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63.合同捜査の準備中です

 部屋を訪れたエドワードを迎え入れると、どちらからともなく寄り添い軽く触れ合わせるだけのキスを一度だけ交わす。


 毎回愛しい少女から防御結界を張ってまで拒否されることに堪えられず限界を感じたエドワードが、部屋に来た直後はキス一回だけで我慢するから、結界を張るのはやめてほしいと懇願した結果である。


 リリアンナ自身も出会い頭の熱烈なキスを回避する為に、毎回そうするのはどうなのだろうかと思ってはいたので、あっさりとそれを受け入れた。


 そっと顔を離した二人は微笑み合いソファーへと向かう。


 お互いにお茶を一口飲んで喉を潤すと、エドワードはリリアンナの肩を抱き寄せる。


 リリアンナは正直それですら恥ずかしいのだが、膝の上に乗せられるよりは遥かにマシだと、抵抗することなくなすがままにされていた。


「魔法省の調査員をランメルに派遣することが決まったよ。リリィの魔道具が準備でき次第、出発する予定だ」

「そうなのね。魔力を辿ることに長けていて、戦闘にも慣れている方が選ばれるのかしら?」

「そうなるね。場合によっては相手とやり合うことも有り得るから、ある程度戦える者でないとね」


 マークが入手していた媚薬は、ランメル王国でも危険視している。


 ランメル王国でも例の媚薬による被害がそれなりに出ており、以前から捜査されていた。


 それが今回、その売人の男と魔法を無効化する魔道具に術式を付与した者が親子関係にある可能性が高いと分かり、目の色を変えている。


 魔道具を所持していたのが、ランメル国内に拠点を置く犯罪組織であることは判明しており、その拠点を特定することが急がれていた。


 魔道具に術式を付与した者が特定できれば、その犯罪組織と媚薬、両方の捜査に進展が見られるかもしれないとなれば、彼らの目の色が変わるのも当然のことだ。


 だがランメル王国には、魔道具に術式を付与した者の魔力を読み取り、それを辿る技術は存在していない。


 大陸で唯一その技術を持つフォレスト王国との合同捜査によりその力を借りることができるのは、ランメル王国にとっては願ってもないことだった。


「本音を言えば、フォレスト王家の影を捜査に関わらせることができるのが一番だけど、流石に他国との合同捜査に派遣する訳にはいかないからね」

「ランメル王国にも暗部はいるでしょうしね。お互いに顔や存在を知られる訳にはいかない以上、無駄な衝突を生みかねないもの」


 フォレスト王国内であれば、魔法士が魔道具に術式を付与した者の居場所を特定した後、王家の影が調査をしたり動向を監視することができる。


 現時点でその魔道具に術式を付与した人物が犯罪組織の手の者か、或いは依頼を受けた外部の者であるのかまでは分からないが、フォレスト王国内にはいないことが判明している。


 そしてランメル王国の方角にいることが特定されていることから、今回ランメル王国内でその行方を追うことができるのは、フォレストとしても願ってもいないことだ。


 だがランメル王国の暗部が動くことが想定されている以上、フォレスト王家の影をランメル王国内で動かす訳にはいかない。


 国の暗部同士であり、顔も存在も明かすことはできないのだから、お互いに気付けば面倒な事態に発展する可能性を否定できないからだ。


 フォレスト王家の影には、常に魔法力が高い者が含まれており、魔力を辿ることに長けた者もいる。


 彼らを動かすことができれば、もっと楽に事態が運ぶのだろうが、流石に今回その手段を取ることは諦めざるを得なかった。


「魔道具の数は、今依頼されてる分だけで足りるのかしら? 流石に学園がある日だと、二種類を十五個ずつ計三十個程度が限界だから……」

「恐らく、ランメル側からの追加が入るだろうね。相手の力量がはっきりとしていない以上、あの魔道具はどちらも身に付けておきたいだろうから」

「そうよね……」

「今のところフォレストから派遣する人数分に関しては、納品済みの分で足りてるから問題ないよ。外交官に貸与する予定だった分をそちらに振り分ければだけど」


 その辺りの調整を現在行っているところらしい。


 どちらにせよ、本格的に動くのはランメル王国に必要な分の魔道具を揃えてからになる。


 結局のところ、魔法省の調査員がランメル王国に向かうのは、リリアンナがそれを作り終えてからになるのだ。


 最終的に追加分がどれだけになるかのは未定だが、王家と相談しながら、兎に角作れるだけ作るしかない。


 それに外交官に貸与する予定だった分をランメル王国に向かう調査員に回すのであれば、フォレスト王家からも追加があると言われたのも同然である。


 当面は二つの魔道具を作り続ける日々になりそうだ。


「二つの魔道具の取引価格も決定したことだし、ランメルもそれを基に追加分の数量を決めるだろうから、近いうちに連絡がくるのではないかな」

「取引価格って、いくらに決まったの?」


 リリアンナの疑問に、エドワードは無駄に整った笑みを浮かべるだけで何も言わない。


 それに背筋が冷たくなるのを感じたリリアンナが、自身に入った報酬金額を確認して驚愕するのは当分先のことだ。


 その時になって初めて、周囲から自分の作った魔道具の価値をちゃんと理解しろと言われ続けたことの意味を、漸く理解したのであった。

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