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81.小説の真似ばかりです

 例年通りであれば卒業式が終わった後の学園は何処となく静かになるはずだが、今年は逆に騒がしくなっている。


 それは、一人の女子生徒が毎日大声で喚き叫んでいるからだ。


 それが誰かなど言うまでもない。


 アンナは今日もリリアンナの斜め後ろ三メートルの辺りで勝手に転ぶと、捏造した罪を捲し立ててはリリアンナを詰っていた。


「リリアンナ様っ! どうしてこんなに酷いことばかりされるんですか!? 毎日何度も突き飛ばすだけじゃなく、食事にも毎回毒を盛るなんて! そんなに私を殺したいのですか!? それに、何故被害者の私が食堂を出入禁止にされなければならないのですか!? こんなのあんまりです!」


 それらを一切無視して、リリアンナはミレーヌと共に教室へと向かう。


 アンナの存在を完全に無視することに慣れてしまった今では、彼女が何を言おうと表情一つ動かすことなく素知らぬ振りしてそこから立ち去ることができるようになった。


 無関心を装いながら彼女の言葉に脳内で突っ込むなど容易いことである。


 アンナは食堂で毒を盛られたと言い始めた日から五日連続で、同じ騒ぎを起こしてその場で倒れた。


 とても毒で苦しんでいるとは思えない表情で元気に叫び、態とらしく唸りながら倒れたそうだ。


 その場を目撃した生徒達によると、今度は一体何の下手な小芝居が始まったかと思うほど酷いものだったらしい。


 ただ倒れた後は何故か実際に気を失っており、それで仕方なく魔法演習場内にある医務室へと運ばれたそうだ。


 一般校舎に保健室はあるが、こちらは処置に魔法を必要としない場合に利用され、魔法を必要とする場合は、魔法演習場内に設けられた医務室及び治療室を利用することになる。


 医務室と治療室が魔法演習場内にあるのは、学園内で魔法を行使することが許されているのがこの施設のみだからだ。


 いくら嘘や演技だと思ってはいても、アンナが毒だと騒いでいる以上、一応魔法を使って調べなければならない。


 その結果、アンナの体内から毒は検出されず、念の為行使した解毒魔法は何の手応えもなかったことから、彼女の自作自演だと断定された。


 アンナが口にした料理も一緒に運ばれ検査されているが、こちらも毒は検出されていない。


 こうしたことが五日も続けば、食堂の料理人達が怒るのも無理はないだろう。


 自分達が作った料理に入ってもいない毒が入っていたと言われて、嫌な気分にならない訳がない。


 もう二度と食堂を利用するな、昼食は購買を利用しろと、学園側を通じて出入禁止を言い渡されたのだ。


 無論これはアンナの自業自得であり、リリアンナ達も仕方がないことだと考えている。


 だが予想通りアンナにはそれが理解できず、全てを何も悪くないリリアンナの所為にしていた。


「小説の悪役令嬢がやったことばかりね」

「そうね。次は何を真似する気かしら?」


 教室に入ったリリアンナとミレーヌは、アンナが仕出かしてきたことを思い浮かべながら、冷めた気持ちで淡々と感じたままを口にする。


 アンナは小説の中で悪役令嬢達が引き起こした数々の悪行を再現しては、それをリリアンナがやったことだと言い張りその度に彼女を詰っていた。


 今回のように、主人公の少女に毒を盛ろうとした悪役令嬢は何人もいたし、足を引っ掛けて転ばせるのは全員がやっている。


 あくまでもリリアンナ達が読んだ小説に限ったことではあるが、今のところ全て小説に出てきたことばかりで、次は何を真似するつもりだろうかと思うと、段々と気が重くなってきた。


「階段の上や途中から突き落とすのもあったわね」

「それから、暴漢に襲わせるのもね」

「暗殺者を雇ったりもしてたわね」

「媚薬を仕込んでもいたわね。これは展開次第で狙う相手が変わるけれど」

「上から水を浴びせたり、鉢植えとか重いものを落としたり」

「教科書を破るのはうちの学園ではシステム上無理だけど、彼女のことだからね……」

「それよね……」


 他にも思い当たることを次々と挙げながら、これら全てを真似するつもりだろうかと頭が痛くなる。


 アンナには実現不可能なことも多いが、彼女がありもしないことを堂々とあったと言い張るのはいつものことだ。


 今までは明らかに冤罪だと分かる状況ばかりだったからまだいいが、これからもそうだとは言い切れないのがつらいところだった。


「あれこれ考えたところでどうにもならないわね。今は来週からの試験に集中しないといけないし」

「そうね、試験結果の発表が終われば春休みだし、直ぐにランメル王国に向かわないといけないし」


 一旦アンナのことを頭から強引に追い出し、目の前のことに意識を向ける。


 学年末試験も勿論大事だが、春休みは重要な予定ばかりでゆっくりする暇などない状態だ。


 春休みに入ると同時に、リリアンナ達はランメル王国に向かうことになっている。


 今度はランメル王国のラドリス公爵家でアルフレッドとイリーナの婚約披露パーティーが開催されるからだ。


 その五日後にランメル王国の建国祭が開催されるので、そちらにもフォレスト王国代表として参加することになっていた。


 そして今回、件の犯罪組織と決着をつける予定だ。


 それの最終調整もあって、アルフレッドは卒業式の二日後にはランメル王国に向かっている。


 リリアンナ達がランメル王国に着くまでに、フレデリックと共に色々と話を詰めてくれることになっていた。


 それに加え、レイチェルの幼馴染である三人の伯爵令嬢がレイチェルの輿入れについていくことを希望したことで、彼女達はランメル王国の貴族令息の中から婚約者を探すことになっている。


 それで今回彼女達とそれぞれの両親も、ランメル王家との顔合わせをするレイチェルに同行することになった。


 滞在中に、爵位や年頃の合う令息達と顔合わせをし、お互いの魔法力も考慮しながら婚約者候補を絞る予定だ。


 少しでも国全体の魔法力を高めたいランメル王家は、積極的に候補となる令息達の情報を集めてくれているらしい。


 こちらもフレデリックとの間で調整を進めているとのことだった。


 そうなると当然、レイチェルだけでなく彼女達のことも守らなければならない。


 一番危険なのはゲルグに狙われているリリアンナだが、絶対に彼女達を巻き込まないよう万全の態勢で臨まなければならず、その対策をしっかりと練る必要もある。


 兎に角、今はアンナに構っている暇などないのだ。


 まずは学年末試験で他はその後だと完全に頭を切り替えたリリアンナは、次の授業に集中することにしたのだった。

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