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78.プライドの問題です

 部屋に迎え入れるなり、エドワードに強く抱き締められる。


 それに仕方ないなと苦笑しながら、彼の背中をポンポンと軽く撫でるように叩いた。


「エド、心配掛けたのは分かるけど、これは約束違反じゃないかしら?」

「だって、態々防御結界の魔道具を外してあいつらの対応をしたって聞いたよ。そんなの心配するに決まっているじゃないか!」

「そうしないと、投げ飛ばすより先に結界が展開しちゃうもの……」


 部屋に入るなり抱き締めるのは禁止だと決めていたにも拘らず、心配のあまりリリアンナを抱き締めたエドワードに対し、落ち着くよう敢えて軽い口調でそれを仄めかす。


 だが僅かに力は弱まったものの、代わりに頭に顔を摺り寄せられたので、あまり効果はなかったようだ。


 エドワードの心配は尤もであるが、今回は彼らの心をより抉る形で捕える必要があった。


 今回のことで彼らの心が折れるか、それともリリアンナ達を逆恨みすることになるのかは分からないが、侮られたままでいる訳にはいかない。


 これはオルフェウス侯爵家の者として、そしてリリアンナ個人としてのプライドの問題でもある。


 何故なら高位貴族の令嬢がそれなりに家格が劣る家から婚約を申し込まれるのは、侮辱されたも同然だからだ。


 それは、魔法力に一定以上の差がある組み合わせでは、魔法力が少ない方より若干強い程度の子供しか生まれないことにある。


 逆に魔法力の差が許容範囲内であれば、魔法力が強い方と同等以上の魔法力を持つ子供が生まれてくる確率が高いのだ。


 当然魔法力が高い令嬢は、魔法力の差が許容範囲内にある男性との婚姻を望まれる傾向にあることは言うまでもない。


 魔法力は爵位の高さと比例しており、高位貴族であるほど高いのが一般的だ。


 そして侯爵家以上の家の者と、伯爵家でも中位から下位の家の者とでは、魔法力に家格以上の差、つまり一定以上の差があることが殆どである。


 今回捕えられた伯爵家の令息達は魔法力がフォレスト王国の貴族としては平凡で、リリアンナとは一定以上の差がある者ばかりだった。


 それにも拘らず婚約を申し込んだということは、リリアンナの魔法力を途轍もなく過小評価しているか、高い魔法力を子孫に受け継がせるほどの価値がリリアンナにはないと言っているのも同然である。


 魔法の名門オルフェウス侯爵家でも歴代最強だと言われているリリアンナに対してこのような真似をするのは、リリアンナだけでなくオルフェウス侯爵家をも侮辱する行為であると判断せざるを得ない。


 だからこそ魔法を使わなくても侮られるような存在ではないと、リリアンナ自身が彼らを叩きのめす必要があった。


 だが防御結界が展開してしまっては、それも難しくなる。


 それで防御結界の魔道具を外した上で、彼らの対処に当たったのだ。


 結局は半数以上をミレーヌに相手してもらう形になってしまったが、令嬢相手になす術なく体術だけで叩きのめされたのは、彼らの自尊心を大きく傷付けたに違いない。


 これでリリアンナやオルフェウス侯爵家を侮る気持ちが消えたとは言い切れないが、彼らが捕えられる前に、多少なりとも彼らのプライドを打ち砕かずにはいられなかった。


 この気持ちはエドワードも理解しており、リリアンナなら大丈夫だと信頼して任せてもいる。


 だが防御結界の魔道具を外していたと後から聞かされては、心配しない訳がない。


 無事だと聞いてはいても、リリアンナ本人に会って確認するまでは気が気でなく、確かめると同時に安堵から抱き締めてしまったのは、彼にとっては仕方のないことだった。


 漸く落ち着いたエドワードの身体が離れたかと思うと、スッと顔が近付いてくる。


 どちらにせよキスはするんだなと思いながら目を閉じると軽く唇が重ねられ、顔が熱くなるのを感じた。


 そして直ぐに離れたかと思うとふわりと身体が宙に浮かび、気付いた時にはエドワードに抱き上げられたままソファーへと運ばれているところだった。


「えっ? ちょっと、エド!?」

「今はこのままリリィとくっついてないと無理。心配し過ぎて僕の心臓がどうにかなりそう。今日はこのままでいさせてもらうから」

「私はこのままの方が、心臓がどうにかなりそうなのだけど!」


 ソファーに座ったエドワードに膝の上で抱き締められ、リリアンナは何とかして逃れようと踠くが、より力が強くなるだけでびくともしない。


 しかもリリアンナの肩に頭を押し付け、暫しそのまま微動だにしなかった。


「あの、エド?」

「ごめん、せめてもう暫くはこのままで」

「お茶が冷めてしまうのだけど」

「リリィなら、魔法で適温に温め直すことができるよね?」

「それはそうだけど、今のエドはお茶でも飲んで、一旦落ち着いた方がいいと思うの!」


 それに渋々リリアンナを隣に降ろしたエドワードはお茶を飲んで一息入れるが、タイミングを見計らうと再度リリアンナを膝の上に乗せ抱き締めた。


「エド、何故またこうなっているのかしら?」

「リリィもお茶を飲んで落ち着いたでしょう?」

「確かに飲んだけど……」

「今日はこのままずっと、リリィとくっついていないと無理だって言ったよね?」


 譲るつもりのないエドワードの抱き締める力が次第に強くなる。


 今回の件の裏の裏とか話したいことはたくさんあるが、エドワードと密着したままで話をするなど、リリアンナにはどう考えても無理だ。


 だからこの状態から逃げたくて仕方ないのだが、心配を掛けた自覚があるリリアンナはいつものように強く出ることができない。


 結局暫し押し問答を続けた後、エドワードの膝の上で抱き締められたまま話をすることを、今回ばかりはリリアンナも諦めて受け入れざるを得なかったのだった。

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