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41.婚約を希望しているそうです

 今後に関して最低限の必要な話が終わったかと思うと、エドワードは更に別の件を追加してきた。


「三日後、隣国ランメル王国からラドリス公爵が次女のイリーナ嬢を連れて我が国にやって来ることになっている。魔法を無効化する魔道具を使う賊が現れたらしくてな」

「魔法を無効化する魔道具って、リリィが無力化したあれか?」

「そうだ、リリィの名が大陸中に広まる切っ掛けになったあれだ」


 エドワードとアルフレッドが、揃って深く溜息を吐く。


 それをリリアンナはムッとした顔で睨み、軽く頬を膨らませた。


 今から約五年前、十一歳になったばかりのリリアンナは、家族揃って登城したところで王宮を襲撃しようとした十数人の賊に遭遇し、巻き込まれることとなった。


 白昼堂々の犯行に、オルフェウス侯爵一家揃って騎士達の後方で迎撃に備えていると、突然奇妙な波動を感じた。


 急ぎ探知魔法を発動しその正体を探り、直ぐにそれが魔法を無効化する魔道具だと気付いたリリアンナは、その脆弱な部分を見抜き、その場でそれを無力化する術式を作り上げ、実行するという離れ業をやってのけたのだ。


 幸い、その魔道具は精度が低く、フォレスト王国の高位貴族相当の魔法力を有する者には通用しない程度の物でしかなかった。


 多少不快感を感じる程度で、難なく魔法を行使できたので、賊を制圧するのに何の障害にもならず、直ぐに騒動は沈静化した。


 フォレスト王国に比べ魔法力の劣る他国では有効かもしれないが、この国では大した脅威にもならなかったのだ。


 当然それは騎士団に押収され、魔法省に調査の為に回されたのだが、そこでリリアンナの悪い癖が出た。


 あまりにも稚拙な魔道具に眉を顰めたかと思うと、オルフェウス侯爵一家の魔法すら無効化する魔道具を作り上げたのだ。


 更に対処方法が必要だと言わんばかりに、それすらも無力化する術式を作り、それを何度か繰り返した。


 それに魔法省は勿論、王宮やオルフェウス侯爵家が頭を抱えたのは言うまでもない。


 流石に危険だと魔道具とそれに使われた術式は破棄され、魔道具を無力化する術式だけが残された。


 この件に関しては、関係者以外には秘匿されているが、賊が使用した魔道具をリリアンナがその場で無力化したことが広まるのは止められず、気付けば大陸中にその規模が拡大していたのである。


 大陸中に名を轟かせる魔法の名門、オルフェウス侯爵家の一員であることが、よりそれを加速させた結果だった。


 お陰で他国の王族や貴族からリリアンナへの婚約の申し込みが殺到し、その対処に追われる羽目に陥ったのである。


 公表されていないだけで当時既にエドワードと婚約していたので全て断ったが、どちらにせよ、リリアンナを娶るに相応しい魔法力を有する者は皆無だった。


 だが初めて会った時にリリアンナに一目惚れし、それ以降気持ちを隠すことなく彼女を大切にしてきたエドワードの機嫌は底辺まで下降した。


 大切な婚約者であるリリアンナを誰にも奪わせるものかと、その気持ちが暴発し、この頃から二人きりの時だけという条件下ではあるものの、頬や額ではなくリリアンナの唇に、隙あらば口付けするようになったのである。


 リリアンナはその度に顔を真っ赤にしていたが、それは彼女の所業が思わぬ形で自分に返ってきた結果でしかない。


 ある意味、リリアンナ達にとって因縁とも言える魔道具が隣国で見つかったとあって、そのことに三人の顔が険しくなる。


 リリアンナがその魔道具を無力化した話は有名なことであり、当然隣国の公爵は彼女との面会を希望していた。


 隣国との国境まで馬車で一週間は掛かるが、その連絡が三日前の今日であったことから考えて、彼らは一刻も早くリリアンナに会う為、面会の申し入れと同時にこの国に向け出発したのだろう。


「今回の魔道具の性能が前回のものと同じかどうかは、まだ分からないのよね?」

「ああ、その通りだ。仮に前回のものと同じでも、ランメル王国では充分な脅威となるはずだ。ランメル王家とラドリス公爵家だけなら問題ないだろうが、他には通用するだろう」


 ランメル王国でフォレスト王国の高位貴族に匹敵する魔法力を持つのは、ランメル王家とラドリス公爵家だけだと言われている。


 他の貴族家は魔法力で大きく劣るらしく、リリアンナ達にとって然したる脅威にならない魔道具も、彼らにとっては警戒すべき危険物なのであろう。


 その対策が急がれるのは当然のことであり、リリアンナにとっては急な訪問でも、それを非難するつもりはない。


 仮に前回より性能が向上していれば、その対処を急がなければならないのはこちらも同様なのだ。


「やはり、到着後直ぐの面会をお望みかしら?」

「ああ、できれば一刻も早くということらしい」

「三日後は学園のある日だから、授業が終わった後でも構わないのであれば、問題はないけれど……」

「そこは考慮して頂こう。父上にはそう伝えておくよ」


 エドワードの言葉にリリアンナがホッとした顔で安堵する。


 エドワードから話がきたということは、国を通じた訪問と考えて問題ないだろう。


 ならばラドリス公爵とイリーナ嬢は、まず国王に謁見することになる。


 日程の調整は、国王に任せることになるはずだ。


「王宮で面会することになるから、リリィはこちらで準備するよう手筈は整えておくよ。それから、今回はオルフェウス侯爵夫妻とアルフレッドにも同席してもらう。侯爵夫妻は既にこちらに向かってるから、アルフレッドも準備してしておいてくれ」

「俺もか?」

「ああ」


 まさか自分まで同席を求められると思っていなかったアルフレッドが、意外感に軽く目を見開く。


 そんな彼に、エドワードは何かを企むような笑みを浮かべた。


「イリーナ嬢は、来月で十七歳になるそうだ。そして、お前との婚約を望んでいるらしい」

「……は?」

「お兄様との婚約を……?」


 思わぬ言葉に、アルフレッドが目を丸くしたまま固まる。


 本来ならば、貴族令嬢にとって最大級の優良物件であるにも拘らず、リリアンナへの溺愛ぶりに引かれ、アルフレッドへの婚約申し込みは皆無だった。


 そんな兄に突如降って湧いた婚約話に、婚約が決まらないことを心配していたリリアンナも驚きを隠せなかった。

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