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75.更に厄介な事実が追加です

 リリアンナの隣でミレーヌが、落ち着きなく視線を彷徨わせている。


 更にその隣では、クリフが凝視というほどではないがしっかりとミレーヌを見つめており、その目はこれまでより仄かに甘い。


 晴れてミレーヌと婚約したクリフは、気持ちを押し隠していたこれまでとは違い、彼女を愛しく想う気持ちを隠さなくなっている。


 エドワードやアルフレッドほどあからさまではなく、静かで穏やかな感情の表し方ではあるが、それにミレーヌはそわそわとして慣れないらしい。


 筆頭公爵家の後継としては異例とも言える早さで婚約の成立、そして婚約式が終わり、それ以降クリフは堂々とミレーヌの婚約者として振る舞うようになっているが、ミレーヌの方はその急激な変化に対応できずに未だに戸惑っている。


 それをクリフは急かすことなく見守っている状態だ。


 そんな二人にリリアンナ達は生温かい目を向けながら、下手に茶化すことなくお茶を楽しんでいた。


 冬休みも残り一週間となったこの日、漸く状況が落ち着いたリリアンナ達幼馴染の五人は、王族居住区にある談話室でのんびりと過ごしている。


 オルフェウス侯爵家に到着した後で、急遽ルイス達の婚約披露パーティーに出席することになったイリーナは昨日帰国した。


 これで全員の冬休みの間の重要な予定が一段落したこともあり、久しぶりに五人で集まることになったのだ。


 まずは近況報告の前にお茶を楽しもうということになったのだが、最初からミレーヌが面白いことになっている。


 それほど親しくない相手から女性扱いされることには慣れていても、親しい者からそんな扱いをされることにミレーヌは慣れていない。


 正確には、エドワード達はミレーヌを令嬢として扱ってはいるが、お転婆娘またはじゃじゃ馬呼ばわりしており、淑女として扱っているとは言えず割と雑な扱いをしていた。


 クリフはどちらとも言えない状態ではあったが、今は誰がどう見てもミレーヌに対し、大切な婚約者の女性として接している。


 どうもミレーヌはそれがむず痒くてならないらしく、ずっとそわそわとしている状態だ。


 エドワードとルイスは、下手に茶化せばミレーヌが発狂しかねないからと、何とも言えない顔をして二人を見守っている。


 リリアンナは、エドワードと初めて会った時と婚約した直後は、自分も似たような状態になっていたなと、若干遠い目になりながらも懐かしく思っていた。


 出会った直後から手の甲へのキスは当たり前、それもミレーヌには一切しないのに自分にだけ常にそうだったのだ。


 婚約すれば頬や額へもキスされるようになり、魔法無効化の魔道具の騒動が切っ掛けで各国の王族や高位貴族から婚約の申し込みが殺到する騒ぎが起きれば、唇にキスされるのが当たり前になった。


 それはまだ十一歳の頃の話であり、初めては目を瞑ってと言われて素直に従った瞬間の不意打ちで、何が起きたのか分からず固まっていた記憶がある。


 頬や額へのキスも慣れずにいたのに、二人きりになった途端に唇にキスされるようになって、どうしたらいいのか分からず、毎回顔を真っ赤にしておろおろとしていた。


 数え切れないほどキスを重ねた今でも恥ずかしいのは変わらない。


 それを考えると、ミレーヌのことを生温かい目で見ながらも、彼女の今の様子を笑うことなどできる訳がなく、ただ苦笑するしかなかった。


 暫しそんな二人を見守っていたリリアンナ達だが、いつまでもこのままでは何も話ができない。


 エドワードがそろそろ報告すべきことを話そうと口を開きかけたところで、国王とギルバートが姿を見せた。


「エド、もう話はしたのか?」

「いえ、まだです。ミレーヌが面白いことになっていたので、暫し観察してました」

「ちょっと! エド!?」


 国王に話を振られたエドワードが真面目な顔でそう応えると、ミレーヌがテーブルを叩いて立ち上がる。


 それを宥めてソファーに座らせると、エドワードが表情をガラリと変えた。


「リリィには話していたけど、アンナ・ザボンヌが魔法省の調査員を僕だと思い込んで誘惑し襲おうとする事件が起きた。それが冬休み五日目のことだ。その後も三回、つまり計四回も同じことが起きている」

