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77.不穏分子を排除します

 エドワードとクリフが散々頭を抱えていたアンナとの久々の対面は、開き直ったエドワードが事実のみを述べたことで何とか切り抜ける結果となった。


「エドワード様っ! どうして何度も私のことを拒絶されるのですか!? 私のことが嫌いになられたのですか!?」

「何のことかな? 忙しくて冬休みの間は一度も会えなかったから、それで拒絶したなんて思っているのかな?(拒絶なら常にしているし、元々嫌悪感しかないけど)」

「だって、時々しか会えなくて寂しかったのに、会うといつも私の手を振り払われていたじゃないですか!」

「時々しか会えなかったとはどういうことかな? 先程も言った通り、私は冬休みの間はずっと忙しくしていたから、一度もザボンヌ子爵令嬢には会っていないよ。まさか私に会えないのが寂しくて、幻覚でも見たのかな?(まあ、実際に幻覚見て問題起こしたようなものだからな)」

「幻覚、ですか? ……そうですよね、幻覚ですよね! だって、エドワード様が私に冷たくされる訳ないですもの!!」

「そうだね(心の中では常に冷たくしているがな。それより、まさか今ので納得したのか!?)」


 アンナに会った時の対応に悩んでいたエドワードとクリフは、結局冬休みの間は彼女に会うことはなかった。


 そして何もまともな案が浮かばないまま冬休み明け最初の登校日を迎えたエドワードは、アンナには会っていないから拒絶しようがないという事実だけを自棄気味に述べたのだ。


 だがアンナが自分に都合よく解釈したことで、思いがけず面倒な事態を脱したエドワードは、顔には出さずに盛大に呆れた。


 隣で聞こえるはずのないエドワードの心の声を正確に理解していたクリフも同様である。


 何故これで納得できるのかと不思議でならない。


 それでも、これでエドワードに拒絶されているという事実は彼女の中から消えた。


 兎も角、目の前の問題が片付いただけでも良しとするしかない。


 エドワードにとって実に不愉快極まりない妄想が真実となっているのは複雑だし許し難い展開ではあるが、アンナの特性の能力を研究する上では致し方ないと、今はそう諦めるしかなかった。


◇◇◇


 エドワードが気の抜けそうな形で面倒な事態を切り抜けたその日の放課後、リリアンナはAクラスの教室で、CクラスとDクラスの男子生徒五人に囲まれていた。


 いつもの如くミレーヌが共にいるので一人ではないが、これまで一切の交流がない者達から囲まれるのは気分のいいものではない。


 彼らはレイチェルの婚約発表にショックを受けていた者ばかりであり、後日全員がリリアンナに婚約の申し込みをしていた。


 いくら公表はされていなくても、エドワードの婚約者である以上受ける訳がない。


 そうでなくともオルフェウス侯爵家が縁を結ぶ必要のない家の令息ばかりであり、その日のうちに断りの返事を出している。


 だが断られたことに納得できない彼らは、揃ってリリアンナに詰め寄っていた。


「オルフェウス侯爵家にとって、貴方方の家と縁を結ぶ理由はありません。こちらには何の利益もないのですからお断りしたまでです」

「それはどういうことですか!? いくらリリアンナ嬢でもそれは失礼ではありませんか!」

「失礼なのはどちらですか。爵位こそ一つしか違いませんが、伯爵家の中でも序列が中位から下位の貴方方の家と、侯爵家序列一位の我が家では家格が違いすぎます。それに、私は貴方に名前を呼ぶことを許した覚えはありません。学園では生徒は皆平等ではありますが、爵位を無視して良い訳ではないのですよ。まさか、そんなことも知らない訳ではありませんよね?」


 貴族らしい婉曲的な言い方では通じないと判断したリリアンナは、家の威を借りながら、できる限り分かりやすい言葉を選ぶ。


 家格が釣り合わない彼らの家と縁を結ぶことで得る利益など、オルフェウス侯爵家には何一つないとそれとなく伝えているのだが、残念ながらそれを理解できた者は誰もいないようだ。


 単純に爵位がオルフェウス侯爵家より低いことを侮辱されたと勘違いした彼らは、更に語気を強め、常識外れなことまで要求し始めた。


「オルフェウス侯爵令嬢との婚約が無理なら、レイチェル王女殿下と婚約を結べるよう取り計らってください!」

「それこそ、何を言っているのですか? レイチェル第一王女殿下は、ランメル王国のミハイル王太子殿下と婚約を結ばれています。新年祭で発表されたのを知らない訳ではないでしょう。国同士で話し合って結ばれた婚約を、貴方の身勝手な要求で白紙に戻せとでも?」


 あまりにも常軌を逸した要求に、リリアンナとミレーヌは彼らを氷点下の眼差しで見据える。


 彼らの身勝手な要求でレイチェルとミハイルの婚約を壊すなど、国際問題になると分からないのだろうか。


「侯爵家以上の高位貴族家は、レイチェル第一王女殿下とミハイル王太子殿下のご婚約を支持しております。無論、私もです」

「私もお二人のご婚約を支持しているわ。元より貴方達の家は、王女殿下が降嫁するには家格が低過ぎる。レイチェル第一王女殿下は、早くから他国の王族や高位貴族との縁談が検討されていたもの」

