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45.真面目に話をしたいです

 ラドリス公爵達との面会の翌日、リリアンナはエドワードの膝の上で彼と攻防を繰り広げていた。


 この日の夜もリリアンナの部屋へやって来たエドワードは、逃げようとするリリアンナを捕まえて抱き締め、熱烈なキスを何度も送った。


 そして腰が抜けたリリアンナが、顔を真っ赤にしながらエドワードに寄り掛かると、直ぐ様抱き上げてソファーに移動し、今度は膝の上に乗せて抱き締める。


 これが学園が再開して以降、毎日続いているのだ。


 昨夜は、ラドリス公爵達との面会の後、そのまま王宮で晩餐を共にしてからタウンハウスに戻ったのだが、それでもエドワードはリリアンナの部屋を訪れた。


 王宮でも一緒にいたが二人きりではなかったからと、思う存分愛でられたのである。


 イリーナによる思いがけぬ精神的ダメージが癒えていなかったリリアンナは、エドワードになすがままにされ、恥ずかしさから精神的疲労が更に蓄積されることになった。


 ここ最近、リリアンナの基準では大人のキスに分類されるキスをエドワードに教え込まれ、それだけでぐったりしてしまい、アルフレッドが乱入した時以外、まともに話ができていない。


 エドワードの膝の上にいる状態では隙あらばキスされてしまうので、今日こそはちゃんと真面目な話がしたいリリアンナは、何とか膝から降りようと必死で彼に訴えていた。


「お願いだから、膝から降ろし……、んっ!?」

「…話ならこのままでもできるでしょ」

「話そうとする度にキスしてくるくせに、何言ってるの? これでどうやって話をしろって言うの!?」


 またも言葉の途中で唇を塞がれ、強制的に中断させられる。


 このままでも話はできると言いながら、全くそうはさせてくれないエドワードにしっかりと腰を抱かれ、身動きできず逃げるのを諦めたリリアンナは、キスだけでも防ごうと彼の肩に顔を押し付けた。


