。エドはリリィと同じ時間に仮眠を取っておけ。何かあれば叩き起こしてやるから」


 それにルイスまでもがうんうんと頷き、エドワードに笑顔で圧を掛ける。


 全員からリリアンナの味方をされたエドワードは面白くなさそうな顔をするが、彼らの言う通りであるのは間違いないので、渋々とではあるが大人しく引き下がった。


 クリフとミレーヌ、それからルイスは、リリアンナがゲルグ捕縛の為に動く間、レイチェル達の護衛を担当してくれることになっている。


 エドワードは状況により臨機応変に動く予定だ。


 万全の状態で臨む為にも、重要な時に睡魔に襲われないよう事前に仮眠を取っておくことが必要になる。


 流石にこれ以上は、エドワードも我儘を通すことができなかった。


◇◇◇


 夕刻よりもやや早い時間、ガルドは王都門へと歩みを進めるゲルグを付かず離れずの距離で追いかけていた。


 気配を消すのはこちらが上、ゲルグは組織の拠点から後をつけられていることに欠片も気付いていない。


 組織はリリアンナの拉致という無謀な愚行に踏み切ったゲルグを、とうとう始末することに決めた。


 その指示を受けたガルドは、ゲルグの背中を追いながらこっそりと機会を窺う。


 まだゲルグと王都門は充分に距離が離れており、周辺に人の気配はない。


 やるなら王都に入る前だとガルドが動こうとした瞬間、彼の頭に突然靄がかかった。


 それに気付く間もなく彼の意識は闇に包まれ、ゆっくりとその身体が傾く。


 地に倒れる前に背後から現れた影がその身体を音もなく支えると、ガルドごとその場から静かに掻き消えた。


◇◇◇


 そろそろ夜が更けそうな時間、リリアンナは動きやすい簡易なワンピースに身を包み、ベッドに腰掛けていた。


 既にゲルグが王宮に忍び込んでいることは通信用の魔道具で連絡を受けており、リリアンナ自身もその位置を掴んでいる。


 後はここで待ち構えるだけだと気を引き締めていると、その気配がおかしな方向へと進み始めたことに気付く。


 それを不審に思っていると、彼女が耳に装着していた小型の魔道具に通信が入った。


「ゲルグが侍女達の宿舎がある方へと向かっているのですか?」


 どういうことだと眉を顰めると同時に、エドワードがリリアンナが宿泊している客室へと入ってくる。


 その気配に寝室から出ると、エドワードの顔を見つめながら連絡してきた相手に言葉を返した。


「直ぐにそちらに向かいます。侍女の皆さんに何かあってはいけませんから」


 その言葉にエドワードがあからさまに顔を顰め、苛立ちを露わにする。


 だがさっと周囲に視線を走らせると、素早く指示を出し始めた。


「僕とリリィは侍女の宿舎へと向かう。ロザリーも一緒に付いてきてくれ。他の者はこの部屋の警備を続けろ。クリフ達は予定通りレイチェル達を頼む」


 全員が承諾を返したのを確認して、リリアンナはベランダへと向かう。


 それにエドワードとロザリーも続き三人ともベランダに出ると、リリアンナは部屋に残る者達に鍵を閉めておくように伝えた。


 そしてその直後、三人の身体はふわりと宙に浮かび上がった。

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