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68.厄介な事態が発生してました

 暫しの間、思う存分反省し落ち込むと、二人は漸く落ち着きを取り戻した。


 既に仕出かしてしまったものは、今更どうしようもない。


 今後挽回していくしかないと気を取り直し、まずは話を元に戻すことにした。


「クリフのことはまた改めて考えることにしよう。兎に角、今は話を続けようか」

「そうね、クリフのことは他の話を終わらせてからにしましょう」


 お互いに深呼吸して気持ちを切り替えると、エドワードが中断していた報告の続きを話し始める。


 それは犯罪組織に関して、現時点で判明していることだった。


「例の魔道具に術式を付与したのは、ゾリラス伯爵の娘、サラ・ゾリラスと媚薬の売人との間に生まれた息子だと確認できたそうだよ。魔力の性質から考えても間違いないらしい。名前はガルド、年齢は二十一歳でその犯罪組織で生まれ育ったという話だ」

「生まれ育ったということは、サラ・ゾリラスはその犯罪組織にいたということかしら?」

「そうらしい。犯罪組織の男達の慰み者として扱われていたようだ。どういう経緯でそうなったのかは分からないけど、それでガルドの父親は誰だか分からなかったみたいだね」


 忌々しそうに顔を歪めるエドワード同様、リリアンナも眉を顰める。


 サラ・ゾリラスの為人は知らないし分からないが、彼女が父親の無謀な野心に振り回された被害者であることに違いはない。


 幼くして貴族籍を失い、生まれ育った国とは違う国にその身を委ねざるを得なくなった結果、犯罪組織の男達の慰み者になるなど、考えただけでも怖気立ち気が狂いそうだった。


「つまり、媚薬の売人もその犯罪組織と関係があったということよね?」

「元々はその犯罪組織の一員だったそうだよ。でも問題を起こして逃げ出していたようだ。そして組織に見つかり消された。しかも、始末したのはガルドだ」

「それって、自分の父親だと知らずに、手に掛けたということ……!?」

「そういうことになるね」


 あまりにも衝撃的な事実に、リリアンナは両手で口元を覆い言葉を失う。


 そうとは知らずに自分の父親を手に掛けるなど、こちらも気が狂いそうになるほど辛いことだ。


 だがそう思うのは、リリアンナ達にとっての常識や価値観を基にしているからだ。


 ガルドにとってはそうではないと何れ思い知ることになるのを、この時はまだ知る由もなかった。


「そう言えばその売人の男って、フォレスト国内で遺体で見つかっているのよね? つまりガルドはフォレストに……?」

「多分ね。フォレストに密入国し、売人を始末したと考えられる。認識阻害結界の魔道具もガルドが持ち去ったのだろうね。犯罪組織の拠点に、その魔道具があったそうだから」


 それはそれで面倒なことだと、エドワードが顔を険しくする。


 ゾリラスの血を引く者が、フォレストに密入国した上に国内で殺人を犯したのだ。


 しかもガルドがフォレスト王国に対してどのような感情を抱いているのか分からない以上、その事態を重く見るのも当然のことだった。


「売人の男は、自分で薬を作っていたらしいよ。その犯罪組織には今のところ薬を作れる者はいないようだし、薬の製法も不明なようだから、僕達が問題としている二つの媚薬は、今後新たに作られることはないと考えられている。在庫もないようだしね。それから、サラ・ゾリラスは既に亡くなっているそうだ。そしてガルドは、組織の裏切り者を始末する役割を与えられている」


 つまりガルドは、組織内で暗殺を請け負っているということだ。


 それもまた厄介だと、エドワードは髪をぐしゃりと掻き上げた。


「確かゾリラス伯爵家は、フォレストの貴族としては平凡な魔法力だったのよね? だけどランメル王国では強力な部類に入るはずよ。もしガルドがゾリラスの魔法力を受け継いでいるのだとしたら、彼にその手の仕事が与えられるのも頷けるわね」

「ガルドの魔法力は、ランメルの基準では強力な方だと聞いているよ。犯罪組織の中では最も魔法力が優れているらしい」


 ガルドが所属する犯罪組織を壊滅させるには、ガルドを上回る魔法力を有する者が必要になる。


 犯罪組織の拠点に突入する際は、フォレスト王国の強力な魔法士が必要不可欠だとして、その辺りの話を両国間で詰めているとのことだった。


「取り敢えず、犯罪組織に関して話せることはこれくらいかな。他はまだ不明な部分も多いからね。場合によっては、リリィに新たな魔道具の作製依頼があるかもしれない」

「そうなのね、頭に入れておくわ」

「うん、そうしておいて。それから、これがまた頭の痛い話なんだけど、アンナ・ザボンヌがまた妙なことをやらかしてくれたよ……」


 そう言って顔を顰めるエドワードに、途轍もなく嫌な予感がする。


 アンナが関わっている時点で頭を抱えることになるのは確定したようなものだが、エドワードが頭が痛いと断言したことで、よりそれが不安を煽っていた。


「冬休みに入って五日目のことだけど、アンナ・ザボンヌを担当している魔法省の男性調査員を、僕だと思い込んで誘惑し、襲おうとしたんだ」

「……はい?」


 流石に予想外過ぎて、リリアンナは思わず目が点になり、呆然としたままエドワードを見上げる。


 何故突然そんなことになるのかと、何が何だか訳が分からなかった。


「アンナ・ザボンヌは、例の媚薬の偽物を口にし、調査員にもそれを飲むよう強要したそうだ。当然それは拒否したし、未遂に終わっているけど、押し倒されたらしいからね」

「それはそれで問題だけど、調査員をエドだと思い込んだというのは……」

「何故今になってそんな行動に出たのかは分からないけど、薬の影響と特性の能力が妙な反応をし合ったからではないかと推測されている。今はまだ検証の最中で、何とも言えないけどね……」


 言われてみれば、確かにそれぐらいしか思い付かないが、滅茶苦茶過ぎて眩暈がしそうになる。


 どうしてこうも次から次へとこんな訳の分からない行動が飛び出してくるのかと、遠い目をしながら天を仰いだ。


「彼女は相手がエドだと思い込んだまま、そんな行動に出たのよね? つまり王太子に変な薬を盛って襲おうとしたってことだけど、それが重罪だと分からないのかしら?」

「分かってはいないだろうね。逆にそれを僕が喜ぶとでも勘違いしているのではないかな。その男性調査員は、気が動転して逃げるのが精一杯だったみたいだから、それで僕が彼女を拒絶したということになってて、かなり面倒なことになっている」


 これまでの苦労が水の泡になりかねないと、エドワードが苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てる。


 その男性調査員は災難だったとしか言えないので責めるつもりはないが、アンナの特性の能力を調べる為に彼女に好意的に接する必要があることを考えると、今回の件はかなりまずいことになっていた。


「彼女の貞操観念はどうなっているのかしら? 貴族の令嬢は、結婚するまで純潔を守るべきだと言われているのに……」

「そこが理解できていれば、売人の男に騙されて純潔を散らすこともなかったはずなんだけどね」


 厄介な問題ばかりで、何度頭痛を覚えたのか分からない。


 二人は揃って深く溜息を吐くと、困惑したまま顔を見合わせた。

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