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53.自業自得です

 教室内に耳を劈くような悲鳴が響き渡る。


 自作自演で悲鳴を上げることが多かった彼女だが、これほどの苦鳴を上げたことはない。


 だが右手首を押さえ、痛みに泣き叫ぶアンナに、Fクラスの生徒達は突き刺すような冷たい眼差しを向けていた。


 前回同様、アンナが突然フレイヤの頬を叩こうとした瞬間、魔道具の防御結界が作動しその手を跳ね返したのだ。


 フレイヤが受けるはずだった衝撃をその手に受けたアンナは、激しい痛みに絶叫し続け、ボロボロと涙を零している。


 しかしそれはアンナ自身が招いた事態、誰も心配も同情もしていなかった。


「痛い、痛い、痛いーっ! ああーっ!!」


 獣のような咆哮を上げ続けるアンナを見下ろし、これだけ泣き叫ぶほどの痛みを与えられようとしていたのかと、フレイヤはスッと頭の芯が冷える。


 その痛みは貴女の自業自得だと、口には出さずに強く詰った。


「リリアンナ様酷いわ! どうして私がこんな仕打ちを受けなければならないの!? 私がエドワード様に愛されてるからって、嫉妬してこんな酷いことするなんてっ!!」


 そして予想通りリリアンナの仕業だと妄言を叫び喚く姿に、吐き気がしそうになる。


 どうすればこの場にいない人物が危害を加えられるのかと、微かに唇の端を上げ静かに嘲笑した。


 Fクラスの生徒達も、エドワードとクリフが魚が死んだような目でアンナに接しているのは気付いている。


 言葉だけはアンナに好意的な態度を取っているのも、リリアンナをまるで存在していないかのように扱うのも、何か事情があるのだろうと考えていた。


 きっとAクラスの生徒達も、それに応じて行動しているのだろう。


 恐らく他のクラスの生徒達もそれに気付いているはずだ。


 その証拠に、エドワード達を非難する声は上がっていないし、評価も下がっていない。


 余計な詮索はせずに、遠巻きに眺める程度にしておいた方が賢明だと、そう考えている者も多いだろう。


 ただエドワード達がアンナに傾倒していることはないと、それだけは誰もが確信していた。


◇◇◇


 フレイヤ達からアンナの怪我について報告を受けたリリアンナは、疲れたようにこめかみを押さえ、目を閉じ頭を振った。


 昼休み終了間際に教室に駆け込んできたケイトから、放課後に報告したいことがあると言われた時は何事かと思ったが、嫌な予感だけはしていた。


 それが当たったことに頭痛を覚え、特大の溜息を吐きたくなる。


 どうして嫌な期待だけは裏切らないのかと、思わずここにはいないその相手に恨みがましい念を向けた。


「魔道具を渡しておいて良かったわ。貴女達には怪我はないのよね?」

「はい、防御結界が展開していたお陰で、私達には怪我一つありません」


 まずはケイトとフレイヤが無事だったことに胸を撫で下ろす。


 彼女達だけではなく、男子生徒達も怪我をしていないことを確認し安堵するが、まさかこんなに早く魔道具が活躍することになるとはと、眉を顰めた。


「いつかはやると思っていたけど、想定より早かったわね。正直な話、防御結界の魔道具なんて出番がない方がいいのだけど」

「本当にね。それで結果的に自分が怪我するなんて自業自得な上に間抜けだわ」


 リリアンナが見通しが甘かったと顔を険しくする横で、ミレーヌが呆れた様子を隠すことなくそう吐き捨てた。


 ここがAクラスの教室だということもあり、半数以上のクラスメイト達が教室に残り、聞き耳を立てている。


 彼らはリリアンナの言葉に反応しないよう心掛けているので頷きこそしないが、その表情はミレーヌに同意であると物語っていた。


「それで、彼女の怪我の具合はどうなのかしら?」

「手首の捻挫です。学園長のご意向で、治癒魔法は施されていません」

「…自業自得だから、当分痛い思いでもしてろってことかしら?」

「学園長のことだから、多分そうじゃない?」


 如何にもギルバートが考えそうなことだと、リリアンナとミレーヌが揃って溜息を吐く。


 だが二人も、その気持ちは分からなくもない。


 アンナがフレイヤに危害を加えようとしなければ、怪我をすることもなかったのだ。


 アンナに同情するつもりなど、一切なかった。


「そして彼女の中では、怪我を負わせたのは私ってことになっているのね。これは想定内だけど、分かっていても嫌になるわね」


 頭が痛いと憂鬱そうに軽く顔を伏せたリリアンナは、目を閉じると気持ちを落ち着けるようにゆっくりと息を吐き出す。


 そして目を開け顔を上げると、しっかりと前を見据えた。


「まあ、これは今に始まったことではないし、ごちゃごちゃ考えたところでどうにもならないわね。彼女の妄想の中ではそうでも、誰の目にも自作自演だということが明らかな以上、私が冤罪に嵌められることはないもの」

「それが分かっていないのは彼女一人だけだと思うわ。流石に、彼女を信じる人は誰もいないと信じたいわね」


 自分に言い聞かせるように言葉を紡いだリリアンナの肩に手を乗せ、ミレーヌがそっと寄り添う。


 現在アンナは、怪我もあって保健室に押し込められているそうだが、明日辺り怪我をさせられたと喚きながらリリアンナに詰め寄ってくるに違いない。


 恐らく誰もその主張を信じないとは思うが、やってもいない罪で責められるのは面倒だし厄介だ。


 いっその事、何を言われようとも素知らぬふりして一切反応しない方がいいかしらと、リリアンナは本気でそう考え始めていた。

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