「…ふざっ、けるなっ! 一つ爵位が上な程度で偉そうに!!」


 リリアンナとミレーヌに見下されたとでも思ったのか、一人がリリアンナに掴み掛かろうとしたのを合図に、彼ら全員が二人に襲い掛かる。


 リリアンナは、まず最初に真正面から突っ込んできた相手を素早く横に移動して躱すと、伸ばされた腕に手刀を落とした。


 するとそこを起点にして、相手がくるりと一回転して床に転げる。


 それを最後まで見届けることなく次の相手の足を払い床に転がした時には、残り三人をミレーヌが投げ飛ばした後だった。


「二人とも流石だな。あっという間に、男五人を体術だけであっさりと無力化するとは」


 声が聞こえた方を見ると、教室の扉に寄り掛かるようにしてギルバートがこちらを眺めている。


 いつから見ていたのかと視線を送ると、肩を竦めながらこちらに近寄り、床に転がったままの五人の令息達を冷たく見下ろした。


「リリィに婚約を申し込んだことにも呆れたが、まさか、レイチェルの婚約を壊せとまで言うとはな」


 ギルバートは学園長としてではなく、敢えて王弟として接し、リリアンナと親しい間柄であることを仄めかす。


 だがその底冷えのする声音に怯え、彼らはそれに気付いていない。


 王弟であり学園長でもあるギルバートに歯向かう度胸は流石にないらしく、顔を真っ青にしてガタガタと震えていた。


「既に魔法の分野で国に貢献しているリリィは我が国の宝だ。彼女の婚約には王家が介入することが決まっている。リリィを王家の手が届く範囲に置いておく必要があるからな。お前達の出る幕などないと思え。それ以前に、お前達がリリィを娶るなど分不相応にも程があるがな」

「俺達のどこが、オルフェウス侯爵令嬢に相応しくないと言うのですか!?」

「それが分からないのが、何よりの証拠だ」


 ギルバートが冷たく言い捨てると同時に、学園に配属されている騎士達が教室に入ってくる。


 学園配属とは言っても、ここが王立の学園である以上、王宮に所属する騎士達だ。


 彼らは五人の令息達を縛り上げると、そのまま連行していった。


「これで、レイの婚約に関しておかしな動きをしていた生徒達は片付きましたね。まあ、大したことはしていないので、家の処分が決まるまでは謹慎処分か停学といったところでしょうけど」

「そんなところだろうな。だが、その理由は周知するつもりだから、あいつらは終わったも同然だ。家の処分が決まれば、より決定的になる」


 騎士に連行されていく令息達を見送りながら、教室に残った三人は肩の力を抜く。


 レイチェルが無理だったからとリリアンナに婚約を申し入れた令息達とその家の目的は、オルフェウス侯爵家を利用することだ。


 彼らは一方的に侯爵家以上の家を政敵と見做しており、高位貴族を利用してのし上がろうとしている。


 そうした家は、何故か大抵伯爵家の中でも序列が中位から下位の家であることが多い。


 高位貴族家にしてみれば、正直家格も家の力も差が有りすぎて相手にならないのだが、それを理解することができないようだ。


「力が拮抗している家同士でなければ、政敵にはなり得ないと思うのですけど」

「そうだな。家の力に差が有りすぎることを理解していない。あいつらはリリィを傷物にして自分達に有利な婚約を結ぼうとしていたらしいが、そんなことをすればオルフェウス侯爵家どころか侯爵家以上の全ての家を敵に回して、家ごと潰されるだけなんだがな」 


 侯爵家以上の家はそれぞれ国の重要な役割を担っており、極めて良好な関係を築いている。


 それ故に、家の力は拮抗していても政敵の関係にある家はなく、それどころか強固な協力関係にあるのだ。


 相手にしていなくても、度を越した真似をされれば黙っているつもりはない。


 彼らはそれも理解していなかった。


「これで落ち着いて、他の事に集中できますね」

「ああ、あいつらがリリィの力量を見誤るような奴らで助かったよ」


 新年祭以降、レイチェルとリリアンナを狙う動きを察知するとともに、その中に例の犯罪組織と通じている家があることが判明した。


 それが先程の彼らの家である。


 今回は彼らがリリアンナを狙っていることを利用して捕え、彼らの家を取り調べる計画を練り、実行に移した形だった。


 彼らがどの程度犯罪組織と関わっているのかはまだ判明していないが、オルフェウス侯爵家を利用する為に犯罪組織と手を組んだのは分かっている。


 その先にあるのが、レイチェルを手に入れることだと考えられていた。


 後先考えず、浅慮にも程があるというものである。


 取り調べで判明したこと次第で罪の重さは変わるが、彼らがレイチェルとリリアンナを狙ったのは歴とした事実だ。


 王家も侯爵家以上の家も、手加減などするつもりはなかった。

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