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80.完全に化け物扱いです

 魔法演習場から教室へ戻る途中、リリアンナの姿を認めたやたら髪の短い男子生徒五人が、蜘蛛の子を散らすように逃げていくのが見えた。


 完全な化け物扱いに表情が抜け落ちたリリアンナの隣でミレーヌが必死で笑うのを堪え、逆隣に並んでいたルイスは声こそ抑えているが遠慮なく吹き出して笑っている。


 それを感情の篭らない目で交互に見つめると、二人は漸く笑いの衝動を抑えた。


「あいつら、完全にリリィに怯えてるな。まあ、あれだけの目に遭ってまだリリィを軽んじているのなら、救いようのない馬鹿でしかないけど」

「救いようのない馬鹿ってのは今でもそうでしょ。男爵家に降爵されたとは言え、貴族でいられるだけマシな状況なのに、それを理解せず恨み言ばかり言ってるのだから」


 彼らが逃げていった方を冷めた目で眺め、ルイスとミレーヌが皮肉げにそう言い捨てる。


 逃げていった五人は、リリアンナに婚約の申し込みを断られた挙句に暴行を加えようとして捕えられた令息達だ。


 彼らの家は、リリアンナ及びオルフェウス侯爵家への侮辱行為、そしてリリアンナへの暴行未遂を理由に男爵家へと降爵され、領地を没収された。


 レイチェルへの面会を断られ、王族居住区へ押し入ろうとして捕えられた二人の令息の家は、爵位を剥奪され平民となっており、それに伴い王家へ領地返還されている。


 こちらは王女であるレイチェルを侮辱する言動までしているので当然のことだ。


 元々この七家は領地運営を全て管理人に任せていたことから、王宮は彼らを雇いそのままその土地の管理を任せている。


 給料も待遇も格段に良くなったと喜んでいることから、彼らにとっては願ったり叶ったりだったに違いない。


 王宮の方も、彼らが想像以上に優秀だったことから、両方にとって良い結果となったのだった。


 この七家の処分が決まり、後は公表するだけという段階になって、彼らにリリアンナの魔法の実力を知らしめる場が用意された。


 自分達は極めて優秀であるにも拘らず、正当に能力が評価されていないと思い込んでいた彼らは、リリアンナは過大評価されているだけで自分達よりも格下だと侮っていた。


 王家としては、何れエドワードと婚姻を結び王太子妃、そして次期王妃となるリリアンナが不当に侮られたままでいるのは看過できることではない。


 それで彼らが直接リリアンナの実力を思い知り、如何に自分達が大したことないのか理解する場を設けるべきだということになったのだ。


 それは魔法省の魔法演習場を使って行われることになり、リリアンナが全力で魔法を行使することを見越して、魔法省が総力を上げて強固な防御壁を張り万全の態勢で臨んだ。


 しかも、当日も不測の事態に備えて防御壁の強化を行う為の人員を、これでもかというほど配置していたのだ。


 この試合はアンナを除く全ての貴族が見学することを許され、王族に学園の生徒達、そして多くの貴族達が詰め掛けていた。


 その中で行われた試合はリリアンナが一瞬で七家約五十名をあっさりと無力化したが、彼らはそれを認めず不正だと騒ぎ、更にリリアンナを侮辱し始めた。


 それがあまりにも酷過ぎた為に激怒したリリアンナは、手加減なしの魔法をひっきりなしに行使して一方的に蹂躙し、防御壁を維持する目的で待機していた魔法省所属の魔法士達を青褪めさせたほどだった。


 最終的に男女の区別なく風魔法で彼らの髪を刈り取ったのは、流石に遣り過ぎたと反省している。


 しかもエドワードの言っていた通り、彼らはおしめを着用していたのだが、全員がそのお世話になっていた。


 それも、粗相をしたのが他者にはっきりと分かる形でだ。


 だがそれもリリアンナの仕業である。


 エドワードから彼らがおしめ着用でこの試合に臨むことになると聞いたリリアンナは、悪臭とその場が汚れない為の対策をした機能をおしめに付け加えることができないかと考えた。


 要はおしめをちょっとした魔道具擬きにしてしまおうということである。


 それを聞いたエドワードは、粗相をしたらそれが周囲に分かるようにしてほしいと言い出し、それを深く考えずに請け負ったリリアンナは、彼が求める通りの術式を完成させた。


 それも、魔法力がそれほど高くない者でも容易に付与できる術式をである。


 七家の者達がおしめのお世話になったことが周囲に気付かれたのは、その術式を付与したおしめを着用していたからだった。


 その状況を実際に目にしたリリアンナは、流石に不味かったかもしれないと頭を抱えたが、そのおしめの効果を見た王宮には歓迎された。


 その術式を付与したおしめは、排泄物が漏れない上に臭いもしないが、着用した本人には不快感がしっかりと伝わる代物である。


 そして粗相をすれば周囲にそれが分かるのだ。


 罪を犯して極刑を言い渡された瞬間の罪人や、処刑される直前の死刑囚は、恐怖から粗相してしまう者が少なくない。


 こうした粗相をする可能性がある場合に、対象者にこのおしめを着用させておけば後処理がかなり楽になると考えられ、関係部署に必要備品として導入されることが決まったのだ。


 無論、おしめが必要な子供のいる家からも、ぜひ使いたいと希望され、販売計画が練られているところである。


 こうして誰かの役に立ったことは嬉しいが、七家の者達のことを考えると、遣り過ぎたと反省するしかない。


 しかも今は男爵令息となった五人は、それを知られた状態で学園に通い続けなければならないのだから、プライドだけは異様に高い彼らにとって耐え難い屈辱そして地獄である。


 そうしてリリアンナは、姿を見る度に彼らに怯えられるようになったのだ。


 逆恨みされるよりはマシだが、これはこれでどうなのかと頭を抱える状態である。


 しかもこれを見たアンナから、また都合のいいように解釈されて詰られる始末だ。


 最近は、食堂でリリアンナに毒を盛られたと騒いで倒れたりと新たな手段が増えており、こちらも相変わらず面倒である。


 一応検査した結果、アンナ自身に毒を摂取した形跡はない。


 食事にも毒が混入されていないことは確認されている。


 何よりリリアンナは食堂を利用したことがなければ、入学後の学園案内で見学した以外は近寄りもしていないので、彼女自身が犯行を行うのはどう考えても無理だ。


 誰もリリアンナのことを疑ってなどいないし、それどころかアンナの自作自演だと思っている者ばかりなので、リリアンナが学園で不利な立場に置かれ肩身の狭い思いをするようなことはない。


 だが今後も同じことが続くのは充分予想されることで、頭が痛いことに変わりはないのがしんどいところだ。


 そして今も、リリアンナの後ろ五メートルほど離れた辺りで倒れ、何かを大声で喚いている。


 それを完全に無視して、リリアンナ達は教室へと歩き続けた。

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