61.会談と新たな恋の始まりです
フレデリック達がランメル王国の王都に到着した翌日、ランメル王家からその二日後に会談に応じると連絡があった。
その会談の結果、ランメル国王の姉を妻に迎えているラドリス公爵が今回の件に関して特使を務めることになったらしい。
別の者に特使を任せフォレスト王国に向かう人数を増やすよりも、婚約の手続きと特使としての会談を一度に済ませた方がいいだろうということで話が落ち着いたようだ。
婚約の手続きが済めばそのまま神殿に向かい婚約式を行う予定だったこともあり、今回の件とは関係なく、立会人としてランメル王国の王太子が同行することが早くから決まっていた。
当然彼に同行する護衛の人数も多く、道中が仰々しくなるのは避けられないし注目も集まる。
アルフレッドとイリーナの婚約は、ランメル王国内では既に噂になっているので、その行列は二人の婚約手続き及び婚約式の為にフォレスト王国に向かっているものだと認識されるだろう。
だがそこに明らかに関係なさそうな人物が混じっていれば、不審に思われる可能性もある。
それもラドリス公爵が特使に任命された要因の一つでもあった。
フォレストの王都郊外にある転移魔法陣と国境検問所近くの転移魔法陣は、原則フォレストの外交官のみが利用することを許されているが、今回はイリーナ達ランメル王国一行も、特例として往路だけは利用する許可が出されている。
往路だけ許可が出たのは、復路まで許可すると何事かと勘繰る者が出てくる可能性が高いからだ。
余計な疑念を抱かせない為にも、折角ランメル王国から訪問されるのだから、帰りはフォレスト国内を旅してもらった方がいいだろうということで話が纏まっていたのだった。
元々当初の予定では、フレデリック達がランメル王家と会談した三日後に、イリーナ達はフォレスト王国に向け出発する予定になっていた。
フレデリック達がそれに同行して帰国するのは流石におかしいだろうということで、彼らは一足先にランメル王国を発っている。
そして一度王都に戻った後、予定通り出発したイリーナ達を国境検問所で出迎え、フォレストの王宮まで案内することになった。
イリーナ達がフォレストの王都に着いたのは予定より一週間早いが、フレデリックは遠距離通信用の魔道具でランメル王国からフォレスト王家と連絡を取り合っていたので、フォレスト側の準備に抜かりはない。
その分滞在期間は延びるが、お互いそれは特に問題としていなかった。
それに今回はラドリス公爵が遠距離通信用の魔道具を持参していることもあり、それを利用しランメル国王と会話することもできる。
魔道具越しとは言え、ランメル国王と直接言葉を交わして今回の件について話し合う機会が増えるのだから、寧ろそれは都合が良くもあった。
既に神殿には予約を入れていることもあり、婚約式は予定通りの日程で行われるが、それまでアルフレッドとイリーナが会わないということもなく、二人は時間の許す限り積極的に交流を図っている。
リリアンナのことが絡んでいなくても相性は良いらしく、二人は順調に仲を深めているようだ。
そして婚約式の前日、王宮ではフォレスト王家とオルフェウス侯爵家、それにランメル王国の王太子とラドリス公爵家による晩餐会が開催されていた。
普段こうした場には、社交界デビュー前である二人の王女は参加しない。
だがランメル王国の王太子ミハイル・ランメルは先日十四歳になったばかりで、同じく社交界デビュー前だ。
それもあって、今回は王女達も参加していた。
第一王女のレイチェルと第二王女のシンシアは既にミハイルと対面を果たしており、こちらも時間の許す限り交流を図っている。
特にミハイルとレイチェルの間には甘酸っぱい空気が漂っており、今も顔を見合わせては揃って頬を赤く染め、恥ずかしそうに微笑み合う。
二人がお互いに一目惚れしたようだという話は、この場の全員が伝え聞いており、複雑な表情を浮かべるフォレスト国王とエドワード以外は、二人を温かく見守っていた。
年齢もミハイルの方がレイチェルより一歳上と釣り合いも取れており、今後の二人次第ではあるが、婚約を結ぶことも充分有り得る。
当然の如くラドリス公爵夫人を通じてランメル国王にも伝わっており、性格の面でも相性に問題がないようであれば、婚約を進めることを考えてほしいと願っているそうだ。
今回の滞在期間は二週間ほどであるし、そう簡単に会える距離ではない為、今後は手紙の遣り取りで交流を深めることになるだろう。
手紙だけで性格的な相性を確かめるのは、難しい面もあるかもしれない。
だが二人の様子を側で見守っていたシンシアや侍女達によると、性格的にも問題なさそうだという話だ。
案外早く二人の婚約が纏まるかもしれないと、そう考える者も多かった。
明日の午前中に婚約式が終われば、その後はオルフェウス侯爵家のタウンハウスにイリーナ達を招待して午餐会を開き、夜は重臣達を交えた晩餐会が王宮で開催される。
次の日の午後にイリーナ達は帰国の途に就くことになっている為、オルフェウス侯爵家はこのまま王宮に泊まり彼女達の見送りをすることになっている。
そして別れの時、アルフレッドとイリーナ、ミハイルとレイチェルはそれぞれ寂しそうにしんみりとした様子で挨拶を交わしていた。
次に会えるのは約二ヶ月後、冬休み期間中にオルフェウス侯爵家で開催されるアルフレッドとイリーナの婚約披露パーティーになるだろう。
馬車が見えなくなるまで泣くのを我慢していたレイチェルが、堪え切れずにボロボロと涙を零し始める。
リリアンナがそっと背中に手を置くと、抱きついて声を上げて泣き出した。
王女としては褒められた態度ではないが、いつもは直ぐに嗜める王妃も、仕方ないわねといった様子で見守っている。
婚約が成立したアルフレッドとイリーナとは違い、二人はまだ始まったばかりでこれからどうなるかは分からない。
願わくば二人が幸せになれますようにと、泣きじゃくるレイチェルの肩を抱き頭をそっと撫でた。