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42.意外な形での婚約成立です

 イリーナ・ラドリス公爵令嬢は、緩く波打つ銀髪にミントグリーンの瞳が神秘的な美しい女性だ。


 ランメル国王の姪で、王太子の従姉でもあるイリーナは、歳はリリアンナの一つ上だが、随分と落ち着いた雰囲気があり、年齢より大人びて見える。


 それが、初めて彼女を目にした時の印象だ。


 だが今、そのイリーナは、何故か最初とはがらりと雰囲気が変わり、熱い眼差しでリリアンナを見つめていた。


 婚約を結ぶことを希望しているはずのアルフレッドとは、頬を染めながら挨拶を交わしていたが、それ以上の熱量でリリアンナを見つめているのだ。


 ラドリス公爵はそんな娘の隣でアルカイックスマイルを保ち、一切の感情が読めないが、それが表情を取り繕う限界なのだと思われる。


 リリアンナも笑みを張り付けたまま、何とか体裁を保っている状態だ。


 この場にはオルフェウス侯爵一家に加え、国王夫妻にエドワード、そして婚約者が決まらない兄を心配していたルイスが同席しているが、既に彼らは、イリーナがリリアンナの崇拝者であることを確信していた。


 アルフレッドはそれを、当然のことだと言わんばかりに満面の笑みを浮かべているのだから(たち)が悪い。


 そんなカオスな状況の中、エドワードの父であるフォレスト国王は軽く咳払いすると、今回の面会の原因となった魔道具について切り出した。


「ラドリス公爵、例の魔道具だが……」

「はい、こちらでございます」


 ラドリス公爵が、テーブルの上に封印術式が織り込まれた布に包まれたものを置き、それを広げると、懐中時計に似た見た目の魔道具が現れる。


 それを手に取ることなく凝視したリリアンナは、魔道具に刻まれた術式をそう間を置かずに読み取ると、ゆっくりと顔を上げた。


「これは、五年前に私が無力化した魔道具に使われていたものと同じ術式が使われています」

「ならば、無力化する術式をランメル王国に提供すれば、一応は解決か」

「はい、賊がこれを改良したものを隠し持っている可能性は否定できませんが、この魔道具に関してはそれで問題ないかと」


 その言葉に、ラドリス公爵とイリーナが一応の安堵を見せる。


 無力化する為の術式は難易度の違うものが五つあるが、当然難易度が高いほど効果が高い。


 それらは全てこの魔道具に対応しているので、各自で使いこなせる難易度のものを習得すれば、それで取り敢えずは対応できるだろう。


 相手がそれで対応できない魔道具を持ち出してきた時は、その都度解決するしかないのが頭が痛いところだが。


「一瞬見ただけで術式を理解するなんて素晴らしいですわ。しかもオルフェウス侯爵令嬢は、初見でこれの弱点を見抜き、その場で無力化の術式を組み上げられたのでしょう? 誰にでもできることではありませんわ」

「そうなんです。妹は本当に素晴らしいんです。こんなに可愛くて美しく、それでいてずば抜けて優秀で天才な天使なんて他にいませんよ」

「本当ですわ。儚げで清楚可憐で、妖精姫と称されるのも納得の美しさで、同性の私ですら庇護欲をそそられ守ってあげたくなるのに、こんなに素晴らしい才能をお持ちなんですもの」


 うっとりとしてリリアンナを称賛し始めたイリーナに、アルフレッドが負けじと同調し力説する。


 しかも内容がおかしい上に、次第に語彙力までおかしなことになり始めている。


 二人は周囲を置き去りにしてこのままリリアンナを褒め称え続けるが、敢えて誰もそれを止めることはなかった。


 リリアンナは遠い目をしそうになるのを我慢していたが、他は二人の相性を確認していたのだ。


 魔道具とその対策が今回の主な目的だったはずだが、困ったことに二の次にされてしまっている。


 無力化の術式を提供すれば一応の解決とは言え、それはそれでどうなのだろうか。


 二人の暴走を敢えて放置した結果、アルフレッドとイリーナの婚約はこの場で話が纏まった。


 幼い頃から魔法に強い関心を示していたイリーナは、高い魔法力を誇るだけでなく、魔法分野全般において天才と名高いリリアンナに憧れを抱いていたらしい。


 リリアンナについて語り尽くしたいアルフレッドとイリーナは大層意気投合し、婚約についても乗り気になったのだ。


 オルフェウス侯爵夫妻は、アルフレッドの妻になるならこれくらいでなければ務まらないだろうと考え、イリーナを逃せば本気で婚約者が見つからないかもしれないと危機感を抱いていた。


 ラドリス公爵は、魔法の名門であるオルフェウス侯爵家との縁を繋ぐことを強く望んでおり、両者の思惑が見事に一致した結果、勢いで二人の婚約を推し進めたのだ。


 イリーナの本音は「リリアンナ様と義理の姉妹になれるなんて、こんなに素晴らしいことはありませんわ!」という言葉に込められていたが、それは深く考えないことにされたのである。


 後はランメル王家に報告した上で正式に婚約を結ぶ運びとなり、一度帰国し正式な書類が整い次第、改めてラドリス公爵とイリーナがフォレスト王国を訪れることになった。


 その後、この二人の婚約が切っ掛けとなり、エドワードの妹である第一王女のレイチェルと、ランメル王国の王太子ミハイル・ランメルとの婚約が結ばれることになる。


 アルフレッドとイリーナの婚約式にランメル王家を代表して出席したミハイルは、この機会を逃さずフォレスト王家とも面会を果たした。


 この時に一歳下のレイチェルとお互いに一目惚れし交流を深めた結果、性格的にも相性が良かったことから、出会いから半年後に婚約が成立したのだ。


 思わぬ形で成立した二組の婚約が、リリアンナの精神的なダメージの上に成されたことを知るのは、フォレスト王家とオルフェウス侯爵家の関係者のみである。

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