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58.知る権利があります

 翌日の昼休み、エドワードはクリフとルイスに現時点で判明していることを包み隠さず全て話した。


 ランメル王国との連携を取る為にフレデリックがその橋渡しを担うこと、そして彼とエミリアにも話を通すことになったと聞いたルイスは、何とも言えない顔で眉間に皺を寄せる。


 だが気持ちの上では複雑でも、頭では仕方がないことだと理解していた。


「当事者と言えなくもないことを考えると、確かにフレデリック殿が適任だろうな。例の媚薬事件の被害者な訳だし、知る権利もある……」

「まあ、そういうことだ」

「それに、エミリアも俺と結婚すれば、特性絡みの調査や実験に関わることになるかもしれないし、そうでなくとも事情を知っておいてもらった方が、何かと都合が良いこともあるか……」


 気持ちを持て余したように髪をぐしゃりと掻き混ぜたルイスは、ソファーに深く身体を預けるとぎゅっと目を閉じた。


 ルイスはリリアンナ同様、エミリアのことを妹同然に可愛がっていたが、数年前から次第に一人の女の子として意識し始め、今では婚約者だとかに関係なく大切に思っている。


 リリアンナやエドワードと同等の魔法感知能力を持つルイスは、学園卒業後は本格的に特性の調査に絡むことになるが、現在特性持ちだと判明している三人のことを考えると、精神的な負担が大きくなるだろうことは想像に難くない。


 それを考えるとできればエミリアを巻き込むのは避けたいというのも本音であり、その一方で彼女は蚊帳の外にいるのを望まないことも分かっているので、上手く自分の気持ちを処理できずにいた。


「ルイス、エミリア嬢が大切なのは分かるが、彼女は守られることだけを良しとするような令嬢ではないのだろう?」

「分かっている、寧ろ黙っていれば怒る性格だ。エミリアにも手伝ってもらった方がいいってことも理解している。それに、フレデリック殿も真相を知りたいだろうしな」


 迷いを振り切るように頭を振ると、ルイスは天を仰ぐ。


 気持ちの整理はできなくても、フレデリックのことを考慮すれば彼らが真実を知ることは当然の権利であり、それには今回の件に関わる形になるのがいいことも理解はしていた。


 フレデリックと彼の妻アリアは、マークとジェシカが起こした事件の被害者だ。


 当時学園の三年生だった彼らは、新年を祝う夜会で媚薬を摂取し散々な目に遭った。


 マークが入手した媚薬は液状のもので、当初は飲み物に仕込まれていたが、常日頃から絡まれていたフレデリック達は彼らを警戒し、二人が手渡そうとしたそれを当然拒否した。


 すると激昂したジェシカは媚薬入りの飲み物を、フレデリックとアリアの顔にかけたのだ。


 (たち)の悪いことに、それは皮膚からも成分を摂取することが可能なもので、二人は即座にその効果に苦しめられることになった。


 ただ壁際とは言え夜会会場で起きたことであり、二人が床に蹲り息を荒げていた為、様子がおかしいことに気付いた複数の衛兵が駆け付け、マークとジェシカはその場で取り押さえられた。


 お陰で二人がそれぞれマークとジェシカの毒牙にかかる最悪の事態は免れたが、媚薬の効果を抜くには交わるより他なく、二人は結婚前であるにも拘らず、お互いに熱を発散することを余儀なくされたのだ。


 熱を発散できなければ命を落とす危険性があったことから、直ぐ様王宮の休憩室に運ばれた二人は、完全にその効果が抜けるまで三日三晩閉じ籠る羽目になった。


 当然避妊魔法をかける余裕もなく、避妊薬は二十四時間以内に飲まなければ効果がない。


 その結果、二人はこの時に子供を授かった。


 幸い周囲には体調を崩したようにしか見えず、衛兵達が気を利かせてそうとは分からないように立ち回ってくれたことで、二人が媚薬で苦しんでいたことは気付かれていない。


 侯爵家以上の家にしか事件の詳細は知らされておらず、世間一般的には怪しい薬をかけられ体調を崩したと説明されているので、当時の二人が好奇の目に晒されることはなかった。


 だが卒業後直ぐに入籍し、その一年後に式を挙げた時には子供が生まれていたことから、何かしらを感じ取った者は多いだろう。


 ただクリンベル侯爵家とアリアの実家であるアルトン侯爵家には、良好な関係を築いているオルフェウス侯爵家とコルト侯爵家が寄り添っていた。


 魔法の二大名門である両家が睨みを利かせていたこともあり、表立って騒ぎ立てる度胸のある者は流石にいなかった。


 妊娠が判明した当初は、フレデリックもアリアも意に沿わぬ形で子供を授かったことで、生まれてくる子供を愛せるのか悩んでいた。


 だが実際に生まれたきた我が子に愛しさが溢れ、幸せに感じたことは、二人にとってどんなに救いになったことだろうか。


 そしてフレデリックの妹であるエミリアも、この事件には心を痛めていた。


 当時十三歳だった彼女には衝撃が強く、暫くの間は情緒不安定になっており、リリアンナとルイスでよく慰めたものだ。


 子供が生まれ幸せそうに笑い合う兄夫婦の姿に安堵の涙を流していたことは、ルイスにとっても忘れられない出来事になっている。


 だからこそ、フレデリックとエミリアが真実を知ることに異論はないし、反対するつもりもない。


 だがその為に今回の件に二人が関わるのは、ルイスとしては複雑な気分だった。


 そんなルイスをエドワードとクリフが宥めていると、談話室の扉がノックされる。


 迎えに出たクリフが扉を開けると、ギルバートが中に入ってきた。


「叔父上、どうなりました?」

「フレデリック殿は、今回のランメル王家との交渉を快諾してくれたよ。まずは早馬で向こうに面会希望の意向を伝えに行ったところだ。フレデリック殿も準備が整い次第出発し、あちらの王都で待機する予定だ」

「そうですか」

「ああ、それで今晩急遽打ち合わせも兼ねて、フレデリック殿とエミリア嬢を招いて晩餐会を開催することになった。エドワードは勿論だが、オルフェウス侯爵家とルイスにも出席してもらう」


 自分まで名指しされたことで、ルイスが驚き目を見開く。


 エミリアの婚約者であり、関係者でもあるのだからある意味当然なのだが、何となくそれだけではないような気がするのは気の所為だろうか。


「それから、少しは控えるようリリィには説教しないとね」

「……今度は何をやらかしたんですか?」

「この前の防御結界の魔道具と同じ原理で作動する状態異常無効化の魔道具だよ」


 感情の読めない声で息継ぎなしで言い切ったギルバートの言葉に、ルイスだけでなくクリフも目が虚ろになる。


 立て続けに何をやっているんだとリリアンナがいるであろう談話室の方へ視線を向け、少しは限度を覚えてくれと、呻くように念を飛ばした。

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