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54.謎が増えてます

 この日の夜も、リリアンナの部屋を訪れたエドワードを防御結界が迎えていた。


 当然これはリリアンナが展開したものであり、二人は暫しそのまま結界越しに笑顔で睨み合う。


 とは言え、満足するまでキスがしたいエドワードと、帰る間際だけに留めてほしいリリアンナが、お互いに触れるだけのキス一回で妥協する為にやっているようなものだ。


 結局この後直ぐ、いつものように短く軽いキスを一度だけ交わすと、二人はソファーへと移動した。


 この時リリアンナがエドワードを置き去りにして早足になるのは、抱き上げられて運ばれ、ソファーで膝の上に乗せられるのを回避する為である。


 最近のエドワードは、照れてそんな行動に出るリリアンナが可愛くて仕方ないのだが、敢えてそれを悟らせないようにしていた。


「ザボンヌ子爵令嬢の怪我の話は聞いてるよ。叔父上から今回と、ついでにFクラスの女子生徒二人が叩かれた時の記録映像を見せてもらった。何と言うか、色々な意味で酷いね」


 その映像を思い出しでもしたのか、エドワードが眉間に皺を寄せる。


 ケイトとフレイヤが暴行を受けた時の映像を見ているリリアンナも、それを思い出し顔を顰めた。


「前回のは私も見たけど、何の前触れもなく突然だものね、それも笑顔で。言ってることもやってることも滅茶苦茶だわ」

「そうだね。突然笑顔で叩いたかと思えば、リリィの仕業だということにして非難し始めるし。一応相手を心配するようなことは言ってるけど、実際には自分のことを嘆いているだけだからね」


 笑顔を浮かべたまま突然フレイヤとケイトを叩いたかと思うと、悲痛な顔をしてそれをリリアンナがやったことにして責める様子は、不気味なんてものではなかった。


 実際にあの記録映像を見た時には怒りの感情が強くてそんなことを考える余裕はなかったが、冷静になって改めて思い出してみると、アンナのあの行動はいつにも増して異常だったと思う。


 そして冷静に振り返ったからこそ、違和感を感じる部分もあった。


「映像を見た限りでは、ザボンヌ子爵令嬢は軽く叩いていたようにしか見えなかったけど、それであんなに腫れ上がるものかしら? 女性にも見掛けによらず力が強い人はいるけど、それでもあの叩き方であの腫れ方は異常な気がするわ」

「僕もそう思う。それに今日の怪我にしても、怪我の程度の割に、痛がり方が尋常じゃなかった」


 リリアンナは今回の件に関しては記録映像は見ていないので何とも言えないが、両方を見たエドワードは更に違和感を感じているようだ。


 エドワードの話では、防御結界に手を跳ね除けられたアンナは、骨折でもしたのかというほどその痛みに泣き叫んでいたらしい。


 まるで獣の咆哮のようだったと聞かされれば、より違和感は強くなる。


 確かに捻挫でも充分痛いだろうし、痛みに呻いてもおかしくないだろうが、それでもそこまで泣き叫ぶほどだろうかという気がしないでもない。


 実際に記録映像を見たエドワードが捻挫ではなかったのかと疑問に思うほど、泣き叫ぶ様は凄まじかったようだった。


「リリィの言う通り、軽く叩いたようにしか見えなかった。あれで何故あれほど顔が腫れ上がったのか不思議なくらいだ」

「身体強化系の魔法でも使っていれば分からなくもないけど、警告音が鳴っていない以上、それも有り得ないものね。それとも、特性が何か関係しているのかしら?」

「その可能性を視野に入れて調査することになったよ。ただ、いつ結果が出るのかは分からない」


 恐らくエドワードとギルバートが既に動いていたのだろう。


 魔法省の負担は重くなるので、今頃発狂しているかもしれない。


 因みにリリアンナは、防御結界の魔道具のことで彼らを発狂させたばかりである。


「それからもう一つ、リリィに関することだけは、どう頑張っても暗示の方向性を誘導することができていない。これも何故なのか全く分からない」


 エドワードが苛立たしげに顔を歪める。


 リリアンナと関係ないことであれば、ある程度は誘導できるようになったのに、リリアンナが絡めば一向に上手くいかない。


 理由が分からないだけに、エドワードの精神的な負担はより大きくなっていた。


「そうなのね…。そう言えば気になってたことがあるのだけど、ザボンヌ子爵令嬢と魔力の相性が良くて、それでいて彼女より魔法力が強い場合、暗示の方向性により強い影響を与えることができたりするのかしら?」

「成程……。魔力の相性が良い相手が一人だけとは限らないし、その可能性がないとも言えない。だけど彼女と魔力の相性が良いのは、今のところララ・バロックしか見つかっていないんだよね」


 現時点では検証不可と、エドワードが悔しそうに吐き捨てる。


 魔力の相性が良い相手は、そう簡単に見つかるものではない。


 別に魔力の相性が良いからと言って、それ以外の相性が良かったり、好意を抱きやすい訳でもないので問題はないが、この件に関しては大問題だ。


「これはこれで気になるけど、彼女が何故あんなにもリリィに固執するのか、それも分からないままなんだよね……」

「確かに私は、エドの婚約者最有力候補だと言われているし、実際にそうな訳だけど、表向きは候補でしかない以上、私にだけ固執するのもおかしいわよね」

「そうなんだよね。リリィは最有力候補ということになっているけど、他にも候補とされている令嬢はいる。しかも、僕達の婚約が公表されるまでは、婚約者かどうか探りを入れられても、否定も肯定もしてはいけないことになっている」


 お互いに首を捻り、溜息を吐く。


 以前からの疑問は何一つまともに解決していないし、それどころか謎に思うことが増えている。


 何故こんなにアンナに振り回される羽目になっているのだろうと、改めてこの状況を恨めしく思うのだった。

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