「は? 何だそれ?」


 初めてそのことを聞いた時のリリアンナ同様、ルイスが目を点にして驚き、クリフとミレーヌも訳が分からないと呆然としている。


 最初の事件をエドワードが詳しく話すと、三人は更に困惑し、それぞれ顔を見合わせた。


「冬休みに入ってからは僕も忙しくしていたし、彼女には一度も会っていない。どうやら今のところ、五日以上僕に会わないとそういう状態になっているようだ」

「……そう言えば夏休みの間は、三日に一度はあいつに顔を見せていたな」


 エドワードの話を聞いたクリフが、魔法省によるアンナへの調査が始まった頃のことを思い返しながら、そう静かに呟く。


 アンナが所持していた薬が彼女にどの程度影響を与えているのか、それはまだはっきりとは判明していない。


 囚人を相手に実験が行われているが、できる限り人道的な範囲内でとなると加減が難しいし、結果が出るのは当分先になる。


 薬の影響とアンナの奇行の関連性は、何一つ解明できていない状況であり、エドワードに五日会わないとそうなると言うのは、事実に即した単なる結果論でしかなかった。


「僕だと思い込む相手は、その時々で違うそうだ。ただ、最初に僕だと思い込まれ襲われ掛けた調査員が逃げたことで、彼女が僕に拒絶されたと思い込み面倒なことになった状態が続いている」

「それはまた、実際に会った時にどのような対応をするべきか、判断が難しいところだな……」


 エドワードと共にアンナに対応することになるクリフが、頭が痛いと言わんばかりに顔を顰める。


 クリフ自身も同じ状況に陥れば、後先考えずに逃げてしまう可能性が高い。


 だからその調査員を責める気にはなれないが、次にアンナに会った時に対応を間違えれば更に面倒なことになるのを考えると、溜息しか出なかった。


「それも問題だが、更に面倒なことが判明した」

「更に、ですか?」


 深刻な表情でエドワードとクリフが黙り込んでいると、それまで静観していた国王が話に割り込んでくる。


 顔を強張らせたエドワードに険しい顔で頷いた国王が告げたのは、リリアンナ達にとって衝撃としか言いようのない事実だった。


「現在ランメル王国と合同捜査をしている犯罪組織の構成員、ガルドという男のことは、全員聞いているな?」


 その名前を聞いたミレーヌの肩が僅かに揺れる。


 ガルドがサラ・ゾリラスと媚薬の売人の男との間に生まれた息子であることは、ここにいる全員が知っており、誰もが一瞬ミレーヌを気遣うような視線を向けるが、敢えて口には出さず、国王の言葉に静かに首肯した。


「媚薬の売人の男の遺体が発見される数日前、その発見現場からそう離れてはいない場所で、ガルドとアンナ・ザボンヌが接触していたことが確認された」

「……は?」


 思いも寄らぬその言葉に、全員が虚をつかれたような顔で呆気に取られる。


 だがその意味をしっかりと理解すると、次第に顔が険しくなり始めた。


「しかも、ガルドとアンナ・ザボンヌは、魔力の相性が良い可能性が高いらしい」

「はい!?」


 しかしこの言葉には、揃って顔を引き攣らせた。


 もう既に、嫌な予感しかしない。


「ザボンヌ子爵令嬢より、ガルドの方が魔法力が高いと言うことで間違いないでしょうか……?」

「その通りだ」

「何だか物凄く嫌な予感がするのですが……」

「この話を知っておる全員がそう感じている」


 予想通りの言葉と反応に、今度は全員が虚ろな目をして乾いた笑いを漏らす。


 どこまで面倒を起こし、その事実を突き付ければ気が済むのかと、アンナに恨みの念をぶつけたい気分だった。

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