 リリアンナの顔が見えなくなったことにエドワードは不服そうな顔をしたものの、するりと彼女の後頭部に手を回してくる。


 その結果、更に逃げられなくなった上に、余計に身体が密着することになった為、リリアンナは耳まで真っ赤になってしまう。


 だが大人しく観念して、そのまま消えいるような声で話し始めた。


「ゾリラスの件とか、ちゃんと話したいのに……」

「ああ、その件なら魔法省に確認を急がせることになってる。午後からミィの様子がおかしかったのはその所為?」

「ええ、ギルバート様から話を聞いた時のミレーヌは、顔が真っ青になっていたわ……」


 あの時のミレーヌを思い浮かべながら、リリアンナは唇を引き結ぶ。


 いつもは気丈に振る舞うミレーヌが、あそこまで動揺するのは珍しく、それだけウィステリア侯爵家にとって禍根を残しているのだろうと思われる。


 元々騎士の家系ではあったが、あの事件以来、ウィステリア侯爵家では女性も、魔法に加え剣術を修めるようになった。


 ウィステリア侯爵家の先代当主であるミレーヌの祖父は、事件の被害者ソフィアの兄でもある。


 ミレーヌは幼い頃から、護衛だけを頼りにするのではなく、最低限自分の身を守れる術を身に付けろと、事あるごとに言い聞かされていたらしい。


 その度に、妹をあんな形で失った祖父の悲しみが計り知れないほど深いことを思い知らされると、ミレーヌが語っていたことを思い出す。


 その彼女が、今回の件に冷静でいられないのも無理はないと、リリアンナはそっと目を閉じ小さく息を漏らした。


「僕達王族にとっても、あの事件は深い傷となっているからね。それに、自分の婚約者候補になったってだけで誰かが殺されるのは、想像しただけでも正直きついよ……」


 エドワードがそう言葉を絞り出し、リリアンナを更に強く抱き締める。


 エドワードは、リリアンナが同じ目に遭うことを想像するだけでも耐えられない。


 ソフィアと婚約するはずだったランメル前国王のことを思うと、彼の人格が冷酷に変わってしまったのも理解できてしまう。


 リリアンナならば、その高い魔法力で賊を一網打尽にし、逆に一人残らず捕えるだろうが、だからこそあの魔法を無効化する魔道具は、存在すること自体許せない。


 彼女には効かないし簡単に無力化できてしまえるものだが、そんなことは関係ないのだ。


 だからこそ、あの魔道具に術式を付与したのがゾリラスの血縁であると言わざるを得ない状況は、彼にとっても看過できるものではなかった。


「あの魔道具に術式を付与した者は、必ず見つけ出す。魔法省の者に無理なら、コルト侯爵か、アルフレッドに頼むことになるだろう」

「叔父様とお兄様に?」

「ああ、アルフレッドが本格的に動くなら学園を卒業してからになるが、あいつは他にもランメルに行く理由ができたことだしね」


 あの魔道具は、ランメル王国に拠点を置く犯罪組織が関わっている可能性があると言われている。


 正直なところオルフェウス侯爵家やコルト侯爵家の直系が動くのは目立つが、ランメル王国の公爵令嬢であるイリーナと婚約することになったアルフレッドならば、ランメル王国を訪れても不自然ではない。


 婚約式はフォレスト王国で行うが、イリーナはランメル国王の姪だ。


 何れランメル王国を訪れ、国王に謁見しなければならないし、あちらでも婚約披露パーティーを開催することになる。


 その機会を有効に活用してというのは気が長い話だが、国を跨いでの捜査となる以上、実際にはそれくらい時間が掛かるのは覚悟しなければならないだろう。


「ランメル王国での婚約披露パーティーには、親族として私も参加することになるし、もし賊が狙ってくるとしたらその時かしら?」

「もし狙うとしたらそうだろうね。賊だってリリィを狙うのは自殺行為だってことくらい分かってるだろうけど、思い上がった馬鹿はいるからね。フォレストの王族であり、リリィのパートナーとして参加する僕を狙う可能性もあるけど」


 エドワードが忌々しそうに顔を歪め、リリィを狙うなんて許さないけどとボソリと呟く。


 そして頭を振るとゆっくり息を吐き出し、敢えて話題を切り替えた。


「それにしても、まさかランメル王国側が、アルフレッドとの婚約が成立した後の予定までしっかり立ててたとはなあ…」

「あちらでの婚約披露パーティーを、お兄様の学園卒業後に行うことまで決まってたものね」


 何としてもアルフレッドとイリーナの婚約を成立させるという強い意気込みが感じ取れ、揃って苦笑してしまう。


 それに関してはこちらも色々と利点がある訳だが、用意周到過ぎて、少し怖くもあった。


「それにしても、イリーナ様の魔法力は思った以上に高かったわ。魔法士として優秀な方だとは、初めてお会いした時に分かってはいたけど」

「ああ、アルフレッドの妻になる女性として、文句の付けようがない。意外な形ではあったが、あれほど優秀な方との縁が結べるのは、オルフェウス侯爵家にとっても素晴らしいことだな」


 リリアンナが学園から魔法省に直行すると、イリーナは既に魔道具を無力化する魔法を使い熟していた。


 難易度が違う五つの魔法のうち、上から三番目の魔法まで問題なく使い熟していたのだ。


 上から二つはリリアンナにしか使えないことを考えれば、半日でものにしたイリーナは魔法士として極めて優秀だと判断せざるを得ない。


 彼女をオルフェウス侯爵家に迎えることができるのは、とても幸運なことだと思えた。


「まあ、義理の姉妹として良好な関係を築けそうではあるし……」


 リリアンナのそんな言葉に、エドワードはつい吹き出してしまう。


 それをリリアンナは、恨めしそうな目で軽く睨む。


 だがそんな軽口を叩いていても、重要なことを頭から追い出してはいない。


 二人はこれから先を見据え、色々と対策を講じていた。

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