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62.魔道具の取引をします

 イリーナ達ランメル王国一行が王都を発ってから迎えた最初の週末、オルフェウス侯爵家のタウンハウスでは、AクラスとFクラスの生徒達を招いてお茶会兼勉強会が開かれていた。


 リリアンナはイリーナ達がフォレストに着く前からそちらの対応で忙しくしていたこともあり、三週間ほどは彼らに関われていない。


 その間もコルト侯爵家やウィステリア侯爵家のタウンハウスでは、このメンバーでのお茶会兼勉強会が開催されてたが、リリアンナはイリーナ達と過ごしていたこともあり、そちらには参加する余裕がなかったのだ。


 Fクラスの生徒達の様子をさりげなくチェックしてみると、一ヶ月前とは見違えるほどマナーが洗練されている。


 当初の予定では最低でも週二日だったが、アンナが再びフレイヤ達に暴力を振るおうとしたことで更にクラスメイト達に火が付き、毎日マナー指導が行われることになったらしい。


 学園の授業がある平日は放課後に一時間、更にその後はAクラスの教室で一時間勉強会をしていたとのことだ。


 Fクラスの生徒達を見つめながら満足そうに頷いているクラスメイトの令嬢達に視線を向け、よくもまあ僅か一ヶ月でここまで仕上げたものだと感心する。


 彼らのマナーは、リリアンナの目から見ても充分及第点だ。


 教える側も教わる側も、真剣に取り組んだ結果であり、恐らくその指導はかなり厳しいものであったと思われるが、敢えてそれは考えまいと目を逸らすことにした。


「リリアンナ様、彼らのマナーは如何でしょうか? 随分と見違えたと思うのですが」

「ええ、一ヶ月でここまで洗練されたマナーを身に付けるなんて素晴らしいわね。社交でお茶会に出席しても問題ないと思うわ」


 小声でそう囁いてきたクラスメイトに素直に答えると、嬉しそうに笑みを返される。


 これからはダンスレッスンに重点を置いて指導していくつもりだと、クラスメイト達は意欲たっぷりに語っていた。


「私は当分、魔道具作りに専念することになりそうだわ。王宮とランメル王国から依頼されたものがあるから。今のところ、私しかまともに作れないし、結構な数があるのよね」

「……それって、もしかして例の魔道具ですか?」

「ええ、そうよ」


 例の魔道具とは、リリアンナが作製した防御結界と状態異常無効化の二つの魔道具のことである。


 その二つをイリーナに渡したところ、こんな貴重な魔道具をただで貰う訳にはいかないと強張った顔で首を横に振られた。


 最終的には近い将来義理の姉妹になるのだから厚意に甘えると言って受け取ってくれたが、イリーナの分以外は頑なに固辞されたのだ。


 ただ、実物を見たミハイルやラドリス公爵夫妻は強く興味を惹かれたようで、是非ランメル王国と取引してほしいと請われた。


 だが売る目的で魔道具を作ったことがないリリアンナは、適正価格が分からない。


 その結果、フォレスト王家とランメル王家、そしてリリアンナの父であるフランツを交えて話し合い、適正と思われる取引価格が決められることになった。


 問題は、まともに作れるのがリリアンナしかいないことである。


 魔法省の魔道具専門の魔法士達は、防御結界の方は一日に一つが限界だと言い、状態異常無効化の方に関しては最初から匙を投げていた。


 つまりリリアンナが一人でせっせと作るしかないのである。


 ランメル王国にはイリーナに渡したものとは別にサンプルとして二つずつ渡しているが、現時点で五個ずつ注文が入っているし、これからも増える予定だ。


 フォレスト王家からも、取り敢えず二十個ずつ作ってほしいと言われている。


 そのうち半数以上は外交官が他国に赴く際に貸与し、その都度使用者登録と解除をするという使い方をするらしい。


 それによりここ最近のリリアンナは、学業が疎かにならない範囲で、魔道具作りに勤しむ日々を送っていた。


 お陰でエドワードが部屋に来た時以外は、常に忙しくしている状態である。


 エドワードも忙しい中時間を割いてリリアンナに会いに来てくれているので、流石に彼との時間は大切に過ごしているが、最近はその時間もやや短めになっており、エドワードは仕方ないとは思いながらも少し不満なようだ。


 その所為か帰る間際のキスが、更に濃厚で激しく、しかも長くなっている。


 軽く触れ合わせるだけのキスですら未だに慣れず真っ赤になるリリアンナは、当然そんなキスは許容範囲を超えているので毎回思考停止を起こしてしまう。


 ただ濃厚で激しいというのは、あくまでもリリアンナの基準であり、それ以上があることを現時点ではまだ知らなかった。


「それにしても、アルフレッド様がランメル王国の公爵令嬢とご婚約なさったことには驚きましたわ」

「ええ、本当に。大変おめでたいことですが、どのような縁でご婚約に至られたのですか?」


 魔道具関連の話はこれ以上続けるべきではないと考えたのか、話題がアルフレッドの婚約話へと移り変わる。


 長らく婚約者が決まらなかったアルフレッドの降って湧いた婚約に、誰もが興味津々といった様子で目を輝かせていた。


「ラドリス公爵家から縁談の申し込みがあったの。それとは別件で我が国を訪問されていたのだけど、その時にお会いして、その場で話が纏まったの」

「その場でだなんて、余程お二人の感触がよろしかったのですね」

「ええ、まあ……」


 その切っ掛けが何であるか言いたくないリリアンナは、言葉を濁し言い淀む。


 だがミレーヌはそんなリリアンナを揶揄うように、遠慮なく真実を述べたのだった。


「どうやらアルフレッド様と同類らしいわ。リリィを崇拝しているそうよ」

「ちょっと、ミレーヌ……!」


 気まずそうに睨んでくるリリアンナに、ミレーヌは悪戯っ子のような笑みを浮かべる。


 そんな二人をよそに、クラスメイト達は妙に納得した様子を見せていた。


「アルフレッド様と同類ですか。何だか分かるような気がします」

「ええ、アルフレッド様のお相手としてこれ以上の方はいらっしゃらないかと」

「それは、どう捉えればいいのかしら……」


 クラスメイト達の言葉に、リリアンナはどう反応するべきか迷い頭を抱える。


 悔しいことにリリアンナも同感ではあるので、何も反論ができなかった。


「でも私とは関係なく、お互いに好意を抱かれているわ。お兄様なんていつの間にか遠距離通信用の魔道具を作って、婚約者のイリーナ様に渡していたのよ。毎晩それを使って話をしているみたいなの」

「まあ……!」


 リリアンナほどではないが、アルフレッドの魔道具作りの腕前もかなりのものである。


 遠距離通信用の魔道具は高度な技術が必要とされるが、彼にとってはそう難しいものではない。


 イリーナ達が滞在していた約二週間の間に、周囲が驚くほど二人の仲は深まっていたが、まさかそんなものまで作っているとは思わなかった。


 クラスメイト達がアルフレッドとイリーナの婚約に話を咲かせるのを眺めながら、リリアンナは二人の様子を脳裏に思い浮かべる。


 始まりは予想外なものではあったが、次第に心を通わせ親密になっていく二人は幸せそうで、見ているこちらまで嬉しくなるほどだった。

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